山中柔太朗の歌声には、強く押し出すだけでは生まれない、柔らかな存在感があります。
M!LKに加わったばかりの頃から、その声はメンバーにとって新鮮なものでした。
活動を重ねる中で、自分の声をどんな表情で届けるかを考え、提案する姿勢も育ってきました。
短い決め言葉、切ないバラード、自作のソロ曲、映画の人物として歌うカバー。
その歩みをたどると、持ち味を残しながら選択肢を増やしてきた姿が見えてきます。
2018〜2019年|加入直後から、周りが手本にした声
山中がM!LKに加入したのは2018年8月です。
すでに出来上がっていたグループへ入ることには不安があり、最初は控えめだったと振り返っています。
一方、加入後のシングル「Over The Storm」では、サビ前の短い決め言葉を板垣瑞生と分け合いました。
板垣は山中のきれいな声質を認め、同じ言葉でも違って届くよう、自分の歌い方を考えていたのです。
2019年のアルバム『Time Capsule』に収めた「愛と合図」では、さらに興味深いことが起きます。
最初に山中が歌い、ほかのメンバーがその歌い方を意識して録音しました。
板垣が評価していたのは、ふわりとして平らかに運ぶ、独特の歌い方。
新入りが先輩に追いつくという関係だけでなく、新しい声から全員が学ぶ場面が、早くも生まれていました。
その年の「かすかに、君だった。」について、山中は等身大の自分たちを歌う曲だと受け止めています。
新鮮な声として加わった彼が、今度は自分の年齢や気持ちに重なる歌を引き受けていく。
等身大の青春を歌う経験も、ここで重なっていきます。
2020〜2023年|儚い声が、大きな舞台の聴かせどころになる
2020年の『Juvenilizm-青春主義-』には、山中主演のショートフィルムと結びついた「last moment」が収録されました。
別れを歌うバラードで、山中の声に漂うやるせなさが曲の切なさを深めています。
明るい曲の中で声の違いを見せるだけでなく、物語の感情を受け止める歌にも、持ち味が生きるようになります。
2021年のメジャーデビューを前に、本人は加入当時より周囲を見る余裕ができたと話していました。
経験の差に精いっぱいだった頃から、自分の考えをメンバーへ伝えられるようになった。
歌声の変化を、心境だけで説明することはできませんが、後に録音で自分の案を出すようになる背景として、この変化は見逃せません。

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2023年10月22日の初横浜アリーナ公演では、「last moment」で山中が一人、ステージの二階へ上がりました。
そこで響かせたのは、切なく儚い歌声です。
大きな会場だからといって、力強さだけで聴かせる必要はない。
山中の繊細な声を中心に据えた場面が、ライブの中に作られていたのです。
「last moment」2020年の録音版
2024年|柔らかさを生かすことと、声にクセを加えること
「ブルーシャワー」では、佐野勇斗が山中の歌にある抜け感や大人っぽさを評価していました。
山中の声が、元気な曲のアクセントになっています。
同じシングルの「Bad Liar」では、好きな桑田佳祐を意識して練習したところ、気持ちが乗ると声をがならせるクセが出て、かなり直したと明かしています。
ここには、ただ柔らかく歌う人というイメージに収まらない一面があります。
自分の好みを試しつつ、曲に必要な表情へ調整する。
声の個性をどう扱うか、具体的に選ぶ段階へ進んでいたのです。
10月の「エビバディグッジョブ!」では、一度OKが出たあと、本人から録り直しを提案しました。
桑田を思わせる歌い方を試し、その一部が採用されたといいます。
昔より自由に考えを伝えられるようになったという本人の実感が、実際の録音にも表れています。
さらに11月には、自ら作詞し、セルフプロデュースしたソロ曲「秘密のパレード〜誰もいない夢の街で〜」を発表。
幻想的な世界を一人の歌で描く仕事です。
MVも故郷・栃木のあしかがフラワーパークで撮影され、好きな景色と音楽を、自分の作品として形にしました。
12月22日の大阪城ホールでは、この曲で飾り立てすぎないファルセットを響かせ、ライオンのマスコットと踊りました。
声を大きく強くすることより、柔らかな高い声を、夢の中のような景色につなげていく。
初期からの繊細さが、ソロの舞台全体を支える表現になっていました。
「秘密のパレード〜誰もいない夢の街で〜」2024年のMV
2025年|前へ出る存在感と、静かな声を併せ持つ
2025年3月の『M!X』発売時、「イイじゃん」の見どころとして挙がったのが、センターに立つ山中でした。
本人は毎回緊張する、普段はそれほど前へ出ることが多くないと話しています。
声の繊細さを持つ人が、視線を集める役割も引き受けるようになったのです。
同じアルバムには、五人のささやくような歌が生きる「Diary」もあります。
目立つフックのある曲と、近い距離で聴かせる穏やかな曲が並ぶ。
山中の歩みを「イイじゃん」だけで見ると見えにくい、静かな声の居場所も残されています。

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2026年|役として歌う声、ひと言で曲を動かす声
映画『純愛上等!』では、髙松アロハと「鶴 and 亀」を結成し、hitomiの「LOVE 2000」をカバーしました。
山中は、自分が演じる美鶴として歌い方を少し変えたと話しています。
ソロ曲で自分の世界を描いた次には、物語の人物を声で表す。
俳優としての仕事と歌が、具体的な歌い方の選択でつながりました。
柔らかな山中の声と、明るい髙松の声が組み合わさるのも、このカバーの面白さです。
二人での歌唱は、普段の五人での活動とは違い、一人が受け持つ場面も多くなります。
山中は別グループの人と組む新鮮さを感じながら、ダンスでは相手から刺激も受けていました。
9月の「時空超えてユニバース」では、サビ前の短いセリフにも選択がありました。
別の案も録音したうえで、あえて聴き手を待たせる言葉を選んだと、山中は説明しています。
短い声を目立たせるだけでなく、その一瞬にどんな意味を持たせるかまで考える。
加入直後に決め言葉を任された頃と比べると、曲へ関わる視点の広がりが分かります。
同年秋には、ピアノを習い、譜面や音程への理解を深めたいという希望も語りました。
それによって歌い方も変わるのではないかと考えているのです。
これは習得済みの技術の話ではなく、歌をさらに知りたいという、今の本人の関心を示しています。
山中柔太朗の歌声は、柔らかさを捨てて強くなった、という一本線では捉えきれません。
繊細な声が曲の基準になり、大舞台の聴かせどころになり、やがて自分から歌い方を提案する声になる。
もともとの魅力を、どこで、どう使うかを選べるようになってきたところに、この変遷の面白さがあります。
曲ごとの声の使い分けは、山中柔太朗の歌い方で掘り下げています。

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