ポスト・マローンの歌では、本人の発声と録音の加工を分けて捉えることが大切です。
声の揺れや裏声、共演で変わる声の質感を、曲ごとに見ていきます。
声の揺れと、音程の加工を分けて聴く
制作を担うルイス・ベルは、「rockstar」の震えるような声を、ポスト自身の歌い方だと説明しています。
一方で、録音にはMelodyneによる音程編集や、軽いAuto-Tune、特定の言葉への効果としての加工も使っています。
生声の揺れがあることと、録音が無加工であることは、同じ意味ではありません。
揺れの存在だけから機械の効果と決めつけず、音が伸びるときの声の表情と、録音全体の響きを分けて追うと、この歌声を捉えやすくなります。
声を前に出す処理と、後ろに置く声の違い
ベルの音作りでは、主旋律と背景のアドリブも、同じ質感にはしていません。
主な歌声には、音の立ち上がりや丸みを整えるコンプレッサーを使い、背景の声にはコーラス効果で別の色を付けることがあります。
聞こえる声の厚さや明るさには、このような処理も関わります。
完成音源の響きを、そのまま喉の力や息の量として説明できないのは、そのためです。
前にある言葉と、後ろに残る声を分けると、歌唱と音作りが協力している部分が分かります。

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ギターの前では、声そのものが曲を支える
「Feeling Whitney」のように、ギターを中心にした曲も大切です。
2017年のライブには、この曲と「All Apologies」を取り上げるアコースティックのコーナーがあり、現場評でも歌声の力が注目されていました。
大きなビートや客席の合唱が曲を運ぶ場面とは、声が担う仕事が違います。
少ない伴奏の中で一人の声が続くと、言葉を出した後の響きまで、歌の表情として残りやすくなります。
強い声を出せるかに加えて、その声をどこまで近くに感じさせるかも、聴く手がかりになります。
『Austin』の裏声は、声の状態と向き合う中で試された
『Austin』の制作で、本人は裏声を以前より試しました。
長いツアーの後、声をいたわる必要があったことを話し、録音用のマイクも替えています。
ここでの裏声は、単に高音を加えるための飾りとして見るだけでは足りません。
その時の声の状態で、どう曲を歌えるかを探る手段でもありました。
特徴のある揺れをずっと強調することから離れ、必要なところで表情として使うという変化も、この作品を聴くポイントです。
「Don’t Understand」と「Overdrive」で、感情の近さを変える
『Austin』の冒頭曲「Don’t Understand」は、アコースティックギターが揺れる歌声を引き立て、そこへ弦が入る構成です。
声の揺れは、音の多さで圧倒するよりも、自分を肯定できない気持ちを近くに感じさせます。
「Overdrive」では、相手に受け入れられたい思いが、切なさのある声で歌われます。
簡潔な伴奏や口笛の中に置かれるため、言葉の直接さが目立つ曲です。
声を支える音によって、感情の届き方も変わります。
同じ『Austin』でも、「Something Real」には合唱が加わり、一人で抱えた苦しみを、厚い声の響きの中へ押し広げます。
反対に「Green Thumb」は、澄んだ歌声が、落ち着いた伴奏の中で前に出る曲です。
強い歌か弱い歌かという二択ではなく、周囲の声で広げるのか、一人の声をはっきり残すのかという違いがあります。
ポストの歌の表情は、本人の音色と、声を囲む音の両方から生まれています。
自信の揺らぎは、作品に付けた設定だけではありません。
ポストは「Don’t Understand」について、自分を疑ってしまうことや、人前に立つ不安を語っています。
その背景を知ると、弱さを残す声にも理由が見えてきます。
歌の人物が何を言い切れずにいるかを捉えると、声を強くする以外の表現にも耳を向けられます。
メロディーを、出来上がった伴奏へ載せるだけにしない
『Austin』では、曲の作り方にも新しい発見がありました。
ポストは、それまで音楽が先にあり、後から歌のメロディーを考えることが多かったと説明しています。
ギターを手に、伴奏と旋律を一緒に探れることが、新しい制作の入り口になりました。
声に合う旋律を考える時間が、録音する前から曲作りと結び付いているのです。
ヘッドホンにたっぷり残響を返しながら作業した話もあり、歌う本人がどう声を聞くかまで、発想に関わっています。

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共演相手がいると、滑らかさと粗さの位置が変わる
『F-1 Trillion』の「Pour Me A Drink」では、ざらついた質感を含む声で、ブレイク・シェルトンと酒場の歌を分け合います。
一方、ルーク・コムズとの「Guy For That」では、コムズのカントリーらしい節回しに対して、ポストの滑らかな歌が対照になります。
どちらもカントリーの共演曲ですが、声の組み合わせは同じではありません。
相手と同じ粗さへ寄せることだけが、曲になじむ方法ではないのです。
声が替わるところで質感を追うと、二人が歌う意味が見えてきます。
「Never Love You Again」は、シエラ・フェレルと歌うワルツです。
また、ソロの「Right About You」は、アコースティックな伴奏の中で、比較的自然な声の表情が前に出る曲として評されています。
多数のゲストがいるアルバムでも、声の聞こえ方を比べるなら、このような曲を挟むと違いを捉えやすくなります。
ジャンルの看板より、誰と、どれだけの音の中で歌うかが、声の印象を左右しています。
同じ歌を、別の編成で聴く
2023年の「Tiny Desk Concert」では、「Sunflower」「I Fall Apart」「Circles」「Enough Is Enough」を披露しました。
ポストの声とギターに、ベルのピアノ、リズム隊、弦、複数のコーラスが加わっています。
伴奏をすべて省いた独唱ではなく、生楽器と別の歌い手に囲まれた演奏です。
スタジオ版と並べるときは、主旋律の声だけでなく、後ろから支える声や、楽器が受け取る余韻にも耳を向けてみてください。
ポストの歌を理解するうえで、揺れの多さや高音の強さだけを目印にすると、取りこぼすものがあります。
本人の声の癖、曲に合わせた選択、録音で加わる質感、共演相手との関係を分けることで、それぞれの役割が見えてきます。
こうした歌い方が広がってきた歩みは、ポスト・マローンの歌唱変遷でたどっています。

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