福山芳樹(JAM Project)の歌い方|あの熱い声を、どこで張り、どこで抑えるのか

福山芳樹のポートレート シンガー
2025年「創聖のアクエリオン」対談より。画像出典:Real Sound

「真赤な誓い」を歌う福山芳樹には、声だけで会場の温度を上げてしまいそうな迫力があります。
ところが本人は、難しい曲を録音するとき、低い歌い出しを強く歌うか、ふわっと入るかを自宅で試していました。
2025年、AKINO from bless4と歌った「創聖のアクエリオン Myth of Emotions Ver.」でのことです。

福山の歌を面白く聴くには、高い声が出る瞬間だけでなく、その前をどう歌っているかにも注目したくなります。
高いキーで激しく歌う曲もあれば、旋律を生かすために、歌い出しを飾らない曲もある。
さらに、最後には観客の声が加わることを考えて作った曲もあります。
あの熱い声を、どこで、何のために使うのか。代表曲を歌ったときの経験から見ていきましょう。

高いキーと慌ただしい録音が、バサラの無茶な歌を作った

2024年のFIRE BOMBERインタビュー時の福山芳樹
2024年、FIRE BOMBERのインタビューより。撮影:須田卓馬/画像出典:音楽ナタリー

福山の歌を語るうえで欠かせないのが、1994年に放送が始まった『マクロス7』の熱気バサラです。
バサラは、ロックバンド・FIRE BOMBERのギター兼ボーカル。戦場でも武器で相手を倒そうとせず、自分の歌を聴かせようとする主人公です。
せりふは神奈延年、歌は福山が担当しました。
物語の大事な場面を動かすのが、福山の歌声だったのです。

ただ、録音が始まった時点で、バサラらしい歌い方が完成していたわけではありません。
最初に受け取った人物設定には食べ物の好みまで書かれていたのに、どんな歌を歌う人かは書かれていなかった、と福山は振り返っています。
物語が進むにつれて、制作陣も人物像をつかみ、もっと豪快に歌おうという方向へ進んでいきました。

キーの決め方も、今から見ると大胆です。
電話でどこまで高い声が出るかを聞かれ、福山はその場で歌って答えました。
デモではもっと低かった曲も、次第に高いキーになっていったといいます。
「突撃ラブハート」は、歌の高さに合わせた結果、ギターでは弦を押さえ続けるコードが多くなったそうです。
歌う人の音域に合わせると、ギターでは弾きにくくなることもあったのです。

しかも録音には時間がなく、歌詞をその場で調整することもありました。
当時の福山には、もっと整えて歌えたはずだという心残りがあったといいます。
それでも後年には、時間をかけて音程まできれいに直していたら、バサラはあれほど無茶な人物にならなかったかもしれない、と捉え直しています。

当時の本人が直したかったところを、後になって作品の良さとして受け止めているのが興味深い話です。
周囲に理解されなくても戦場で歌い続けるバサラには、余裕たっぷりに聞こえない声が似合う。
高音の切迫感は、音の高さだけでなく、この人物の行動と結びついているのです。

「真赤な誓い」の熱唱が、すべての曲の歌い方ではない

2006年の『武装錬金』の主題歌「真赤な誓い」も、福山の強い歌声を印象づけた曲です。
原作者の和月伸宏と監督の加戸誉夫から指名を受けた福山は、原作を読み、十曲ほど作った中から、この曲を生み出しました。
あの豪快な一曲の前には、原作に合う曲をいくつも考える時間がありました。

この曲はライブでも、福山一人の歌では終わりません。
2015年のソロ公演では、「真赤な誓い」で客席の大合唱が起こり、公演の大きな盛り上がりになりました。
その前には、ピアノを弾きながら歌う「マグノリア」や、静かな曲も並んでいます。
激しく歌う場面と、落ち着いて聴かせる場面が、同じステージにあったのです。

