ポール・スタンレーの歌い方|高音を張る声と、ファルセットで伝える声

2021年の取材掲載写真のポール・スタンレー(撮影:Brian Lowe) シンガー
2021年の取材掲載写真のポール・スタンレー(撮影:Brian Lowe)

KISSで知られるポール・スタンレーが、ソウルの曲では甘い裏声を聞かせる。
「Just My Imagination」と「Baby I Need Your Loving」では、同じソウルの作品の中でも声の表情が違います。
その違いを、声の使い方と曲の組み立てから見ていきます。

「I Was Made for Lovin' You」の高音を一種類にしない

本人がファルセットを使う箇所として挙げているのは、「I Was Made for Lovin' You」の中間部です。
ファルセットは、一般に裏声と呼ばれる声の使い方の一つです。
高い音であっても、強く張って届かせる感覚と、裏声を生かす感覚は分けて考える必要があります。
ポール自身は、Soul Stationで使うファルセットの音域を、無理のない範囲として説明しています。

KISSで部分的に使う声を、ソウルでは歌の中心に据える。
同じ声の選択肢でも、役割と使う長さが変わるのです。

甘く歌うことにも、はっきりした意図がある

Soul Stationの選曲でポールが大切にしたのは、人と人との距離が近づく歌でした。
叫ぶような力強さのある歌手を否定するのではなく、関係や後悔、誰かを恋しく思う気持ちを伝える曲を選んでいます。
本人は、弱さを見せられることにも男性の強さがあると考えていました。
柔らかな声を選ぶ理由は、音量を小さくするためだけではありません。
隠していた思いを相手へ差し出す、という歌の態度とつながっています。

「Ooo Baby Baby」のような曲でファルセットに注目するときも、高さを確かめるだけでは足りません。
ポールは、他人の名曲を歌う際には表面的な物まねで済ませず、感情や歌う意図を理解する必要があると説明しています。
出せる声を順に並べるのではなく、その言葉を歌う人の気持ちとして聞こえるか。
声色を選ぶ理由が、そこにあります。

ただし、Soul Stationの声を全て柔らかな裏声と捉えるのも不十分です。
「Just My Imagination」では滑らかなファルセットが評価される一方、「Baby I Need Your Loving」には、KISSを思わせるざらつきや勢いがあるという受け止め方もあります。
曲が求めるものに応じて、なめらかさと粗さの比重が変わる。
ソウルへ移ればロックの声を全て消す、という歌い分けではないのです。

2023年、Hellfestの舞台に立つポール・スタンレー。手前でギターを持つ人物(撮影:Tilly antoine)
2023年、Hellfestの舞台に立つポール・スタンレー。
手前でギターを持つ人物(撮影:Tilly antoine)。
画像出典:画像掲載元/CC BY-SA 4.0
画像の内容は変更していません。

「Shout It Out Loud」は、一人で押し切る歌ではない

KISSの「Shout It Out Loud」にも、ソウルとのつながりがあります。
ポールが挙げるのは、フォー・トップスのように、主旋律へ別の声が返事をする形です。
先に出る声と、後ろから応える声があるため、一人が全ての勢いを背負わなくても歌が進みます。
声を掛ける、応える、もう一度前へ出るという動きそのものが、曲の力になるのです。

主旋律だけを取り出すより、応答する声まで追ってみると、一曲の勢いを誰が作っているかが見えてきます。
KISSとソウルは、音色だけでなく歌の組み立てでもつながっているのです。

録音で声を重ねると、歌の印象も変わる

1978年のソロ作を制作したジェフ・グリックスマンは、ポールが歌を二重に録ることを望んでいたと回想しています。
同じ旋律を別々に歌って重ねる、ダブルトラックという録音の方法です。
一人の生声だけで完成した音の厚みを説明しようとすると、この作り方が抜け落ちます。

興味深いのは、制作担当者と本人の好みが一致していなかったことです。
グリックスマンは、声を重ねると一回の歌の個性が平均化されると考えていました。
対してポールは、重ねた効果を求め、配置にも明確な考えを持っていたといいます。
どちらが正しいというより、声の一瞬の表情を残すか、重なった響きを作るかという選択です。
録音のポールを聴くときは、発声と録音上の演出を一緒に考えると理解が深まります。

自分以外の声にも、曲の大事なところを任せる

Soul Stationの「Just My Imagination」では、エリック・シンガーも歌っています。
ポールは、彼の声に合う部分があると考えていました。
歌える人が前へ出るのではなく、曲に合う声を置くという判断です。
本人も、Soul Stationを自分と伴奏者という関係ではなく、一つのバンドとして説明しています。

この曲を含む「Now and Then」では、演奏する仲間が同じ場で基本の音を作りました。
声を後から目立たせることだけが目的ではなく、歌と演奏が一つの音楽として動くことが出発点です。
ポールの存在感は、自分が全てを歌い切る場面だけにあるわけではありません。

また「Whenever You're Ready」は、クリスタル・スターと歌う男女のやり取りとして作られました。
相手がいることで、自分の言葉も独り言ではなく返事になります。
一人で高い音を決める見せ場とは違い、二人の関係を聞かせる歌い方です。

スタジオでギターを持つポール・スタンレー、2021年の取材掲載写真(撮影:Oliver Halfin)
スタジオでギターを持つポール・スタンレー、2021年の取材掲載写真(撮影:Oliver Halfin)。
画像出典:画像掲載元

「Lorelei」で求めたのは、歌い終わる瞬間のドラマ

Soul Stationのオリジナル曲「Lorelei」について、ポールは最後を劇的に終えることを考えたと話しています。
リトル・アンソニーやジミー・ラフィンの歌に感じていた感情の強さに加え、曲の頂点で終わる発想がありました。
本人は自作の「Tonight You Belong to Me」や、ロイ・オービソンの「Running Scared」も例に挙げています。

ここでは、どこまで高い音が出るかよりも、歌のどこへ最大の力を置くかが大切です。
途中を全て同じ熱量で埋めず、最後に向かう形として歌を捉える。
音楽のジャンルが変わっても、聴き手を頂点へ連れていきたいという考えはつながっています。

こうした曲を歌うSoul Stationの舞台では、ポールはギターを持たずに歌へ集中します。
本人は、細かい正確さと集中が必要な歌では、そのほうが取り組みやすいと話しています。
歌の細部へ注意を向けるための選択です。

ポールの歌い方には、高い音へ向かう力と、他の声に応える力の両方があります。
ファルセットも、重ねた声も、相手へ渡す歌も、その曲を届けるための選択です。
高音を一つ取り出して評価するより、声が入れ替わるところ、仲間が応えるところ、最後に力が集まるところを追うと、この歌手の仕事が具体的に見えてきます。
年代ごとの変化は、ポール・スタンレーの歌唱変遷にまとめています。

2026年11月のシンガー人気投票。投票期間は11月1日〜11月30日。11月の投票はこちら。

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました