フリーダの歌い方|低音の厚みと、声を重ねても消えない表情

1980年1月18日、テレビ番組のスタジオでのフリーダ(撮影:Pascal CARQUEVILLE) シンガー
1980年1月18日、テレビ番組のスタジオでのフリーダ(撮影:Pascal CARQUEVILLE)

ABBAのフリーダを「低いほうの声」と覚えている人は多いでしょう。
ただ、低く歌えることだけでは、あの歌の存在感は説明できません。
同じ旋律を相方と歌い、時には一人で曲を支え、録音では自分の声を何度も重ねる。
その時、声の厚みと表情をどう両立させているのか。
曲ごとの役割から見ていきます。

低い声を、主役として聴かせる

フリーダは、自分をメゾソプラノと説明しています。
アグネタより低い声だからこそ、二人がよく補い合えたと考えていました。
ただし、いつも下の音だけを歌っていたわけではありません。
ビョルンは、二人が同じ旋律を歌う時、フリーダが高いところへ届こうとする響きに金属的な成分が生まれ、それがABBAの音を作ったと説明しています。

「Money, Money, Money」は、低い声そのものの重みを捉えやすい曲です。
ABBAの歌を舞台で再現している歌手ステラ・マッコイも、この低さが旋律として十分に聴かせる点を挙げています。
低音を、次の高音を待つための場所にしない。
歌の中心になる響きとして受け取ると、フリーダの存在感が分かりやすくなります。
一方、マッコイは、フリーダのパートを覚えると、高いところまで旋律の間を縫って動く難しさにも気づいたといいます。
低音の印象が強くても、歌の仕事が低い場所に限られるわけではありません。

曲とキーを確かめて、歌い手を選ぶ

ABBAでは、歌詞やキーを確かめながら、まずスタジオでリハーサルをします。
フリーダによれば、ベニーの曲には広い音域があり、実際に歌っていくと、どちらが合うかが見えてくるそうです。
相手に合う歌を、無理に自分のものにしない。
二人の違いを知ることも、歌の完成度を支えていました。

ソロの『Something's Going On』でも、声に合う曲を選ぶ作業は重要でした。
フリーダは、さまざまな種類の曲に挑戦したかった一方、届いた曲なら何でもよいとは考えていません。
フィル・コリンズと相談し、方向の合う作家へ依頼しました。
歌い分けは、声の出し方を変える前の、曲選びから始まっていたのです。

1979年10月19日のヨーテボリ公演。手前左がアグネタ、奥右がフリーダ(撮影:Kåre Eide/Nasjonalbiblioteket)
1979年10月19日のヨーテボリ公演。
手前左がアグネタ、奥右がフリーダ(撮影:Kåre Eide/Nasjonalbiblioteket)。
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言葉を伸ばす長さにも、歌の時代を込める

「Our Last Summer」では、フリーダが主旋律を歌い、サビではアグネタと声を合わせます。
ビョルンは、サビの「summer」という言葉を、どう引っ張るかに時間をかけたと振り返っています。
手がかりは、1960年代初めの男性アイドルが歌った、甘いバラードでした。

フリーダ自身は、歌うことの中心に、リズムとタイミング、押す時と控える時の感覚があると話しています。
言葉を長く伸ばせるだけでなく、どんな気分で伸ばすか。
昔の恋を振り返る曲に、その時代の歌の感触を少し持ち込む。
響きの強弱と同じように、時間の使い方も表現になる例です。

この歌の出発点には、ビョルンの若い頃のパリでの思い出があります。
フリーダは自分の思い出をそのまま告白するのではなく、歌の人物を引き受けている。
言葉の伸ばし方を作り込む理由も、そう考えると見えてきます。

強い伴奏でも、声を一つの表情に固定しない

「I Know There's Something Going On」を入口にすると、フリーダのソロには、ロックの強い歌手という印象を持つかもしれません。
けれど同じアルバムには、声を冷たく鋭く見せる表現と、温かく近く感じさせる表現が共存しています。
ドラムが強いから歌もすべて強くする、という一対一の関係ではないのです。

