有村竜太朗の歌声の変遷|昔の曲を、今の声で歌い直すまで

2016年、初のソロ作品の取材に掲載された有村竜太朗 シンガー
2016年、初のソロ作品の取材に掲載された有村竜太朗

有村竜太朗の歌には、時間がたってから別の表情を見せる曲があります。
Plastic Treeの初期作を歌い直すことも、ソロの曲を異なる編成で演奏することも、その一つです。
残しておきたい感触がある一方で、今の自分だから選べる歌い方もある。
その両方を引き受けてきた歩みから、有村の歌の変化をたどってみます。

バンドの音の中に、自分の声の居場所を作る

Plastic Treeは1997年6月、「割れた窓」でメジャーデビューしました。
有村は歌とギターを担い、バンドの世界観を声で届けてきた人です。
2007年には、デビュー10周年の節目に日本武道館公演も実現しています。

少し鼻にかかる繊細な音色は、バンドの個性を決める大きな要素です。
ギターのノイズや揺らぐ音に囲まれても、歌には有村とわかる輪郭が残る。
UKロックからの影響をさまざまな形で取り込んできたPlastic Treeにとって、その声は音楽の幅を支えるものでもありました。

2011年の「アンモナイト」に入った「Thirteenth Friday」では、以前から好きだったシューゲイザーの感覚を、より前面に出しています。
有村は、好きな音をバンドで扱うことへのためらいを経て、感情を表すために必要な音楽として自然に取り入れられるようになったと話しました。
この曲では、意味をすぐに伝えるより、呪文のような旋律に合う英語の響きを求め、長谷川正に歌詞を託しています。

言葉を語る歌にも、楽器の響きになじむ歌にもなれる。
声をいつも同じ位置へ置くのではなく、曲の世界に応じて存在の仕方を変えることが、有村の表現を広げていきます。

2012年、初期作を作り直して確かめた「残すもの」

デビュー15周年の2012年には、最初のアルバムを再構築した「Hide and Seek(Rebuild)」を発表しました。
当時の不器用さも含め、曲の印象を作っている部分は大切にしながら、より良くなるならキーやテンポも見直すという制作です。
「エーテルノート」には、昔の録音では思いどおりに出せなかったバンドの感触を、改めて形にしたいという思いもありました。
昔の作品を整える際にも、曲の成り立ちを消してしまわないことが重視されていたのです。

過去の音に忠実であることと、昔の演奏をそのまま繰り返すことは、同じではありません。
どの部分がその曲をその曲にしているのかを選び直す。
この再構築は、後に有村が古い歌と向き合っていく姿勢にもつながって見えます。

2012年、初期作の再構築を語った有村竜太朗とPlastic Tree
2012年、初期作の再構築を語った有村竜太朗とPlastic Tree。
画像出典:画像掲載元

2016〜2017年、ソロで同じ歌の姿を変える

2016年、最初のソロ作品「デも/demo」が生まれます。
出発点は、バンドの作品には収まらずに残っていた曲でした。
Plastic Treeでは、仲間が関わることでデモ以上になることを求める。
ソロでは、未発表の曲に改めて向き合い、自分自身の理想を掘り下げる。
有村は、その二つの作り方を使い分けました。

「恋ト幻/rentogen」は、メロディーと歌詞のある曲を波多野裕文に渡し、アレンジを任せた作品です。
打ち込みを用いた音の中で歌うことは、有村にとっても新鮮な経験でした。
一人の作品とはいっても、すべてを自分の発想で完結させるわけではありません。
他の音楽家が作った景色に、最後は自分の歌で応えるという関係が生まれます。

恋ト幻/rentogen(2016年・公式配信音源)

2017年1月のソロツアーでは、その可能性を舞台で試しました。
アコースティックギター、ピアノ、アコーディオンによる第一部と、エレキギターやリズム隊を伴う第二部で、同じ作品の曲を演奏しています。
さらにアンコールでは、「鍵時計」と「恋ト幻」を別のバンドアレンジで披露しました。
一つの曲に一つの完成形を決めず、伴奏との関係ごと歌を置き直す公演だったのです。

ソロでは、歌を録るところや、その後の音の仕上げまで、エンジニアと二人で向き合う時間も増えました。
バンドでは他のメンバーが一緒に判断していた部分を、自分で引き受ける。
歌声が作品全体にどう収まるかについても、有村自身の判断がより直接的に問われるようになります。

