アグネタ・フォルツコグ(ABBA)の歌い方|高い声の輝きと、歌の中の一人になる力

1976年11月、オランダでのアグネタ(撮影:Bert Verhoeff/Anefo) アグネタ・フォルツコグ
1976年11月、オランダでのアグネタ(撮影:Bert Verhoeff/Anefo)

アグネタ・フォルツコグの歌には、明るい高音と、切なさを伝える力が同居しています。
ABBAでフリーダと重なった時の響きも、一人で物語を担う時の声も、彼女の大切な持ち味です。
その歌い方を知るには、高い音が出るかどうかに加えて、声を誰と重ね、どんな人物として言葉を発しているかを追うと、見えるものが増えてきます。

高い声を生かしながら、別の声と一つになる

ベニー・アンダーソンは、アグネタをソプラノ、フリーダをメゾソプラノと表現し、二人の得意な高さの違いが、ハーモニーを作る際に役立つと話しています。
同じ曲を渡しても、高すぎたり低すぎたりする声があれば、それが担当を決める理由にもなる。
ABBAの歌い分けは、性格の違いだけでなく、声が働きやすい場所とも関係していました。

「The Name of the Game」では、切実さを感じさせるアグネタと、温かい強さを持つフリーダが交わります。
二人の声が幾層にも重なって生まれる響きは、「第三の声」とも呼ばれてきました。
アグネタの声だけを大きくすれば、あの響きになるわけではない。
一人として耳へ届く部分と、二人の境目が溶ける部分を行き来することも、彼女の歌の仕事なのです。

アグネタ・フォルツコグ(2013年掲載、撮影年不詳)
アグネタ・フォルツコグ(2013年掲載、撮影年不詳)。
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「SOS」――一人の切実さと、重なる明るさ

「SOS」でリードを担うアグネタの声には、訴えかけるような切なさがあると評されてきました。
同じ『ABBA』の録音では、声を重ねた明るいハーモニーも大きな特徴です。
一人の苦しさが、そのまま暗い響きだけになるのではなく、磨き上げられたポップスの中へ置かれる。
その組み合わせが、声の切実さを、何度も聴きたくなる歌へつないでいます。

「The Winner Takes It All」――大きく跳ぶ音を、ひと続きの気持ちにする

この曲のサビには、同じ高さの短い音から、七度という大きな幅を上がる旋律があります。
一音ずつ階段のように上がるのではなく、急に高い場所へ跳ぶ動きです。
音楽研究者スティーヴン・ジャンも、滑らかな歌の流れの中へ、歌いこなすのが簡単ではない大きな跳躍が入る構造を指摘しています。
高音だけを切り離すと、この曲の難しさは半分しか見えません。
前の言葉から高い音へ移り、その後の旋律まで、同じ人物の気持ちとして運ぶ必要があるのです。

アグネタ自身がこの歌を好む理由には、初めから終わりまでの流れのよさと、歌詞のすばらしさがありました。
悲しい内容を表現することも好きだと話しています。
一つの高音を見せ場として成功させることと、一曲の流れを保つこと。
彼女が重く見ているのは、その両方を切り離さない歌なのでしょう。

人物に合わせて、歌の表情を選ぶ

「The Day Before You Came」では、アグネタは普通の女性として歌うように求められました。
出来事を語る声が前に出ることで、聴き手は、言葉の奥にあるものへ注意を向けることになります。

歌詞を自分の経験と重ねる場合にも、実生活の告白と決めつける必要はありません。
「The Winner Takes It All」について、本人は、個人的な経験だけでできた歌ではないと説明しています。
経験を持ち込むことと、曲の中の人物になることは、両立する。
声から強い感情が伝わる理由を、私生活だけに求めないほうが、歌い手の仕事が見えてきます。

呼吸の支えと、細かな音まで拾うマイク

長く歌わなかった後、アグネタは呼吸の感覚を取り戻すためにレッスンを受けています。
新しい難技を覚えるというより、歌うための土台をもう一度使えるようにする準備でした。

本人は、喉に負担を集めず、おなかの支えを感じて歌うことを意識し、録音では座るのが好きだとも話しています。
立って歌うフリーダとは、その好みも違う。
同じ歌を一緒に作る二人でも、力を得やすい姿勢まで同じではないのです。

マイクに近づけば、息や小さな音まで拾われる。
アグネタは復帰時、それが怖さにもつながったと説明しました。
よく響く声を持っていることと、その細部を録音へ差し出せることは別です。
大きく声を出す場面だけでなく、小さな音まで残る場所で落ち着いて歌えるか。
録音を大切にする彼女には、そんな繊細な仕事もありました。

2013年公開のアグネタの広報写真(Stockholm Pride)
2013年公開のアグネタの広報写真(Stockholm Pride)。
画像出典:画像掲載元/CC BY 3.0
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小さな伴奏の中に残る、声の素直さ

「Fly Me to the Moon」を評したブルース・イーダーが注目したのは、音数を絞った仕上がりでした。
彼は『My Colouring Book』について、ABBAと異なる音作りでも、アグネタの声と表現の純粋さは残っているとしています。
大きなオーケストラから、少数の楽器へ。
伴奏が変わっても、声を必要以上に飾らず、歌を伝える部分が聴きどころになるのです。
ハーモニーの中へ溶ける声とは違う、ひとりの声に近づく入口です。

アグネタは、好きな歌手の一人にニーナ・シモンを挙げ、その歌を聴くと内側が痛むように感じると話しています。
好むのは、ただ整っている声だけではないのでしょう。
「I Keep Them on the Floor Beside My Bed」を自分にとって特に個人的な曲としたのも、自分で曲を書けた喜びがあったからでした。
歌の中へ入れる感情と、その歌を作った手応えが、本人にとってつながっています。

新しく録った声と、録音後に変わる声の表情

「Where Do We Go From Here?」の録音で、ヨルゲン・エロフソンが挙げた特徴は、声にあるざらついた質感と、高い音へ上がる力でした。
彼は、アグネタが十分に準備して録音へ臨み、息の小さな違いにも耳を向ける人だとも説明しています。
滑らかさだけを目指すのではなく、その時の声にある質感まで作品へ生かす。
高音の輝きと、少しかすれた表情が、一人の歌の中に並びます。

『A+』では、2013年の歌声を残したまま、伴奏を作り直しました。

その「Bubble」では、自分の声が続く部分に別のものがほしいという本人の希望から、サックスが取り入れられました。
自分が歌い続けるより、楽器へ場所を渡したい時もある。
歌声の魅力を生かす方法には、声を足すことだけでなく、声を置かない場所を作ることも含まれています。

アグネタの歌い方を追うと、高い声を出す力、別の声へ溶ける力、曲の人物として言葉を伝える力が、一つにつながってきます。
声の美しさを、どこで前へ出し、どこで抑え、どこで誰かへ渡すか。
その判断まで含めて聴くと、よく知っているABBAの歌にも、ソロの歌にも、新しい入口が見つかるでしょう。
休止と復帰を重ねた歩みは、アグネタ・フォルツコグの歌唱変遷にまとめています。

アイキャッチ:1976年11月、オランダでのアグネタ(撮影:Bert Verhoeff/Anefo)/画像掲載元/CC0
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