スルギの歌声の変遷|声を出す不安から、強さも淡さも選べる歌へ

2022年「28 Reasons」期のスルギ/提供:SM Entertainment シンガー
2022年「28 Reasons」期のスルギ/提供:SM Entertainment

スルギの歌の歩みには、声をうまく出せなかった時期と、あえて力を抜いて歌う表現を見つけた時期があります。
Red Velvet、アイリーンとのユニット、ソロを行き来する中で、変わってきたのは、声をどう曲の中に置くかという考え方でした。
上手に歌うために身につけたものを、曲によっては控える。
その選択ができるまでをたどると、彼女の歌声にある強さと繊細さがつながってきます。

歌が好きだった練習生に、声への不安が生まれた

スルギは2007年にSMエンターテインメントへ入り、2014年にRed Velvetとしてデビューしました。
子どもの頃から、テレビに出ている歌手の歌やダンスをまねて録音することが好きだったといいます。
準備期間には、歌への悩みも生まれました。

2018年、スルギは練習生時代を振り返り、声を評価されて事務所に入ったのに、プレッシャーの中で歌えなくなったことを話しています。
歌を誰かに聞かれることも嫌になり、一人で練習したり、ダンスに力を注いだりしていました。
ダンスで知られる現在の姿の奥には、得意だったはずの歌に自信を持てなくなった経験もあります。

2025年には、その頃の試行錯誤をさらに具体的に語りました。
幼い頃の声は細く澄んでいましたが、ホイットニー・ヒューストンやビヨンセのような豊かな声に憧れ、出し方を十分につかめないまま、地声を強く使おうとしていたといいます。
やがて歌のフレーズだけでなく、挨拶の声まで震えるようになり、自分の声を確かめながら取り組み直しました。
これは本人が振り返った経験であり、現在の声質を一つの不調の結果として説明する話ではありません。
少なくとも、憧れの声を再現することと、自分の声を使えるようにすることは、彼女にとって同じ作業ではなかったのです。

5人で磨いた表現を、2人の歌へ持ち出す

デビュー当初は、経験が少なく、言われたことを一生懸命に行う意識が強かったとスルギは話しています。
Red Velvetで明るい曲と妖しい曲を繰り返し表現した経験は、後のソロで異なる人物像を演じる土台になりました。
本人が2022年に実感していた変化は、仕事の判断や表現に柔軟さが生まれたことでした。

2020年、アイリーン&スルギの『Monster』では、その経験を2人で担います。
スルギが気にしていたのは、5人で歌っていた音楽を2人にしたとき、声の足りなさを感じさせないかということでした。
宿舎でも互いの歌い方を話し合い、一緒に練習したと説明しています。
人数が減ることで、一人の声が受け持つ時間も、相手との組み合わせも変わる。
ユニットは、グループでの得意な役割をそのまま二つ並べるだけでは成り立たない挑戦でした。

同じ作品に入った独唱曲「Uncover」には、別の転機があります。
スルギは、幻想的な歌が好きで、自分の声にもその感触が欲しかったため、イメージや振付を思い浮かべながら力を抜いて歌ったと話しています。
声をしっかり出すことを求めてきた歌い手が、ここでは力を控えることで欲しい表情を探しています。

2020年の取材に掲載されたスルギ/写真:Kim Jae Hoon、Allure Korea
2020年の取材に掲載されたスルギ/写真:Kim Jae Hoon、Allure Korea。
画像出典:画像掲載元

初ソロで求められたのは、優しく歌いすぎないこと

2022年の初ソロ作『28 Reasons』は、善と悪の両方を持つ人物像を中心にした作品でした。
タイトル曲の録音では、制作に関わったユ・ヨンジンから、優しく歌いすぎず、淡々とした感覚で歌うよう助言を受けています。
異なる感情を表すため、歌を調整したといいます。
相手を引きつけながら冷たさも残す人物を、声の態度で表す必要がありました。

