佐野晶哉の歌は、音程を捉える力だけで説明しようとすると、肝心なところが残ります。
同じ声が、バラードでは親密な響きを担い、ミュージカルでは登場人物の陽気さを表す。
声の明るさや言葉の届け方を、どの場面でどう変えるのか。
グループの歌と映画での歌唱を手がかりに、その選択をたどります。
よく通る声を持っていることと、強く歌うことは違う
『トリツカレ男』の音楽を担当したatagiは、佐野の声について、高い成分の美しさと、弦を張ったような通りの良さを挙げています。
これは、高い音を出せるというだけでなく、声の質感についての言葉です。
同じ曲でも、誰が歌うかによって音楽の印象が変わることを、作り手が実感していました。
Aぇ! groupの楽曲制作に関わる川島亮祐も、佐野の声の扱いを高く評価しています。
特に挙げたのは、音程を取ることと、ニュアンスを作ることの両方。
正確に歌えるという評価に、表情を付けられるという評価が並んでいるのがポイントです。
音を外さないことが曲の輪郭を保ち、声の強さや言い回しが、その中の感情を変える。
二つを分けて考えると、声が通る歌手でも、いつも強く押し出して歌う必要はないと分かります。
本人も、カラオケ採点で100点を取るには、そのための細かな知識や歌の技術が必要だと説明しています。
一度できたから、いつでも同じ結果を出せると思っているわけではありません。
採点に合わせる歌と、曲の表情を作る歌を考えるうえで、この区別は大切です。
例えば、2023年の『千鳥の鬼レンチャン』での挑戦を振り返った池田夏葉は、十曲目で裏声から地声へ戻る際の細かな音が結果を分けたと記しています。
高い音を大きく響かせられるかだけでなく、声を切り替える途中の小さな音も問われる場面でした。
音域の広さだけでは、こうした難しさは捉えられません。
長く伸ばす音を保つことと、短い音を経て次の声へ移ることでは、注意を向ける場所が違います。
佐野の技術を見るなら、目立つ高音だけでなく、その前後で旋律をどうつなぐかも聴きどころになります。
「Never End」では、息を含む柔らかさから歌をつなぐ
「Never End」は、佐野主演のドラマ『離婚後夜』の主題歌で、2024年のシングル『Gotta Be』に収録された曲です。
グループのバラードを考えるうえで、佐野の声の役割が分かる例になります。
2025年のツアー映像作品を論じた渡部あきこは、この曲の佐野を、息遣いまで丁寧に扱う柔らかな歌唱として捉えています。
Aメロからは一人ずつ声を引き継ぎ、サビではユニゾンになる。
終盤の佐野の長く伸ばす声も、印象的な箇所として挙げられました。
ここで注目したいのは、声を長く保つ力と、近くで話しかけるような柔らかさが、別々の見せ場にできることです。
最初からすべての言葉を大きく歌えば、後で伸ばす音との違いは小さくなります。
柔らかな声を受け渡す部分があるから、全員の声が重なる場面にも、個人が長く歌う場面にも役割が生まれます。
ソロからユニゾンへ、さらに長く伸ばす声へ。
一曲の中で人数と歌の長さが変わるため、個人の声を聴く時間と、グループの響きを受け取る時間ができます。
佐野の柔らかさは、こうした流れの中で捉えると、単に声量を控えた歌という説明より具体的になります。

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役の陽気さは、普段より明るい声で作る
映画『トリツカレ男』のジュゼッペでは、佐野は普段より明るい声色を選びました。
キャラクターの顔から出てきそうな声を考え、陽気さを出すためです。
空を飛ぶ絵に合わせて歌う場面では、監督から飛んでいる感じを求められ、舞台で自分が動いて歌う時とは違う難しさも感じています。
明るい声という言葉は、単に高い音程を指すわけではありません。
歌う旋律の高さと、そこにいる人物の活発さを感じさせる声色は、別の要素です。
同じメロディでも、誰のどんな気分から出てくる言葉なのかで、選ぶ声は変わります。
冒頭の「ジュゼッペのテーマ」では、オペラに夢中になっている人物として歌いました。
佐野が、台詞より先に歌を録る難しさを振り返りながら挙げた例です。
ミュージカルの経験を一律に前へ出すのでなく、今その人物が何に夢中なのかが、歌い方を決める条件になっています。
仮歌の技巧より、話しかけるような声を選ぶ
当初は、atagiの仮歌にある技巧をまねようとしていた佐野。
しかし、上白石萌歌が歌うペチカの声を聴いて、自分も役の声を見つけることを優先しようと考えました。
上白石の側も、佐野の歌を普段より話し声に近いと受け止め、役として話せばよいのだと感じています。
仮歌は曲を覚える大切な手がかりでも、その歌い手の表情まで完成形として写す必要はない。
相手役の声を受けて、自分の歌の作り方を選び直す。
デュエットでは、ひとりで最も見栄えのする歌い方が、そのまま最良の答えになるとは限らないのです。
「ファンファーレ〜恋に浮かれて〜」は、ジュゼッペとペチカが歌う劇中歌です。
Awesome City Clubが歌う主題歌「ファンファーレ」は、そこから歌詞とアレンジを変えた別の版。
歌う人と視点の違いまで含めて、二つの曲が作られています。

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声だけの表現では、言葉の輪郭も手がかりになる
佐野はジュゼッペを、思いをはっきり言葉にする人だと捉え、一語ずつ丁寧に伝えようとしました。
声だけの仕事を経験すると、息遣いや声の高さ、張りの小さな違いまで伝わることに気づいたとも話しています。
声の演技では、以前共演した津田健次郎から、難しければ体を動かして演じるとよいという助言も受けていました。
『トリツカレ男』でも、走る場面などで実際に体を動かすと、声のトーンが自然に変わることを実感しています。
台詞で試した身体の使い方と、歌で選んだ明るい声色。
方法は違っても、どちらにも、その人物が今していることを声へ映そうとする姿勢があります。
語尾だけを飾る前に、言葉を発する人が何を見て、誰へ向けているのかを考える。
役の歌を理解する際にも、手がかりになる見方です。
人前の大きな声も、近くの人へ向ける声も
2025年には、サマーソニックのリハーサル休憩中、正門良規のギターに合わせてKing Gnuの「Vinyl」を歌う様子も、グループの公式TikTokで公開されました。
バンドの大きなステージを準備している合間に、ギターと歌で合わせる場面がある。
佐野の歌を知る入口は、採点企画や完成されたショーだけではありません。
よく通る声を、どれほど明るくするのか。
言葉を柔らかくつなぐのか、人物の感情をはっきり出すのか。
佐野の歌唱を曲ごとに見ていくと、声の能力そのものに加え、その力をどんな距離で届けるかという判断が浮かびます。
音程の確かさに支えられながら、相手や場面に応じて声の表情を変えるところに、歌い手としての持ち味があります。
こうした選択が育ってきた経緯は、佐野晶哉の歌声の変遷でたどっています。

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