フィル・コリンズの曲を取り上げた「You Know What I Mean」は、その違う側面を考える一曲です。
切実な気持ちを歌で届ける解釈に、フリーダの表現力が表れています。
強い音で印象づけた歌手の、感情に寄り添う歌へ耳を移すと、同じ声の中にある幅が見えてきます。

『Shine』の自作曲「Don't Do It」には、温かく揺れるようなバラードの表情があります。
一方、「Twist in the Dark」は密度の高い伴奏を持ち、「Slowly」は重ねたハーモニーを前へ出しています。
どの曲も、声を同じ距離に置けばよいわけではない。
一人の旋律の表情を追う曲と、重なった響きを受け取る曲とで、聴く焦点も変わります。

一人の声で支える曲と、重ねて広げる曲

ABBAの「Like an Angel Passing Through My Room」では、フリーダが一人で歌います。
伴奏もごく簡素なシンセサイザーです。
二人の声の重なりがなくなると、聴き手の注意は、一人の歌の流れへ向かいます。
声を足して厚くする方法だけが、聴かせ方ではありません。

逆に、2018年のスペイン語版「Andante, Andante」は、重ねる技術の具体例です。
フリーダは歌の途中で言葉を間違えた際、その箇所だけ録り直す提案を受けても、最初から歌い直しました。
採用されたのは5回目のテイクです。
さらに主旋律を三重にし、ハーモニーも自分で加えています。
グレッグ・フィールドは、その精度に驚いていました。
相手はサンドヴァルのトランペットです。
ABBAの曲を、別の編成で歌い直しています。

一曲を通して歌う流れを保ち、そのうえで、もう一度同じ流れを重ねる。
声を足せば自動的に厚みが生まれるというより、歌い直した声同士が合うことによって、まとまりが生まれるのでしょう。
一人で歌う時の説得力と、重ねた時の精度は、別々の魅力でありながらつながっています。

2008年7月4日のフリーダ(撮影:Daniel Åhs Karlsson)
2008年7月4日のフリーダ(撮影:Daniel Åhs Karlsson)。
画像出典:画像掲載元/CC BY 3.0
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歌う言葉を、自分のものにする

スウェーデン語の『Djupa andetag』では、フリーダは、母語で歌うほうが自分の場所にいる感覚があると話しました。
歌詞も任せきりにせず、一つずつ検討しています。
発音を正しく並べるだけでなく、その言葉を自分が歌う理由を持つことが、解釈の土台になっていたのです。

ライブについては、ABBA時代から、録り直しのできない緊張と、それでも歌う喜びの両方を語っていました。
スタジオの精度と、舞台で一度きりの歌を届けること。
どちらも経験してきたからこそ、歌の流れを保つ意味は小さくなかったのでしょう。

「I Still Have Faith in You」では、低めで温かな歌い出しから、二人の重なる声へ進みます。
アグネタの下で、同じ旋律を1オクターブ違いで歌う重なりも使われています。
異なる旋律を重ねるハーモニーと、高さを変えて同じ旋律を支える方法は、どちらも声の広がりを作ります。
一人の響きに耳を近づけてから、広がったハーモニーを受け取る。
声の高さや大きさだけを比べるより、この変化を追うほうが、フリーダの役割をつかみやすい曲です。

低音を中心に据えること、言葉の時間を選ぶこと、同じ歌を精度高く重ねること。
フリーダの歌は、こうした選択によって、単独でも二人でも成立しています。
その選択が時代とともにどう変わったかは、フリーダ(ABBA)の歌唱変遷にまとめています。

アイキャッチ:1980年1月18日、テレビ番組のスタジオでのフリーダ(撮影:Pascal CARQUEVILLE)/画像掲載元/CC BY-SA 4.0
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