クリス・ハートの歌い方を知るには、声の高さに加えて、その声を何に使うかに注目すると、理解が深まります。
強く訴えるのか、弱さを残すのか。
同じ曲の中でも、どんな感情を伝えたいかによって、求める声の表情は変わります。
さらに、低い声、近くで話すような距離、相手に応じて変える節回しにも、曲ごとの理由があります。
どんな技を使えるかより、その曲で何を使うか。
本人や共演者が明かした制作の選択から、歌い方を見ていきましょう。
「I LOVE YOU」の高音は、弱さを残すための選択
「I LOVE YOU」では、高めのキーを保ち、ファルセットを使うことを選んだと本人が説明しています。
自分の声が強く響きすぎるのを避け、性別を問わず重ねられる弱さを表すためでした。
ファルセットは、ここでは本人が用いている裏声のことです。
高音を強い声だけで満たさず、弱さを表す声として生かしています。
高い声で歌えることと、高い声で何を表すかは違います。
同じ高さでも、強く訴えるのか、不安を残すのかで、求める声は変わります。
この曲を高音の難しさだけで捉えると、その選択を見落としてしまいます。
低い声にも、気持ちをほどく役割がある
『COMPLEX』の「Breathe Again」は、高音とは別の入り口を持つ曲です。
本人は、くつろげる曲にするため、無理に高い声を使うより、福山雅治やエルヴィス・プレスリーを思わせる低い声を意識したと話しています。
高く歌い上げることだけが、気持ちを動かす方法ではない。
この曲では、声の高さを変えることが、歌の中で休める場所を作ることにつながっています。
同じ歌手が持つ低音と高音でも、担わせる役割が違うのです。
高音で切実さを出す曲の隣に、低音で落ち着ける曲がある。
声域の広さは、両端の音を一曲で披露するためだけのものではありません。
曲ごとに、聴き手との接し方を変えられる幅でもあります。

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日本語を、音と意味の両方から身につける
クリスは、日本語の歌詞カードで漢字を覚え、声に出して発音を練習し、歌詞の意味も調べてきました。
音をまねることと、意味を理解することを別々にせず、歌う中で結びつけていたのです。
加えて、ニュースやバラエティー番組で、会話の自然なリズムや、さまざまな話し方に触れていました。
教材の例文だけでは得にくい、言葉の速さや流れにも耳を向けていたといいます。
日本語の発音については、英語の発音を基準に置き換えるのでなく、日本語を話す人の感覚から捉えようとしてきたと説明しています。
一音ずつ正確に発音するだけでなく、言葉全体がどういう気持ちで口から出るかを考える姿勢です。
本人にとっては、日本語で歌う方が自然だと感じるほど、長く歌ってきた言語でもあります。
英語の歌い方を日本語に移した、と一括りにするより、日本語の歌そのものを通して身につけた感覚を見る必要があります。
「home」の夕暮れの色を表す言葉も、辞書の意味だけではつかめませんでした。
仕事を終えて商店街を歩く中で、家族のために一日を過ごした気持ちまで含むのだと気づいたといいます。
言葉が、自分の経験のある景色に変わったのです。
歌詞が分かっていることと、その言葉を今ここで言う気持ちになれることは、少し違います。
彼の場合は、発音の練習の先に、実際の生活や情景への理解がありました。
それが、言葉を一つずつ説明するように並べるのでなく、一つの思いとして歌うための支えになっていると考えられます。
近くに届かせる歌は、録り方から変える
『Christmas Hearts 2』の録音では、曲に合わせて吸音パネルの配置も変えています。
バラードではパネルを自分に近づけ、空間を狭くしました。
声の印象を、歌う側の力加減だけで決めているわけではありません。
マイクに近い歌は、遠くへ声を飛ばす歌とは、聞き手との距離の感じられ方が変わります。
小さな声を単純に弱い歌と考えるより、どこにいる人へ届けたいのかを見る方が、録音の狙いを捉えやすくなります。
同作の「チキンライス with Tsukiko Nakamura」でも、装飾を増やすことを優先しませんでした。
フレーズを短くする案を出し、歌の物語に合う表現を求めています。
歌い足せる場面で、あえて足さない判断もあるのです。
本人は、練習で技術を身につけておくからこそ、録音では物語に集中できるとも話しています。
長く伸ばす声には、その感情にとどまらせる力があります。
一方、短く切り上げれば、次の言葉へ進む余地が生まれます。
どちらが上手な歌い方かではなく、今の言葉をどう受け渡したいかという違いとして考えられます。

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デュエットでは、相手の声が次の歌い方を決める
May J.との「ロンリー・チャップリン」では、違う種類の柔軟さが必要でした。
May J.は、自分がメロディーを装飾して歌っても、クリスならそれに合わせられることを、共演を望んだ理由に挙げています。
原曲より高いキーでの制作にも、その対応力が生きていました。
フェイクとは、ここでは、もとの旋律に節回しや音の動きを加える歌い方です。
自分だけが自由に動けばよいのではなく、相手の変化を受けても曲として続けられることが、この共演では大切でした。
一人で決めておいた節回しを最後まで再現するだけでは、相手とのやり取りにはなりません。
相手が加えた音や表情を受けて、自分の声の置き方を変える。
ここで求められる高音やフェイクの技術は、相手と会話を続けるためのものでもあります。
「WE are FAMILY !」では、さらに大勢で歌う声へと広がります。
本人は、デモのモータウンを思わせる雰囲気からハーモニーが必要だと考え、終盤にゴスペルのコーラスを取り入れたと説明しています。
友人のゴスペルグループの録音も、ソウルバーで行われました。
一人の声を完成させるだけでなく、みんなで歌いたくなる形を作る。
そう考えると、彼の歌の温かさには、声質だけでなく、どんな声と一緒に鳴るかを選ぶ判断も関わっています。
独唱、デュエット、コーラスでは、同じ歌唱力の使いどころも変わるのです。
高音を出せるから高音を使い、装飾できるから装飾する、という順序ではない。
曲の中の感情や、目の前の相手が先にいて、そのための声を選ぶ。
クリス・ハートの歌い方を知る手がかりは、その選ぶ順序にあります。
歌声が形になり、制作の幅が広がるまでの歩みは、クリス・ハートの歌唱変遷でたどっています。

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あの迫力を支えているのは、強く張る技術だ…



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