ソンバーの歌い方|裏声と歪みで、切なさを大きく響かせる

2025年10月9日、ニューヨークのPier 17に出演したソンバー。撮影:Ryan Muir/Courtesy High Rise PR シンガー
2025年10月9日、ニューヨークのPier 17に出演したソンバー。撮影:Ryan Muir/Courtesy High Rise PR

ソンバーの歌は、軽く浮かぶような裏声なのに、感情があふれそうに響くことがあります。
鍵になるのは、一人の声の出し方と、録った声をどう重ね、どう加工するかの両方です。
本人は、歌うときに感情を出し切っても、さらに先へ押し出したいことがあるといいます。
そのために加える歪みと、サビを広げる澄んだ声の層が、切なさに大きさを与えています。

軽い裏声を、厚さより広がりに使う

「back to friends」「undressed」「we never dated」に通じるのは、ファルセットを重ねた響きです。
裏声を何層にも録ることで音の広がりが生まれますが、太く重い声で埋め尽くす質感にはなりません。
高い声の細さや、透けるような感触を残したまま、歌の存在感を増しています。

その軽い響きの中で、歌われる気持ちは穏やかとは限りません。
相手を忘れられず、離れた関係へのいら立ちや後悔を抱えている。
伴奏にも声にも浮遊感があるからこそ、内側の落ち着かなさとの隔たりが生まれます。
ソンバーの切なさは、弱々しく歌うという一つの方法だけでは説明できません。

声を重ねることと、一回の歌唱で大きな声を出すことは、別の働きです。
重ね録りでは、それぞれの声が同じ旋律やハーモニーを担い、合わせたときの響きを作ります。
一人の声を太く押し出さなくても、録音全体では大きなサビにできる。
そのため、ソンバーの録音では、声そのものの軽さと、完成した歌の大きさを分けて捉えると分かりやすくなります。

歪ませた声から、澄んだサビへ

ソンバーは、自分の歌に歪みを加えることを、感情をさらに押し出すための選択だと説明しています。
歌唱で力を出し切ったうえで、それでも届かせたい強さがある。
声が何かを突き破ろうとするような響きを、録音への加工で作るのです。

本人がよく使う方法では、サビ前の歌を歪ませ、サビでは歪ませていない複数の声へ切り替えます。
ざらついた一人の声と、重なった澄んだ声の対照です。
全ての曲がこの形というわけではありませんが、本人が自分のサウンドとして意識している、大切な組み合わせです。

歪みの強さも、いつも一定にするものではありません。
ソンバーは、歌っている内容の感情の強さを、どのくらい歪ませるかにも反映させると話しています。
「we never dated」を含むアルバムの声を考えるときにも、ざらつきは単なる録音の粗さではなく、歌の気持ちを伝える手段になります。

この説明を踏まえると、録音から聴こえるざらつきを、全て喉で作った声と考える必要はありません。
歌っている段階での表現があり、その声を完成曲の中でどう響かせるかという判断が続く。
ソンバーは、その二段階で感情の見え方を調整しています。

「undressed」に残った、最初の歌

「undressed」の完成版には、自宅で最初に録った歌が使われています。
その後、演奏者がドラムやギター、鍵盤を加えても、歌を全て録り直す方法は選びませんでした。

ソンバーにとって、一人で作る時間は、自分の弱い気持ちを出せる時間でもあります。
共同制作者の力を借りるのは、その個人的な歌がある程度できてからです。

伴奏が整ったあとに、同じ気持ちで同じ歌をもう一度できるとは限りません。
最初に録れた歌を残す方法なら、曲が生まれたときの表現を軸に、周囲の音を仕上げていけます。
「undressed」は、大きな制作環境を使いながら、自室で歌った声を完成品の中心に置ける例です。
録音の規模と、歌い手が声を出した場所は、必ずしも同じ大きさではありません。

2025年12月公開の取材に掲載されたソンバー。撮影:Bryce Glenn
2025年12月公開の取材に掲載されたソンバー。撮影:Bryce Glenn。
画像出典:画像掲載元

高い声へ移る場所で、感情を動かす

「Canal Street」では、サビの旋律がオクターブをまたいで動きます。
同じように繰り返される思いを、音の高さの移動が揺さぶる構成です。
高音を一度だけ見せて終わるのではなく、上と下へ動く旋律そのものが、忘れられない気持ちを長く引き留めます。

「we never dated」でも、高い部分へ滑らかに進む旋律が目立ちます。
低いところと高いところで声の印象が変わるため、同じ歌い手のまま、曲の中に距離や明るさの違いを作れる。
最高音の数字だけを追うより、声が高い方へ向かうことで、言葉の切実さがどう変わるかに注目したい歌です。

その切り替えは、ライブにも現れます。
2025年10月10日のニューヨーク公演では、「Dime」のブリッジで、通常の声からファルセットへ滑らかに移る歌が評されています。
本人はその夜、声が十分に出ないことを観客にわびていましたが、公演を聴いた評者は、裏声へ滑らかに切り替わっていたと記しています。

同じ公演では、録音よりもギターが強く前に出るバンドの音が、歌を支えていました。
伴奏に勢いがある場面でも、高い部分を全て強い声で押し切るわけではありません。
「Dime」のように、曲の途中で声を軽くする選択が残っています。

2025年の取材に掲載されたソンバー。撮影:Morgan Maher
2025年の取材に掲載されたソンバー。撮影:Morgan Maher。
画像出典:画像掲載元

クラシックの基礎を、ポップの歌にどう生かすか

ソンバーは高校で、イタリア語やフランス語、ドイツ語などのアリアを学びました。
そこで覚えた口の形や歌唱の技術が、特定の音を出すこと、ライブで歌い続ける体力に役立ったと説明しています。

一方で、クラシックの歌い方が現在の曲にそのまま直結しているとは、本人も考えていません。
学んだものは、ライブで無理なく歌うための基礎として生きている、という捉え方です。

学校で身につけた発声の土台があり、曲では軽い裏声を使い、録音では歪みも加える。
学んだ様式をそのまま再現するだけでなく、自分の曲に必要な響きを選んでいます。
加工された歌声を聴いていると見えにくい、その手前の歌唱を支える経験です。

2026年のコーチェラで歌った「Fake Plastic Trees」でも、伸び上がるファルセットが歌の見せ場になりました。
同じステージでビリー・アイドルと歌った「Eyes Without a Face」では、より荒いロックの表情を使っています。

ソンバーの声は、軽くできるからこそ、重ねたときにも浮遊感が残ります。
感情をさらに強く出したいところでは歪ませ、サビでは澄んだ声の層へ広げる。
「undressed」に残った自宅での歌も、「Dime」で裏声へ移るライブの歌も、必要な表情を保つための選択です。
細さやざらつきを一律に整えるのではなく、その曲の気持ちを運ぶ響きとして使うところに、ソンバーらしさがあります。

静かな初期作品から、ビートの強い曲や大きなステージへ進んだ経緯は、ソンバーの歌声の変遷で追っています。

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