ケイティ・ペリーの歌い方|発音の輪郭と、強い声を出すタイミング

2017年の取材に掲載されたケイティ・ペリー ケイティ・ペリー
2017年の取材に掲載されたケイティ・ペリー

「Firework」を書き終えた夜、ケイティ・ペリーは歌の録音を翌日にしようと考えていました。
でも、制作者はその場で仮の歌を録ることを提案します。
約10分で二、三度歌ったものを組み合わせた録音が、完成版の大部分になりました。
大きなポップ作品の歌にも、そういう瞬間が残っているのです。

声の強さは、歌い出す瞬間にもある

ケイティの声を特徴づけるのは、大きさだけではありません。
歌唱指導者のキャリ・コールは、短い音を区切って立ち上げる歌い方や、母音の発音に注目しています。
滑らかにつなぐところと、音の始まりを小さく区切るところがある。
それが、ポップのリズムに声の輪郭を与えます。
また、英語の母音を会話の発音のまま置かず、少し引き延ばすように響かせることも、ケイティを思わせる要素です。
単に音程を合わせるだけでは、同じ人物の歌に聞こえない理由がここにあります。

初期の『One of the Boys』では、言葉の途中で声の高さが跳ねる歌い回しも個性として捉えられました。
声を一本のなめらかな線にするだけでなく、跳ねたり、態度が変わったように響いたりする。
その変化が、曲の人物像を前へ出しています。

「Firework」は、歌そのものを前に出す

スターゲイトは「Firework」で、コーラスや重ね録りを足して飾るより、ケイティの歌をそのまま生かすことを選んだと説明しています。
彼らが評価したのは、整い切らない感触を含めた歌の力でした。
強さを、厚く重ねた声の数だけで考えないこと。
この曲の制作は、ケイティの声が持つ押し出しを理解する手がかりになります。

制作に関わったクリス・アノクートも、曲を書いたときの歌が大部分使われていると振り返っています。
何度も歌い込んだ後の録音に置き換えず、曲が生まれたときの表情を残す選択でした。

本人は後年、「Firework」や「Roar」について、自分を励ますためにも書いていたと振り返っています。
誰かを上から勇気づける声、というだけではないのです。
自分にも言い聞かせる言葉だからこそ、強く届けようとする歌に意味が生まれます。

2019年4月14日、コーチェラで歌うケイティ・ペリー(撮影:Kevin Winter/Getty Images)
2019年4月14日、コーチェラで歌うケイティ・ペリー(撮影:Kevin Winter/Getty Images)。
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「Harleys in Hawaii」は、サビで大きくしない

「Harleys in Hawaii」は、声の選び方を考えるのに興味深い一曲です。
軽く息を含む裏声を交えたヴァースに対して、サビでは低めの、豊かな声を置きます。
サビ前で盛り上がっても、すぐに大きく張り上げるわけではありません。
強く歌い上げる場所を後半に残すことで、それまでの抑えた声との距離が生まれる。
高く強い声を出せることと、出し続けることは別だと分かる構成です。

ケイティ自身も、この曲を気楽なパーティーで流せるような一曲として説明しています。
聴き手をずっと奮い立たせるのでなく、その場に心地よく置く。
くつろいだ曲の役割を考えると、サビを抑える選択にも納得できます。

制作では、ケイティが曲名と、その背景にある物語を持っていきました。
チャーリー・プースらとの共同作業で、その情景をリズムや韻へ組み立てていったのです。
本人は、音楽面で挑戦を促されることを楽しんだと話しています。
欲しい雰囲気を先に共有し、声が乗る言葉の流れを考える。
声色の変化も、曲の情景やリズムと一緒に捉えると分かりやすくなります。

細かい言葉も、歌を動かす力になる

「Never Really Over」では、サビの後に言葉が密集します。
次々と発音を進めることで、止まらない感じを生む。
大きなサビだけでは捉えられない、忙しく巡るような面白さがあります。

言葉をリズムへ収める魅力は、「Last Friday Night」にもあります。
出来事を列挙する短い句が、拍の中へ気持ちよく入っていく。
高音を伸ばす場面だけに耳を向けず、音節がどこで切れ、次の言葉がどう続くかに注目すると、ケイティの歌の輪郭が見えてきます。
声の勢いには、音量とは別に、言葉が進んでいく勢いもあるのです。

歌い上げたい曲と、言葉を預けたい曲

「Walking on Air」でケイティが思い描いたのは、ソウルの大きな声を持つ歌姫のような曲でした。
ディープハウスのリズムを聴いた体験から、欲しい歌の姿を決め、制作へ持ち込んでいます。
歌い上げる声は、どの曲にも同じように載せるものではなく、その一曲で目指した表現なのです。

対して「By the Grace of God」や「Not Like the Movies」を共につくったグレッグ・ウェルズは、ケイティ本人が本当に伝えたいことを取り出す感覚を大切にしていました。
目立つサビをつくることと、感情を言葉にして歌うことは、制作の中で違う重みを持ちます。

「Into Me You See」にも、控えめな歌唱の中に、以前より強さを認める評価がありました。

2009年の『MTV Unplugged』では、「I Kissed a Girl」の周囲にウッドベースやブラシの音を置きました。
歌手が出す声と、声を受け止める楽器を考え直す。
元の曲を知っているほど、その別の見せ方が気になる演奏です。

2011年のツアー取材に掲載されたケイティ・ペリー(撮影:Steve Jennings)
2011年のツアー取材に掲載されたケイティ・ペリー(撮影:Steve Jennings)。
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強い声を支える準備と、会場で届く声

本番前のケイティは、音階を上下するウォームアップを行っています。
2013年の授賞式前には、指導者から舌をもっと緩めるよう促されながら、声を整える姿が記録されました。
力のある歌を届ける準備が、力を入れ続ける作業とは限らないことが分かります。

そして、会場で聞こえる声には、音響側の仕事も関わっています。
2011年のツアーで音響を担当したピーター・ケプラーは、使用するマイクの高音の明瞭さや、声全体のバランスを評価していました。
「Thinking of You」では、ケイティがギターを弾きながら空中へ移動するため、頭に付けるマイクを使っています。
客席の歓声が大きいときも、音量で競い続けるのでなく、少し調整して待つ場面がありました。
遠くへ届く歌を、歌手が喉から出す音の大きさだけで説明することはできません。

ケイティの歌を聴くときは、声を強くする場所だけでなく、音の始まりや母音の形にも耳を向けてみたいところです。
短く区切る声と、伸びていく声。
言葉の形が変わるだけでも、同じ旋律の表情は動きます。

初期のポップ・ロックから、抑えたバラードやダンス曲へ表現を広げた過程は、ケイティ・ペリーの歌声の変遷でたどれます。

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