森久保祥太郎の歌には、ざらついた声で気持ちを押し出すロックの強さがあります。
ただ、その歩みは、年齢とともに激しさを弱めてきた歴史ではありません。
昔の曲を違う気持ちで歌い、他の作り手の発想を取り込み、話すような歌にも自分を見つける。
強い声を保ちながら、歌える表情を増やしてきました。
「Ride Free」/2008年のスタジオ録音。
初期から、叫ぶだけの歌手ではなかった
2001年からソロ作品を発表し、2008年にはランティスでの活動を始めた森久保。
2011年6月の恵比寿リキッドルーム公演でも、「Ride Free」などの重い曲に加え、「Home sweet home」で場を落ち着かせ、シャウトやラップを交える歌を聴かせていました。
柔らかな場面と激しい場面を行き来する力は、この頃からあります。
当時、森久保が大切にしていたのは、バンドと一緒に届ける歌でした。
2012年の「Mr.CLOWN」発売イベントでは、伴奏音源を使う店内ライブでは自分の魅力が十分に伝わらないと思っていた、と話しています。
それでも、生で歌うことに意味があると考え直して出演した。
歌の届け方を見直す姿勢も、早くから見えていました。
ここを出発点にすると、その後の変化を捉えやすくなります。
最初は力任せで、後から表現力を身につけた、という区切り方ではありません。
すでにあった歌の幅を、自分でどう捉え直したかが重要です。

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2014〜2015年――昔の歌に、今の自分で向き合う
2014年、40歳の森久保は、27歳で出した『髄』の曲を歌い直しました。
かつて眉間に力を入れて叫んだ歌を、周りを見ながら笑顔でも歌える。
同じ言葉に向き合う気持ちが変わり、本人は余裕を感じていました。
長い休みを取って学ぶ時間のない中、制作を通して自分に刺激を与える試みでした。
歌い直した曲は、2014年の二枚の『TRIBALISM』に入っています。
『sunrise side』には「臆病者 Я」「Power Я」「Rainy day Я」、『sunset side』には「Moon Light я」などを収録。
いずれも2001年の『髄』にさかのぼる曲で、新曲と共に再び作品の中へ置かれました。
昔の曲名を見かけた時は、この再録と最初の録音を分けて捉えることが大切です。
「Power Я」/2014年の再録。
歌詞を変えなくても、歌う人と歌詞の距離は変わります。
若い時の切実さを、その時と同じ表情で再現することだけが、昔の曲を大切にする方法ではない。
過去の自分を知ったうえで今の声を乗せることにも、歌い直す意味があります。
2015年には、R・O・Nとの「FOCUS」を経て、井上日徳と「PHANTOM PAIN」を制作。
一人で作り切ることにこだわらず、共作も自分の表現だと思えるようになっていました。
2017年――自分の情熱を、客席の声へつなぐ
2017年の「FIRE」は、創作をいったん休んだ後に生まれました。
再び曲を作り、ライブをしたい気持ちを、飾りすぎない言葉へ変えています。
今回は客席に歌ってほしい追いかけの部分も、歌詞カードに記しました。
自分が歌い切るだけでなく、聴き手の声を呼び込むことを、作品の段階から考えた曲です。
強い声には、聴く人を圧倒する働きも、一緒に声を出すきっかけになる働きもあります。
「FIRE」で目を向けたいのは後者です。
歌い手が熱を出すところと、客席がそれに返すところ。
短い言葉のやり取りがあることで、力強さが一人の中で完結しなくなります。
別の活動で、自分の声を別の位置に置く
Shinnosukeとのユニット、buzz★Vibesも、ソロと並行する大切な経験でした。
2018年の作品について、森久保は、ソロとは異なる気持ちから自然に歌声が変わると説明しています。
「Screamin’ 2nite」では、普段と違う言葉の乗せ方にも挑戦しました。
同じ人の声でも、歌の目的が変われば表情は変わります。
翌年、森久保はこのユニットを、自分の目指すものへ突き進むソロとは違い、相方やスタッフの考えも受け入れる場として捉えていました。
想像していなかった方向へ進むことも含めて、活動の面白さになっていたのです。
この時期を、ソロのロックがファンクへ置き換わった時期とするのは違います。
二つの活動は並行しています。
一つの歌い方を捨てるのでなく、別の曲作りの中に自分を置き、新しい反応を引き出す経験でした。
「Screamin’ 2nite」/2017年の先行配信版。
2020年――「I’m Nobody」で見つけた、話すような歌
2020年の「I’m Nobody」は、『天晴爛漫!』のエンディングとして、アコースティックギターを生かしたカントリー調を求められました。
当初の案は加工しすぎたため、より素直な音へ作り直しています。
そこで生まれた、拍に乗って話すような歌を、井上も新しい引き出しと評価しました。
森久保自身は、今の年齢だから自然にできたと感じています。
曲からの要請が、新しい歌い方を引き出しました。
しかし、同年の次作「WAY OUT」では、再び重い音と鋭いラップへ向かいます。
コロナ禍の街で感じた戸惑いから、自分の出口を探す気持ちを曲にしたのです。
一方、同じシングルの「Alright」には、自分にも人にも安心を届けたい思いを込めました。
話すように歌えるようになったから、強く歌わなくなるわけではありません。
力を抜いて見渡す時もあれば、どうしても押し出したい言葉を抱える時もある。
この年の作品を並べると、変化は声の強弱の一方向には進まず、曲に応じて選べる幅として残ることが分かります。
2021年以降――自分の原案を、完成形と決めつけない
2021年の「Realize」は、ギターを弾きながら歌える曲として作り始めました。
ところが、井上の編曲で、当初のデモにはなかったラップも加わります。
「哀れDESIRE」でも、重なる声や加工が加わったことで、初めに想像していた歌の景色が変わりました。
作曲した本人の中だけで、歌い方が決まっていたわけではありません。
2022年のアルバム『X-FADE』には、小林太郎、ZAQ、中土智博ら、異なる作り手との曲が入っています。
それまでの井上との楽曲に加え、R・O・Nが編曲した「Face 2 Face」も収録。
複数の作曲・編曲の発想が、一人の歌手の作品の中に並ぶ形になりました。
2023年の「MOTIVE RAIN」では、R・O・Nに自分の根にあるギターサウンドを求めています。
森久保は、彼のメロディには言葉が乗りやすく、歌を引き出される感覚があると話しました。
新しい作り方を受け入れることと、自分のロックへ立ち戻ることは、矛盾していません。

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今も残る強い声と、増えてきた歌の選択肢
2026年7月の「Lantis DAYZ」でも、「FIRE」のハスキーな歌と、「Breathing」のシャウトを交える歌が並びました。
そして最後には「I’m Nobody」。
自分の特徴を押し出す曲と、別の歌い口を見つけた曲が、同じステージに共存しています。
森久保祥太郎の変遷をつなぐのは、昔の自分を否定せず、そこへ別の歌い方を加えてきたことです。
同じ歌詞を違う心持ちで歌う余裕。
他の作り手から受け取る、予想していなかった言葉の運び方。
それらが増えても、ロックを歌う声の強さは残っています。
「PHANTOM PAIN」「I’m Nobody」「Realize」をたどると、衝動、語りかけ、編曲への応答という、歌を動かすきっかけの違いが見えてきます。
曲ごとの声の使い分けは、森久保祥太郎の歌い方で掘り下げています。







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