高橋李依の歌声の変遷|「自分の声」を探す歌から、声色を変える自由へ

高橋李依(2023年掲載) シンガー
高橋李依(2023年掲載)

高橋李依は、ソロでは声色を変えてはいけないのだろうか、と考えていました。
役に合わせて歌ってきた声優が、自分の名前で歌う。
そこには別の難しさがありました。

二枚目のEPでは、声を一つに揃えない選択へ進みます。
そこへ至るまでには、役を歌う経験と、自分から曲を作る経験の両方がありました。

イヤホンズで、役の声から三人の声へ

イヤホンズ(2020年掲載)
イヤホンズ(2020年掲載)。
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2015年、アニメ『それが声優!』から生まれたイヤホンズは、高野麻里佳、高橋李依、長久友紀によるユニットです。
初めは作品と役に結びついた歌を歌い、放送が終わった後も三人で活動を続けました。
歌う対象は、次第に彼女たち自身の考えや表現へ広がります。

2020年の『Theory of evolution』では、「背中のWING」や「耳の中へ」を新しく録り直しました。
高橋は、舞台で歌い続けてきた曲を、改めてアーティストとして届けられることに意味を感じています。
キャラクターの歌い方を出発点にした曲を、共に過ごした時間を持つ三人が歌い直す試みでした。

新曲「記憶」の録音では、高橋が最初に歌います。
後に録る二人へ気を遣って自分の表現を狭めるより、まず思い切ってやりたいことを入れる。
二人ならその声を受け止めてくれるという信頼が、歌い方の自由につながっていました。

翌2021年の「それが声優!2021」では、原作者で作詞家のあさのますみが、一人ずつ話を聞いて歌詞を書き直しています。
2015年のアニメ主題歌と同じ題材を使いながら、今度は声優として働く三人の思いを歌う。
名義だけでなく、声に乗せる言葉の当事者も変わっていたのです。

高木さんの歌で見つけた、力を抜ける距離

その一方、キャラクターとして歌う仕事も続いていました。
2018年の『からかい上手の高木さん』では、既存のJ-POPを高木さんの声でカバーします。
原曲は、その人物のために書かれた歌ではありません。
そこで高橋は、高木さんが友達とカラオケに行き、西片も同じ場所にいる、という場面を思い描きました。

歌手として見事に歌い上げることを、そのまま目標にはしません。
中学生の高木さんが何気なく歌う恋の歌に、聴く側がドキッとする。
その距離を見つけると、肩の力が抜けたといいます。
元気さやささやきの程度は、曲の印象を壊さないよう、フレーズごとに音楽チームと調整しました。

2020年、役の感情を守りながら歌を変える

『LISTENERS リスナーズ』のミュウでは、毎回異なるエンディング曲に取り組みました。
高橋が出発点にしたのは、ミュウ自身が音を楽しんでいる感覚です。
ロックの色が強すぎたテイクを別の方向へ振るなど、その都度試しながら、感情を優先して歌っていました。

この時期の歌を論じた音楽ライターのナカニシキュウは、多様なジャンルへ対応しても、ミュウが自分なりに歌い方を工夫している範囲に収めている、と捉えています。
声を変えられることと、何でも自由に変えることは違う。
役の歌では、変化しても同じ人物が歌っていると感じられることが大切でした。

『透明な付箋』では、自分の感情が歌の出発点になる

2021年6月、ソロの1st EP『透明な付箋』を発表します。
高橋は、自分を見つめ直したい、歌がうまくなりたいという思いを挙げていました。
作品では、忘れたくない出来事や心に引っかかった感情をディレクターへ伝え、作詞家が歌詞へ形にしています。

好んだのは、速いテンポと、ピアノやベースがよく動く音楽です。
すでにある役の性格から曲の声を探すだけでなく、自分が好きな音と、自分の中に残った思いを組み合わせる制作が始まりました。

仕事で感じた悔しさも、次の歌に残そうと考えられるようになったといいます。
必ず明るい結末へ導かなくても、感情を歌にできる。
行き場のなかった気持ちに、表現する場所ができたのです。

「不健康社会」には、共感したという声と、疲れているときに聴いて怖くなったという手紙が届きました。
同じ歌でも、聴く人の状態によって受け取られ方は変わる。
その反応も、歌うことを考える経験になりました。

役を演じる歌と、役に励まされた自分の歌

2022年の「共感されなくてもいいじゃない」は、高橋がアイリーンを演じた『悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました』の主題歌です。
ただし、アイリーン本人が歌うキャラクターソングではありません。
彼女の生き方に力をもらった高橋自身が歌う、という距離を選びました。

高音から始まる曲で、録音時にはキーを下げることも考えています。
それでも、作品の明るさに合うと判断して元のキーに挑みました。
難しさを避けるために好きな曲調を変えるのではなく、その曲を歌う理由を確かめて取り組んだのです。

役から受け取った感情を、自分の歌へ持ち込む。
声優の経験がソロの歌に生きた一曲でした。

『青を生きる』では、声を揃えることをやめた

2023年の2nd EP『青を生きる』では、「高橋李依らしい声」を探す意識が薄れ、自分はこう歌いたいという感覚が前へ出てきます。
本人は、「共感されなくてもいいじゃない」と「最つよワタシイズム」でも声が違うと説明しました。
曲ごとに変わる声を、あえて統一しなくなったのです。

二曲目の「最つよワタシイズム」で肯定した今の楽しさは、続く「反省会」で揺らぎます。
高橋は、明るい歌も、反省してしまう人の一面なのだと話しています。
曲の感情が違うことは、歌手としてまとまりがないことではない。
同じ人の中にある気分の幅を、一枚の中へ置いていました。

「BABURU」では、それまで多かった速い曲から離れ、落ち着ける曲を求めました。
ただ、大人びた気だるさへ寄せればよいわけではありません。
斜に構えすぎない感情の出し方を何度も録り、浮かぶように解放された感覚へ近づけています。

「アオハルインクルージョン」の歌については、二枚目だから試せた表現があると振り返っています。
録音の経験に加え、自分で思いを手紙にして作家へ渡し、曲が生まれたことも大きかった。
出来上がった曲を歌うだけでなく、その感情を作るところから関わることで、別の歌い方も試したくなったのです。

2026年も、高さや声色を曲ごとに選ぶ

高橋李依(2026年掲載)
高橋李依(2026年掲載)。
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2026年7月の3rd EP『黄身加熱中』にも、曲に合わせた選択があります。
「Re:You」はキーを下げると描きたい世界が変わるため、高い設定を保ちました。
一方の「ココロアダプタ」ではキーを下げ、地に足のついたロックの感覚を求めています。
高く歌うこと自体を、全曲共通の正解にはしていません。

役の歌をやめて自分の歌へ移った、という一本道ではありません。
2025年のイヤホンズ十周年にも、高橋は初期曲と歌い直した版を選び、作品から生まれたユニットの歩みを届けています。
声優であることを、活動の強みとして受け止め続けていました。

曲ごとの声の選択は、高橋李依の歌い方で、裏声や語り、音のつなぎ方から見ていきます。

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