「Ordinary」で知られるアレックス・ウォーレンには、自分の声が好きではなかった時期があります。
憧れのポップ歌手より低い声を、持ち味として受け止めるまでには時間が必要でした。
その後の歩みで興味深いのは、力強く歌えるようになることだけが到達点ではなかったことです。
録音した歌を人前へ届ける難しさを知り、大勢に届く曲を得た後には、歌の中で扱える気分まで広げていく。
初期の曲から2026年の『WILDCHILD』までをたどると、声を好きになることと、その声で自由に表現することの間にある過程が見えてきます。
憧れた歌手と、自分の声が重ならなかった
父からギターを与えられ、音楽に親しんだウォーレンは、SNSへカバーを投稿するところから歌を届けていました。
2021年には、亡き父への思いを込めた「One More I Love You」を発表しています。
ピアノを弾きながら気持ちを書き出す時間は、自分の孤独を言葉にできる場所でもありました。
ただ、自分の声に納得していたわけではありません。
2023年の取材で振り返ったのは、ジャスティン・ビーバーやショーン・メンデスのように高く歌う人が目立つ中、自分の声はそれより低いという戸惑いでした。
ジェイムス・アーサーやルイス・キャパルディの存在が、その低さにも魅力があると感じられるきっかけになります。
独学で続けてきた音楽を、本格的に学び直す時期も訪れます。
本人が振り返るのは、最初の曲を世に出した頃から、歌や楽器、音楽理論を学ぶようになったことです。
自分が何をしているのかを理解したいという思いが、レッスンを受ける姿勢につながっていました。
憧れの人と声が違うことは、歌手として何を目指せばよいか迷う理由にもなります。
低い声にも、ポップの中に居場所がある。
彼にとって先例となった歌手たちは、その可能性を示す存在でした。
自分の声を受け入れる話と、歌について学び直す話が並ぶところに、彼の出発点があります。
持っている声を認めながら、その使い方は学んでいく姿勢です。
「Headlights」で、今の不安を歌にする
2022年の「Headlights」は、その時点の自分を歌う一曲でした。
ウォーレンは、それまでの曲が過去の気持ちを中心にしていたのに対し、この曲では現在も続く不安を扱ったと説明しています。
生活が変わっても、かつて感じた不安が消えるわけではない。
その実感を、他人にも伝わる形にしようとしました。
歌唱の組み立ても、その感情に沿っています。
「Headlights」は静かなヴァースから大きなフックへ進み、ブリッジでは自身の声を重ねる構成です。
低い声の存在感と、強く歌い上げる部分の両方が、発表当時から特徴として捉えられていました。
後のヒット曲に通じる、穏やかな入口から歌を大きくする形が既にあります。
続く「Chasing Shadows」では、捕まえられない影を追う犬の姿から、届かない承認を求める自分を重ねました。
本人が驚いたのは、親を失った経験とは異なる事情を持つ人にも、曲が届いたことです。
自分の感情を外へ出すために作った歌が、聴き手とのやり取りを生み始めていました。
ここで声の強さに役割が生まれます。
苦しかった経験を説明するだけでなく、静かに抱えていた気持ちが外へ出るところまで、一曲の中で表せる。
歌詞が自分だけの出来事から始まっていても、歌が動くことで、聴き手が自分の気持ちを重ねる余地ができます。
録音の先にあった、ライブで歌う難しさ