ソロでは、何を見せるかを考える責任も増えました。
スルギは、自分の声の色や強みを出せる曲として「28 Reasons」を捉え、制作への意見も以前より伝えやすくなったと話しています。
作品の細部を自分で考える自由が、表現への自信につながっていました。
グループの一員として与えられた場面を完成させる経験から、一曲全体の人物像を選び取る経験へと広がったのです。

「Dead Man Runnin’」では作詞にも挑みました。
悪役を描く映画を見て人物像を考えながら、言葉が口に乗るか、韓国語と英語が自然につながるかも検討しています。
物語を考えるだけでなく、自分が実際に歌う言葉として書く。
歌の表情を作る作業が、録音前の段階へ広がった点も、このソロ作の変化です。

2025年は、本人が心地よく表現できる曲を探す

2作目の『Accidentally On Purpose』は、2025年3月に発表されました。
制作側がスルギと共有した目標は、聴く人にも歌う本人にも心地よく、まだ十分に知られていない自然な魅力を出せる音楽でした。
多数の候補曲を聴いて話し合い、好みを反映させています。
「Baby, Not Baby」では、長く彼女を見てきたKENZIEが、人物像を歌詞に込めました。
本人が楽しめる表現を探すことが、曲選びの入り口になっています。

この制作を、スルギは自分が船長というより、副船長のように感じたと話しています。
多くの人と意見を交わし、それぞれの考えが一つになる過程を大切にしていました。
自分の表現を選べるようになることは、すべてを一人で決めることではなかったのです。
周囲から受け取る助言と、自分が譲れない曲への思いを、制作の中で両立させています。

スルギ自身が強く推したのが、最後に録音した「Praying」でした。
ほかの候補もある中でこの曲を残したいと考え、低い声から高い声まで、自分の深い歌声を示せる曲として紹介しています。
音域の広さを披露するだけでなく、その声を聴いてもらえる曲を自分で選ぶ段階に来ていました。

ソロで得たものを、もう一度相手の声に合わせる

同年5月、アイリーン&スルギは『TILT』で約5年ぶりに戻ります。
スルギは、互いのソロ活動を経た成長を、バランスを取りながら見せたいと話しました。
ボーカル、動き、見せ方まで細かく練習し、タイトル曲では抑制された洗練を感じたといいます。
2020年には2人で声を満たすことを考え、2025年にはそれぞれが持ち帰った表現を調和させる。
同じユニットでも、取り組みの出発点が少し変わっています。

2025年「Accidentally On Purpose」期のスルギ/提供:SM Entertainment
2025年「Accidentally On Purpose」期のスルギ/提供:SM Entertainment。
画像出典:画像掲載元

2026年のRed Velvet『Velvet Summer』でも、スルギは個人活動で得た経験を、グループの成熟した色に反映したいと話しています。
「Surfin’ Boy」のデモを聴いた段階で、メンバーが歌う声を思い描けたといい、以前の勢いのある夏曲とは異なる、落ち着いた季節感に魅力を感じていました。
自分の声を前に出す経験を積んだ後も、帰る場所には、ほかの4人の声があります。

この曲を作詞したジョイは、スルギから、歌いやすい発音になっていると褒められたことを語っています。
自分の作詞で言葉のつながりを考えたスルギが、仲間の歌詞にも、歌う人としての視点を向けている。
個人活動で掘り下げた関心が、グループの曲にも生きる場面です。

スルギは、初期には比較的分かれていた「Red」と「Velvet」の表現を、今は自由に行き来すること自体がグループの個性になったと説明しています。
またアイリーンは、再び録音した際、それぞれの声の個性がより明確になったと感じていました。
一人ずつ違いが育つことと、5人で歌がまとまることが、両立するようになってきたのです。

スルギの歩みは、強い声を手に入れて終わる話ではありません。
「Uncover」で力を抜き、「28 Reasons」で感情の出し方を絞り、「Praying」を自分で選び、再び誰かの声と合わせる。
声を出すことへの不安があった歌い手は、声に何をさせるかを考える歌い手へと、選択肢を増やしてきました。
曲の中での使い分けは、スルギの歌い方で詳しく扱っています。

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