静かな歌を聴いて、年を重ねて穏やかな歌い手へ変わったのか、と思う人もいるかもしれません。
しかし福山自身は、優しい曲が目立つアルバムを作った際にも、昔からさまざまな曲を歌っていて、自分では大きく変わったつもりはないと話しています。
JAM Projectではシャウトを担うことが多く、代表曲も熱唱の印象が強い。そのため、聴き手には一つの面が強く伝わるのでしょう。

静かな歌も、福山が以前から持っていた表現の一つなのです。
同じ歌手が、強く押し出す必要のない旋律を、どう歌うのか。
普段の熱唱を知っているからこそ、力を加減する場面にも耳が向きます。

「創聖のアクエリオン」では、張らない歌い出しを選んだ

AKINO from bless4と福山芳樹
2025年、「創聖のアクエリオン」で共演したAKINO from bless4と福山芳樹。画像出典:Real Sound

歌の強さをどう選ぶかが、具体的に分かるのが、2025年のAKINOとの共演です。
「創聖のアクエリオン」は、AKINOが2005年から歌ってきた曲。
新作アニメの主題歌として、原曲よりキーを下げ、編曲を変え、二人で歌うことになりました。

福山は先に録音されたAKINOの歌を聴きながら、自分の歌い方を試せました。
サビでは主旋律を担っていますが、本人の感覚では、二人のボーカルのうち下のパートを歌うように取り組めたそうです。
AKINOの声がどう動くか分かったうえで、自分の声を加えられたのです。

それでも、高いところだけを準備すればよい曲ではありませんでした。
福山にとってキーは高い一方、冒頭は低めです。
最初から張り切るか、柔らかく入るか。練習で迷った末に、録音では素直な歌い出しになったといいます。
福山は、それでよかったと振り返り、旋律を生かして歌い始めたかったと説明しています。

最初の一音から強さを見せるより、その旋律が自然に動き出すことを選んでいるのです。
この曲には、本人が気持ちよく歌えているつもりでも、細かな音程が合っていない箇所もあったそうです。
大きく歌える人が、入り方や音程を地道に確かめる。その準備まで含めて、福山の歌い方なのです。

「俺の歌を聞け!」の先で、みんなにも歌ってほしい

福山が強い歌声で目指すものは、自分一人が目立つことだけでもありません。
2024年のFIRE BOMBERの曲「I am a ROCK」には、観客と一緒に歌うことへの思いが込められています。

その背景には、2022年のライブがありました。
感染対策で客席から声を出せず、本来なら一緒に歌えるはずの場所で、大合唱ができなかったのです。
そこで福山は、新しい曲にはみんなで歌えるパートを必ず入れようと考えました。
声を出せなかった公演での思いを、次に一緒に歌うための曲へつなげたわけです。

バサラの決めぜりふ「俺の歌を聞け!」は、自分の歌を一方的に押しつける言葉にも聞こえます。
けれども福山は、バサラがいちばん嬉しそうなのは、目の前の相手も一緒に歌ってくれたときだと考えています。
戦う相手へも歌を届けようとする人物だからこそ、相手の声が加わることには意味があるのです。

「真赤な誓い」で客席が歌う場面も、この話と重ねて考えたくなります。
迫力に圧倒されて聴いていた人が、いつの間にか自分でも声を出している。
福山の熱唱には、難しい歌を歌い切るすごさと、聴き手まで巻き込む楽しさがあります。

熱さは、ずっと同じ強さで歌うことではない

バサラの歌では、余裕のなさまで人物の勢いになりました。
「創聖のアクエリオン」では、歌い出しを張らずに旋律を生かすことを選びました。
「I am a ROCK」では、自分の歌に観客の声が加わる場面を考えました。

福山芳樹の歌を聴くとき、高音がどこまで伸びるかは、もちろん大きな楽しみです。
そこにもう一つ、その強い声へ進む前に、どう歌い始めたかという聴き方を加えてみる。
叫びの迫力を知っている耳で静かなところを聴くと、福山が曲の中で選んでいる強さが、もっと気になるはずです。

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