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一方、録音を発表することと、ライブで歌を成立させることには隔たりがありました。
2024年のウォーレンは、最初の公演では歌い方が分からず、うまく歌えない映像が広まる中で経験を積んだと率直に話しています。
その取材時点で約50公演を重ねても、まだ学んでいる途中だという認識でした。
彼が強い重圧を感じたのは、曲が喪失を経験した人たちの支えになっていたからです。
会場でも録音と同じくらい、あるいはそれ以上によい歌を届けたい。
曲の意味を大切にするほど、人前で歌う自分への要求も高くなっていました。
2026年には、ライブを楽しめるまで150公演以上かかったと振り返っています。
転機となったのは、客席の人が笑ったり泣いたりする姿を、自分でも受け止められるようになったことでした。
SNSで大勢に知られていても、舞台での経験が同じだけ積み上がっているとは限りません。
この時期の変化は、単純に声が大きくなったという話には収まりません。
自分の失敗を気にすることへ向いていた注意が、目の前の人へ歌を届けることにも向かい始めた。
その違いが、彼のライブとの関わり方を変えていきます。
「Ordinary」を育てた、小さな制作チーム
2024年の「Carry You Home」は、自身の結婚式に向けて作った曲です。
喪失や不安を歌ってきた声が、今そばにいる人への愛情も引き受けていく。
2025年2月に発表された「Ordinary」も、妻との関係から生まれた歌でした。
「Ordinary」の始まりは、仲間が持ち込んだギターの音でした。
アダム・ヤロンが弾くフレーズを囲み、ウォーレン、カル・シャピロ、マグス・デュヴァルがアイデアを出していく。
いったん夜の作業を切り上げ、翌日に続きを作りました。
声を届ける曲は、気心の知れた小さな輪の中で育っていたのです。
ウォーレンがこの歌で描こうとしたのは、天国の天使さえうらやむような愛情でした。
育ってきた環境にあるワーシップ・ミュージックの感覚を取り込みながら、特定の信仰の有無にかかわらず受け取れるラブソングにする。
個人の関係を大きな景色へ広げる、言葉の選択でした。
曲を早く出したいと考えた際には、周囲から待つよう勧められても、自分と聴き手の反応を信じて働きかけました。
以前、レーベルを選ぶ際には、無条件に褒める相手より改善点を指摘してくれる相手を求めた人でもあります。
人の意見を取り入れることと、自分の歌を信じることが、ここでは両立していました。
「Headlights」で自分の中の不安を外へ向けた声は、「Ordinary」では、相手との関係を肯定するために使われます。
同じように感情を大きく届ける歌でも、どこへ向かって歌うかが変わる。
悲しい経験から出発した歌手が、幸福をまっすぐ歌うことにも自分の居場所を見つけたのです。
『WILDCHILD』で、声が動く方向を増やす
2026年8月の『WILDCHILD』について、本人は、前作が音楽家になっていく自分だったのに対し、新作では音楽家としての自分を示せたという趣旨で説明しています。
ツアーの合間も仲間と作業を続け、長い時間をかけて仕上げた作品でした。

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その広がりを示すのが「WON’T GO BACK AGAIN」です。
本人は、これまで自分が出しそうな曲とは違うと感じていました。
ライブ前やスケートボードに向かう時に気分を上げるような曲を、自分でも作りたかった。
静かに感情を見つめるだけでなく、動き出すための勢いを求めています。
この曲では声を打楽器のように扱う要素が加わり、「EMERALD EYES」ではディスコへ、「CRY WOLF」ではゴスペルを思わせる大きな歌へと広がっています。
同じアルバムの中でも、長く伸ばして届ける歌と、リズムに乗って前へ進む歌が並ぶようになりました。
本人にとって、「Ordinary」ほどの一曲をもう一度作ることを当然と考えず、今度は何を作りたいかと問えることも自由でした。
大ヒットの後で、次の正解をなぞることから少し離れられたのです。
低い声を持つ自分がポップを歌ってよいのか。
そこから始まった迷いは、どんな感情にその声を使いたいかという問いへ変わっています。
悲しみを歌う核は残したまま、喜びや勢いにも場所を与える。
「Ordinary」の成功後に見える変化は、声の能力を一方向へ伸ばす物語より、声を置ける場所が増えていく物語です。
曲の中での高低の切り替えや、録音での声の重ね方は、アレックス・ウォーレンの歌い方で詳しく扱っています。

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