AKANE LIVの歩みをたどると、高い声を思う存分に使えるようになった後に、別の課題が現れてきます。
強い伴奏の上で声を響かせることと、少ない音の中で気持ちを伝えることは、同じ得意技だけでは済まなかったのです。
LIV MOONとソロを行き来する間に、どの高さで歌うか、どの声を残すかという選択が変わっていきました。
ソプラノの持ち主が、男役で低音を育てた
宝塚歌劇団で男役を務めていたAKANE LIVは、もともとソプラノを得意としていました。
しかし、男役として歌う機会の多かった低音も、そこで広がったと振り返っています。
後のLIV MOONでは、声を重ねる際にも、その低音が役立ちました。
退団後に英国でオペラやクラシックを学ぶと、今度は地声も使いたくなったといいます。
その両方を生かせそうな音楽との出会いが、NIGHTWISHの「The Phantom of the Opera」でした。
ターヤ・トゥルネンが演じる女性は、怪人に負けない力を持っていた。
自分に近い歌唱の背景を持つ声が、激しい音の中でも存在感を放つことが刺激になったのです。
2009年秋、舞台活動と並行してLIV MOONが始動します。
LOUD PARKでのライブを経て、同年12月には『DOUBLE MOON』でアルバム・デビューを果たしました。
2009〜2012年――メタルに合わせる試行から、役を演じる歌へ
最初から、LIV MOONで使う声が決まっていたわけではありません。
「DOUBLE MOON」では、キーや声色を変えながら七、八通りを録音。
オペラ風の声も、悪魔を思わせる声も試す過程で、西脇辰弥との間に声への理解が育ちました。
後半に制作された「ESCAPE」「A Wish」は、その理解が曲に反映されたため、録音も進めやすくなったと本人は語っています。
低い声も、早い時期からLIV MOONの一部でした。
2012年の『SYMPHONIC MOON』を聴いた批評ブログ「METALGATE」の筆者は、低音が前に出る反面、オペラ的な歌唱をもっと聴きたかったと評しています。
親しみやすくなったと捉えるか、持ち味が控えめになったと捉えるか。
使う声の比重によって、同じ歌手への期待にも違いが生まれていました。
2012年の『THE END OF THE BEGINNING』では、舞台とメタルを分けて考えていた姿勢にも変化が表れます。
共通する表現をもっと持ち込みたいと考え、タイトル曲では一人で七人のキャラクターを担当しました。
歌う時の表情まで変わるという本人の話からも、音を高く出すこと以上に、声の持ち主を演じる意識が見えてきます。
同作の公演を追った桂伸也の記録にも、その演じ分けが残っています。
「The End of the Beginning」で歌姫から悪魔、妖精、小人や巨人へと役を移し、複雑な展開を一人で進めていたというのです。
録音で作った複数の人物を、舞台の上でも一人の歌い手が引き受ける。
LIV MOONの歌唱と演劇が接近していった時期です。
本人にも、メタルの型を強く意識する段階から、自分の舞台経験を生かす段階へ進んだ実感がありました。
三作を通じて手探りを重ねたからこそ、ミュージカル出身の自分にしかできない表現を選びやすくなったのです。

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2013〜2014年――ポップスで見つけた、中音域の地声
ソロ活動でJeff Miyaharaと組むと、声の見せ場の考え方が変わりました。
それまで重視していたのは、サビで伴奏と一緒に突き抜けること。
対して「NIGHT PARADE」では、音数の少ないAメロから聴き手を引き込む必要がありました。
本人は、この制作で中音域を鍛えられたと話しています。
2014年のソロ・アルバム『LIV』には、きれいに整えることを見直す経験もありました。
録り直したいと思った部分を、羽毛田丈史は、少しざらつきがあるからこそニュアンスが伝わると受け止めたのです。
欠点だと思った声が、曲の表情になる。
制作相手が変わったことで、自分の声を評価する物差しも増えていきました。
「Sunrise Over Sea」では、高音や技巧を前面に置かず、自然な表現に近づくこと自体が挑戦でした。
サビをすべて地声にする案もありましたが、曲に欲しかった柔らかさを考えてキーを選び直しています。
強さで人を引っ張る歌から、そばで支える歌へ。
声の力をどう使うかという変化が、具体的な選択に表れました。
2016年――揺れを抑え、囁きで人形を演じる
『R.E.D』の「EYES OF MARIONETTE」では、高音を目立たせるためのビブラートを、あえて抑えました。
壊れた人形の不気味さを出すため、西脇と相談し、マイクの近くで囁く歌い方を試したのです。
得意な響きを足すだけでなく、引くことで人物を立ち上げる発想が、ここでは重要になりました。
2016年12月の原宿アストロホール公演でも、この曲の声色は周囲の曲と違っていたと、大橋美貴子は記しています。
勢いのある曲が続く中に、人形を演じる場面が入り、その後には力強いバンドの展開が戻ってくる。
録音上の変化にとどまらず、異なる声でライブ全体の場面を切り替えていたことが分かります。
2022年――低音を、メンバーの曲で生かし直す
『OUR STORIES』は2022年12月、フル・アルバムとして約十年ぶりに発表されました。
従来からの作家に加え、ベースのMASAKIやギターのKENTAROも作曲に参加。
一緒に演奏してきたメンバーが、曲を作る段階から声の出番を考える体制になっています。
本人が求めたのは、生のバンドの音を中心にした作品でした。
歌についても、従来多く使ってきたソプラノに加え、低い声で強く届く曲を希望します。
KENTARO作の「Addiction」は、その要望から生まれた一例です。
演奏側のキーとの兼ね合いを考えながら、その中で自分の声を表すことも新たな課題になりました。
男役で培い、初期から使っていた低音を、今度はメンバーの新しい曲で生かす。
この変化は、突然低い声が出せるようになったという話ではありません。
誰と曲を作るかが変わることで、持っていた声にも新しい出番が生まれたのです。
2024年――クラシックと歌謡的な旋律が、同じ作品に並ぶ
『CIRCLE OF LIFE』には、プッチーニのアリアを取り上げた「Nessun Dorma」と、歌謡曲風の旋律を持つ「CRAVING」が収録されています。
井上光一は、この異なる二曲を、多彩な表現が表れた例として挙げています。
クラシックで学んだ歌と、それ以外の曲に向き合ってきた経験が、一枚の中に置かれているのです。
低い声を使う曲が増えても、オペラの背景を捨てたわけではない。
新しい表現を取り入れながら、以前からの持ち味も使い続ける歩みが、選曲にも表れています。

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舞台とバンドの経験を、次の歌へ持ち帰る
舞台に目を向けると、2022年のミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』でも、歌の関係性を深める作業が続いていました。
演出の石丸さち子は、AKANE LIVが演じるトウとユリアの二人で歌う曲について、初演の経験を踏まえ、声がより寄り添う方向を目指していると語っています。
一人で多くの声を演じる場面と、相手の声と関係を作る場面。
舞台とバンドを並行する中には、異なる歌の課題があります。
2025年のLIV MOON『The Land of Spirits』は、古代ケルトの女王ブーディカを主題にした作品です。
物語を歌う活動は、こうして次の題材にも続いています。
AKANE LIVの変遷は、声を上へ上へと伸ばしてきた道のりだけでは捉えられません。
中音域に向き合い、ざらつきを残し、揺れを抑え、低音の役割を広げてきた。
何を歌うかが変わるたびに、得意な声との距離も変える、その選び直しに歌の奥行きがあります。
曲ごとの発声や声の使い分けは、AKANE LIVの歌い方で詳しく扱っています。

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