「19罪」で、若い自分と今の自分が同じ曲に入る

2018年に発表した「19罪/jukyusai」は、1992年、19歳のときに初めて作った曲が土台です。
当時は自信を持てずにいた曲へ、ソロ作品を作った経験を経て、ようやく向き合えるようになりました。
若いころの言い回しを残しながら、終盤には現在の自分の視点から歌う部分を加えています。
約9分の中に、当時の感情と、それに応える後年の自分が共存する構成になりました。

19罪/jukyusai(2018年・公式配信音源)

この曲は、2019年8月の東京キネマ倶楽部でのアコースティック公演でも披露されました。
バンドの激しい音が重なる形とは異なり、内側に抑えていた熱が徐々に表に出るような演奏です。
同じ公演の「くるおし花」では、アコースティックギターの弾き語りで、切々と歌を届けていました。

曲を作った時期だけで、歌の表情が固定されるわけではない。
若い感情を後年の声で歌い、さらに編成を変えて別の角度から差し出す。
ソロでの試みは、過去の自分との距離を、その都度測り直す時間にもなっています。

2023年、内側へ向かう歌を客席へ開く

次の大きな変化が、既存曲を再編した2023年の「≒demo」です。
もともとソロ公演の本編は内へ向かう感覚が強く、アンコールでは客席と交わる楽しさがありました。
その開かれた感覚を、もっと全体へ広げたいという思いが再アレンジにつながります。
共に制作してきたギタリストのhiroを亡くし、活動を続けるか迷った時期を経て、残された音楽を仲間とつないでいく意味も持った作品でした。

同年のツアーでは、「≒jukyusai」が激しいビートで駆け抜け、客席にはタオルを回す動きも生まれています。
有村自身も客席をあおり、内面を見せるだけにとどまらない交流を作りました。
一方で、「≒nekoyume」では言葉を一つずつ丁寧に紡ぐ。
外へ熱を放つ歌と、言葉へ意識を集める歌が、同じステージで並ぶようになります。

≒jukyusai(2023年・再アレンジ版MV)

「19罪」が過去への返事を含む曲になった後、その歌を客席と共有する方法も変わった。
変化したのは曲の速さや楽器の音だけではなく、誰へ、どのように感情を向けるかという公演全体の関係でもありました。

2023年、再アレンジ作品「≒demo」の取材に登場した有村竜太朗
2023年、再アレンジ作品「≒demo」の取材に登場した有村竜太朗。
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2025年、今の声を受け入れて歌う

2025年の「春光呪文/shunkōjumon」では、曲の作り方が声の選択にも表れます。
普段のギターからの作曲とは違い、メロディーが先に浮かび、ピアノを中心に据えた曲です。
有村は、張った声で引っ張る曲にはしなかったと説明しています。
ライブで育ててから録音したこの作品を、ソロ活動の新たな段階の始まりと捉えていました。

同じ2025年、Plastic Treeのツアーでは「Hide and Seek」と「アンモナイト」を取り上げました。
有村は、年齢や経験に伴って声も変わり、表現に深みが出たと受け止めています。
そこで考えたのは、昔と同じ声を再現することより、現在の自分がその歌をどう歌うかでした。
答えは先に決めきるものではなく、公演を重ねる中で実感としてわかっていくものだったのです。

ソロの2025年8月・新宿LOFT公演でも、原曲と再アレンジ曲は単純な対立ではなくなっていました。
「≒jukyusai」では手持ちのマイクで客席と声を交わし、新曲の「春光呪文」ではピアノと歌が別の景色を作る。
これまで試してきた複数の表現が、今の公演を組み立てる選択肢になっています。

有村の歩みをたどると、昔の曲を歌うこと自体が、新しい表現を生む場になっているとわかります。
初期の感触を残すこと、自分一人の声で差し出すこと、仲間や客席と熱を分かち合うこと。
それらを選び直しながら、過去の歌を今の時間へ連れてくる。
繊細な声の印象を保ちながら、その声が向かう場所は広がり続けているのです。

曲ごとの声や言葉の扱いは、有村竜太朗(Plastic Tree/ソロ)の歌い方でも掘り下げています。

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