セレーナ・ゴメスにとって、「Good For You」は、自信のなかった声が曲の長所になった一曲でした。
2015年、本人は低めの声を気にしていたものの、この曲を通して、その声でできることに気づいたと振り返っています。
声を別のものに作り替えるより、自分の声が生きる歌を探す。
その歩みは、ささやくようなポップス、スペイン語の作品、映画の役としての歌へと広がりました。
どのような選択を重ねて、柔らかな声を表現の中心に置くようになったのでしょうか。
2013年――録音に時間をかけ、声を試せるようになる
テレビドラマで人気を得たセレーナは、歌手としても活動し、2013年に初のソロアルバム『Stars Dance』を発表しました。
「Come & Get It」を収めたこの作品は、音楽の中で自分の望む姿を具体的にしていく時期に当たります。
それ以前は、テレビの仕事と週末のツアーの合間に録音しており、歌い終えた曲がそのままアルバムに入ることもあったといいます。
『Stars Dance』では、およそ半年をかけ、制作者へ自分が聴いている音楽や求める雰囲気を伝えられるようになりました。
「Birthday」では、メロディーやハーモニーを試すこと自体が楽しかったと説明しています。
録音室で、まずやってみようと思える余裕が生まれたのです。
「Come & Get It」も、一度録って終わりではありません。
曲を受け取って歌った後、作者のエスター・ディーンに聞いてもらい、意見を受けて修正しています。
自分の好みを伝えるだけでなく、録った声を相手に返し、もう一度仕上げる。
共同制作のやり取りを通して、曲と自分の声を近づけていました。
歌手としての変化には、歌唱技術だけでなく、試す時間を持てるかどうかも関わります。
与えられた曲を仕上げるところから、自分で音楽の方向を相談するところへ。
その変化が、声の個性を選び取る前提になりました。
2015年――「Good For You」で、自分に合う声を前へ
『Revival』では、自分に合わない歌を歌ってきた経験を踏まえ、固有の声色を生かす方向を選びました。
「Good For You」の録音を紹介した際には、ようやく自分自身になれたという気持ちを表していました。
低い声の使い方と、音楽を自分で選ぶ実感が重なった時期です。
2015年公開のソロMV版。
A$AP Rocky参加の音源とは編曲が異なります。
ただし、『Revival』全体を一つの静かな表情にそろえたわけではありません。
制作終盤に加わった「Hands To Myself」では、本人が気に入っていた生意気で遊び心のある面を出しています。
一方、「Camouflage」には悲しさや空虚さも必要だと考えました。
自分らしい声を見つけることは、感情を一種類に減らすことではなかったのです。

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2017年――「Bad Liar」で、声と言葉の小さな動きを生かす
「Bad Liar」は、ジュリア・マイケルズらとトーキング・ヘッズの「Psycho Killer」を流し、そのベースの上に新しい曲を書いたことから生まれました。
セレーナたちは、その土台を利用して、別の物語を歌にしています。
本人が気に入っていたのは、曲の簡潔さと、恋の始まりの何気ない瞬間を語れることでした。
特に冒頭の小さな声の表情を挙げ、一般的なメロディーとは違う引っかかりを面白がっています。
大きく歌い上げる場面を増やすより、短い反応や言葉の流れで人物を見せる方向が明確になりました。
低い声を使うという発見が、今度はその声で何をするかという工夫へ進んでいます。
相手を見かけた気がして、すぐに思い直すような心の動き。
小さな歌い回しを物語の出来事にできるところが、この時期の面白さです。
2019~2020年――悲しみを語る歌と、前へ進む歌
2019年の「Lose You To Love Me」、翌年のアルバム『Rare』では、自分の経験を自分の言葉で語る姿勢が強まります。
セレーナにとって、この曲は憎しみをぶつける歌ではなく、言えなかったことを伝えて、一つの時間を終える歌でした。
「Vulnerable」についても、心を開けることを強さとして捉えています。
「Lose You To Love Me」の録音では、歌い切れないこともあり、終盤の別れを告げる部分が特につらかったといいます。
一方、ジュリアとジャスティン・トランターと一緒に声を重ねる場面には、解放される楽しさがありました。
静かな個人の告白を、他の人とも共有できる歌へ広げる作り方です。
同じ時期の「Look At Her Now」では、制作が進まない中、セレーナ自身がもっと速い曲を求めました。
イアン・カークパトリックが、声を切り出した音を含むビートを出すと、セレーナとジュリアが気に入って制作が動きます。
弱さを表す歌の隣に、身体を動かす歌も置く。
本人が選ぶ表現の幅は、バラード一つには収まりません。
楽しさを先に感じていた初期を経て、制作の全体を大切にするようになったと本人は振り返っています。
『Rare』では、外からの声を入れすぎず、制作陣と集中できる環境を望んでいました。
2021年――スペイン語で歌うために、言葉へ戻る
『Revelación』は、長く望んでいたスペイン語の作品です。
タイニーと制作を進めました。
感染拡大で遠隔録音になった当初は気持ちが乗らず、作業を中断する日もありましたが、2020年の夏の終わり頃から形になっていったといいます。
録音前には、スペイン語の指導と歌唱の指導をそれぞれ一時間受けていました。
言語を変える挑戦を、声の準備と一緒に進めていたのです。
ここで変わるのは、曲のジャンルだけではありません。
親しんできた言語でも、歌として届けるためには、改めて言葉と向き合う必要がある。
自分らしさを知った後にも、学び直す工程が続いています。

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2024年――「Mi Camino」で、役の中に自分の声を置く
映画『エミリア・ペレス』の「Mi Camino」は、セレーナが演じるジェシーに、観客が心を寄せられる歌として作り直されました。
作曲陣は本人のドキュメンタリーを見たうえで、単に挑発的な曲ではなく、弱さと自分を愛する気持ちを持つ曲へ進めています。
役を歌う仕事にも、セレーナ自身の持ち味が必要とされたのです。
セレーナは、撮影のたびに歌を録り、その声が映画に使われたことを喜んでいます。
完璧に整いすぎない、生々しさのある歌になったことも、本人が気に入った点でした。
映画『エミリア・ペレス』の歌唱場面からの公式抜粋(2024年)。
2025年――柔らかい声を、無理なく選び直す
ベニー・ブランコとの『I Said I Love You First』は、自宅で少しずつ制作しました。
決まった時間にスタジオへ通う形ではなく、思いついた時に集まり、短い時間を重ねて歌を作っています。
セレーナは、ベニーが自分の話を聞き、感情を音楽へ移してくれたことを大切にしていました。
本人が改めて挙げた強みは、物語を伝えること、低めの音域、そして柔らかな声でした。
別人のように聞かせようとせず、その声が心地よく収まる形を、ベニーと探しています。
同作には、奔放で遊び心のある「Sunset Blvd」と、静かに内面を見つめる「Younger And Hotter Than Me」が並びました。
セレーナは、どちらも自分たちの大切な側面として紹介しています。
初期の録音で試す余地を持ち、低い声への戸惑いを越え、その声で語れる物語を増やす。
セレーナの変化は、曲に必要な親密さや遊び心を、自分で選べるようになる過程として見えてきます。
柔らかさは、いつも同じ気分で歌うための型ではなく、さまざまな感情を差し出すための土台になりました。
声の強さや言葉の運び、録音での使い分けは、セレーナ・ゴメスの歌い方で詳しく見ています。

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