HACHIの歌声の変遷|誰かに寄り添う歌から、自分の弱さも打ち明ける歌へ

2021年の取材記事に掲載されたHACHIのビジュアル HACHI
2021年の取材記事に掲載されたHACHIのビジュアル

バーチャルシンガーのHACHIは、そばで心を支えるような歌を、活動の中心に置いてきました。
その歩みには、静かなバラードから表現を広げる過程と、歌の中で自分をどこまで見せるかという変化が重なっています。
その道のりを、初期の活動から『Revealia』までたどってみます。

配信から始まり、「光の向こうへ」で自分の経験を歌へ

HACHIは2019年、REALITYでの配信から活動を始め、2020年にRK Musicと契約しました。
同年7月には、最初のオリジナル曲「光の向こうへ」を発表しています。
初期から、穏やかな声と強い感情を乗せる声の両方を持っていました。
後年の力強い曲を、突然まったく別の歌手になったように捉えると、この出発点を見落としてしまいます。

「光の向こうへ」の背景には、明日を迎えるのがつらく、音楽を聴いて夜を過ごした本人の経験があります。
自分が助けられたように、誰かのそばにいる歌を届けたい。
一方、その後の「Rainy proof」では、別れの場面を考えて制作を依頼しました。
自分の経験を出発点にしながら、架空の人物の感情も歌うようになったのです。

初期からあった、ほかの声と交わる歌

2021年には、BOOGEY VOXXとのツーマンライブも経験しています。
共作曲「DOMINATOR」では、ラップのFra、歌のCiと一緒に声を届けました。
さらに、自身の「Rainy proof」も3人で歌っています。
一人の声で描いてきた曲が、別の歌声やラップと組み合わされる場になったのです。
初期のHACHIは、バラードを深める一方で、異なる表現を持つ相手と歌う経験も重ねていました。

2021年の取材記事に掲載されたHACHI
2021年の取材記事に掲載されたHACHI。
画像出典:画像掲載元

一人の夜から、いろいろな心のそばへ

最初のアルバム『Midnight blue』が寄り添ったのは、一人で過ごす夜でした。
2023年の『Close to heart』では、聴いている人の心へ、もう一歩近づくことを考えています。
作家たちにも、それぞれが思う寄り添い方で曲を書いてもらいました。
不安なときだけでなく、うれしい時間にも一緒にいられる歌へ、対象となる感情が広がっていきます。
同年の東京公演では「HONEY BEES」を客席と歌い、初めて自分の歌の合唱を現場で受け取った喜びも語っています。
配信で届けてきた歌が、目の前の人の声として戻ってくる経験でした。

同じ季節の歌を歌い分け、セッションにも取り組む

2023年の東京公演では、夏を描いた3曲について、コンセプトが違うため歌い方も変えたと説明しています。
得意な季節感を扱う曲の間でも、声の表情は同じではありません。
同じ世界観の歌を増やすだけでなく、それぞれの物語に応じて歌い分ける姿勢が見えます。

2024年2月には、ミュージシャンを招いた初のセッションライブにも取り組みました。
その演奏は『Birthday Acoustic Live』として、ミックスを施した音源にもなっています。
「Rainy proof」や「光の向こうへ」など、すでに歌ってきた曲を、別の演奏の形で残す機会でした。
新曲を増やす歩みと並行して、既存曲の届け方も広がっていました。

メジャーデビュー作で、届ける先をさらに遠くへ

2024年11月のメジャーデビュー作『for ASTRA.』では、ボイジャーのゴールデンレコードが作品のモチーフになりました。
自分の音楽を、まだ出会っていない人にも残したいという発想です。
「レコードのように」では、初めて自分で作詞にも取り組みました。
歌に込める世界を考える役割から、その言葉を自分で書く役割へ踏み出したのです。

活動の場が広がるなかでも、自分の持ち味を見せる選択は続いていました。
「KING SUPER LIVE 2024」では、勢いのある曲で会場に合わせる案もあったものの、「ビー玉」を選んでいます。
自分をよく知る海野水玉と作った曲で、普段のHACHIを伝えようとしたのです。
新しい客席へ向かうことと、自分らしい歌を持っていくことが、ここではつながっていました。

2023年「Close to heart」台北公演のHACHI
2023年「Close to heart」台北公演のHACHI。
画像出典:画像掲載元

得意な歌の外へ進むことは、迷いも連れてきた

『for ASTRA.』では、制作を支える人数が増え、HACHIは歌と曲の解釈に時間を使えるようになりました。
一方で、考える時間が増えたからこそ、何を歌っても自分では納得できない時期もあったと明かしています。
環境が整うことが、そのまま迷いの解消になるわけではありませんでした。

後に振り返った話では、2024年夏の風邪のあと、声が戻らないと感じた経験も重なっています。
特にカバーやバラード以外を歌う際、自分の歌が分からなくなったと説明しました。
バラードへの評価が、本人の中で、それ以外を歌ってよいのかという迷いにもつながっていたのです。

2026年の『Revealia』へ向かう転機になったのは、ファンから届いた言葉や手紙でした。
弱さを見せても、この人たちなら受け止めてくれるかもしれない。
そう感じられたことで、自分の悩みも作家たちに話すようになります。
曲が届き、自分の声で完成させるたびに、自分を少しずつ受け入れられたと振り返っています。
出来上がった強い姿を見せるだけでなく、迷っていた自分も作品に含める制作へ変わったのです。

『Revealia』では、歌う本人が物語の中心に立つ

これまでの曲の多くでは、HACHI以外の主人公がいました。
『Revealia』では、自分に焦点を合わせた歌を集めています。
本人が大切にしたのは、リスナーを信頼しているからこそ、隠してきた感情も伝えることでした。
寄り添う側から手を差し伸べる関係に、自分も支えてもらう関係が加わっています。

その変化は、歌い方にも表れています。
HACHIは、自分と向き合ったことで、息を含ませる声も、力強い声も使う幅が広がったと語りました。
「星を待つ」では、抜く表現を中心にしてきた自分が、全編を力強く歌う気持ちよさに気づいています。
歌えることが増えるだけでなく、好きだった強い歌を、自分の表現として選び直したのです。

原点を歌い続けながら、新しい自分を見せる

この新しい方向は、アルバム発売前の舞台にも現れていました。
2025年12月の「Unlockture」川崎公演では、「To Be Alive」や「∞」などの新曲を披露しています。
同じ公演で、活動初期の「光の向こうへ」も、今の自分の原点として紹介しました。
新しい感情を歌うことと、初めて誰かに寄り添おうとした曲を歌うことが、ひとつのステージに並んでいたのです。

2026年発表の、自分で詞を書いた「Revealia」では、隠しておきたかった部分を言葉にする苦しさも経験しました。
本人は、その作業をファンへの感謝へとつなげています。
弱さを見せることは、聴く人を遠ざける行為ではなく、信頼を伝えるための表現になったのです。
自分のことを語る難しさを越えた分、歌の中で差し出せる感情も増えました。

HACHIの歌の変化は、誰かのそばにいたいという思いを保ちながら、その関係を深めてきた歩みとして捉えられます。
架空の物語を歌う声にも、自分の葛藤を歌う声にも、聴く人へ向かう気持ちは続いています。
声の細かな使い分けは、HACHIの歌い方で、曲ごとの選択から掘り下げています。

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