チャド・クルーガーの声を説明するとき、まず浮かぶのは太さとざらつきでしょう。
ただ、その印象を強く出そうとして、すべてを大声で押し切ると、ニッケルバックの歌にある起伏は見えにくくなります。
本人は曲のキーを声に合わせて動かし、録音では声を重ね、別の歌い手との掛け合いも使ってきました。
強い声があることと、その強さを曲の中でどう生かすか。
この二つをつなぐと、チャドの歌い方が具体的になります。
ざらつきは、いつでも同じ強さで出すものではない
本人は、力を込めるとあの荒い響きになると説明しています。
一方で、休みの後にはもっと澄んだ感じになり、少し柔らかく歌おうともしていました。
一種類の音しか出ない、と考えるのは違います。
押し出す程度を変える余地が、本人の感覚の中にもあります。
ライブの音響を担当したケヴィン・ザルクは、声が大きく明瞭で、特定の帯域に強い存在感があると話しています。
そこを削りすぎると鈍くなり、残し方によっては耳にきつくなるため、ミキサーの選択も重要でした。
客席へ届くざらつきには、本人の声だけでなく、それをどう拾い、どんな輪郭で届けるかも関わっています。
声に含まれる荒い質感と、録音や拡声の仕上がりは、同じものとして扱えません。
耳に強く届く声だからといって、喉のどの部位をどう動かしているかまで決まるわけでもない。
ここで手掛かりにしたいのは、身体の仕組みに名前を付けることより、強さを調整して曲の中へ置く選択です。
高いサビだけでなく、低い節も届くキーを探す
録音時のキーについて、チャドは高いところがきつければ少し下げ、節が低すぎず、サビが高すぎない位置を探すと説明しています。
歌う位置が定まってから、それに合うチューニングのギターを選ぶ。
重いギターに歌手がひたすら合わせるのではなく、歌の上下を考えて楽器側も調整していました。
サビの最高音だけを基準にすると、節の言葉が低い場所へ沈みすぎることがあります。
逆に節を出しやすくすれば、サビの負担が増える場合もある。
一曲には、始まりから山場までの高さの幅があります。
その幅全体で声が働く位置を探すことが、低いところの厚みと高いところの勢いを両立させる前提になります。
たとえば「This Means War」では、七弦ギターを低く調弦した重さが使われています。
ただし、ギターの低さをそのまま歌声の低さと考える必要はありません。
本人が説明しているのは、楽器の設定と歌の上限・下限を一緒に動かす作り方です。
高音の能力だけでは、この調整を捉えられません。

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本番前には、声を温めることも本人の習慣です。
2017年の新作を準備していた時期の取材では、およそ十五分の声の運動をして、望む響きへ整えると話していました。
ステージでいきなり荒い声を出す姿だけを、歌い方の全体像にはできません。
一人の声の強さと、重ねて作る厚みを分ける
『The Long Road』の録音では、基本の歌をモノラルで収め、サビでは重ね録りをしていました。
エンジニアのジョーイ・モイによると、必要な層の数は曲次第で、ハーモニーに空間的な効果を加える場合もあります。
サビが大きくなる感覚のすべてを、一度の発声の大きさに置き換えることはできません。
同じ旋律を別に歌って重ねると、一人で一度歌った音とは違う密度が生まれます。
そこへ異なる高さのハーモニーを足すことと、本人が一音を強く出すことも別の働きです。
歌の厚みを考えるなら、主旋律の輪郭と、その周囲を支える声を分けて捉えると、曲が広がる仕組みを整理できます。
「How You Remind Me」では、逆に伴奏が止まる場面が歌を際立たせます。
チャドは制作前の練習でその案を試し、曲がよくなったと振り返っています。
作曲時もマイクと拡声装置を使い、相手へ届けるように歌っていました。
声を大きくするだけでなく、どの言葉を前に出すかという感覚が、曲作りから続いています。
リズムを変え、別の声を隣に置く
「She Keeps Me Up」は、女性のバックボーカルが加わるファンキーな曲です。
ここでは、チャドの太い声だけで曲の色が決まるわけではありません。
跳ねるリズムや別の声と組み合わせることで、同じ歌手が硬いロック以外の場所へ入っていきます。
一方、「Million Miles an Hour」には、録音中の冗談から生まれた歌い回しが残りました。
ライアンが出した言葉をチャドがブースで歌い、バンドが面白がった最初のテイクです。
あとで録り直しても、そのよさを再現できなかったとライアンは話しています。
細かく作り込むバンドでありながら、瞬間的に出た声の勢いも完成形へ残していました。
「Rockstar」でチャドの言葉に合いの手を入れるのは、ZZトップのビリー・ギボンズです。
別の曲でギターを録りに来た彼がこの曲を気に入り、即興的に応じる案へつながりました。
一人で声色を切り替えているのではなく、二人の存在が掛け合いを作っています。
歌う声と応じる声の役割を分けると、曲のユーモアも捉えやすくなります。
チャド自身、この曲をカントリーに近いものと考え、南部風の強いアクセントで歌ってみても、結局は自分の声に聞こえると話しています。
ジャンルの要素を取り込んでも、声の個性が消えるわけではありません。
どの響きを残し、周囲の何を変えるかが、彼の表現の幅になっています。
客席の声が入るところまで、歌を組み立てる
ライブでは、重い曲を何曲も連続させず、数曲で流れを落ち着かせ、別の方向へ動かすと本人は説明しています。
代表曲をどこに置くかも、客席が何を待っているかを考えた選択です。
一曲のサビだけでなく、公演全体にも強弱を作る。
その中では、ずっと押し出し続けることが強い歌唱とは限りません。
2022年十一月二十日のフォックスウッズ公演では、「Savin’ Me」や「Photograph」でバンドが音を引き、客席が歌う場面が記録されています。
歌手が言葉を届けたあと、同じ言葉が会場から返ってくる。
チャドの歌は、一人の大きな声で空間を満たすだけでなく、聴き手の声が入る場所を作っていました。

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チャドの歌い方を追うなら、「How You Remind Me」の歌が前へ出る構成と、「Someday」に結び付く録音の厚みを分けて考えてみる。
さらに「She Keeps Me Up」や「Rockstar」へ進むと、リズムや相手の声によって、あのざらつきの使い道が変わることが分かります。
声の持ち味を強め続けるだけでは、曲の起伏は作れません。
歌える高さを整え、重ねるところと空けるところを選ぶ。
その積み重ねが、チャドの声を単なる荒々しさ以上のものにしています。
時期ごとの選択と歩みは、チャド・クルーガーの歌唱変遷でもたどっています。

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