ジャネット・ジャクソンの歌声の変遷|小さな声に宿った強さは、どう深まったのか

1998年のジャネット・ジャクソン(Wayne Wilson/Getty Images) シンガー
1998年のジャネット・ジャクソン(Wayne Wilson/Getty Images)

ジャネット・ジャクソンの歌声は、いつも大きさで勝負してきたわけではありません。
柔らかな声で鋭く言い切ることもあれば、息を含んだ歌で聞き手との距離を縮めることもあります。
その歩みを追うと、強い人へ成長して終わり、という単純な物語には収まりません。

自分の意志を声に乗せた『Control』から、荒々しいロック、個人的な感情を映す歌、静かな低音へ。
何を歌うかだけでなく、その気持ちをどんな声で差し出すかを変えてきた人です。
最初の大きな転機には、録音した自分の声を翌日聴き、驚いたという出来事がありました。

1986年、「Nasty」で発見した低い声の強さ

ジミー・ジャムは、初期2作ではジャネットが制作側に用意された歌を歌う形だったと振り返っています。
『Control』では、歌う本人の考えや態度を音楽の中心へ置き直しました。

変化が具体的に表れたのが「Nasty」です。
テリー・ルイスの回想では、最初にジャネットが歌った声は高く、そこから1オクターブ下げることを提案しました。
本人には奇妙に感じられる試みでしたが、翌日に録音を聴き直すと、その出来に驚き、喜んだといいます。

低い位置で歌うことが、新しい強さを引き出した。
自分では奇妙に感じた試みが、録音を聴くと違って見えたという点も興味深い話です。
歌手像の奥に、声の使い道を発見する過程がありました。

1987年の本人の言葉も、この時期の変化を補っています。
ジョン・マクレインやジャム&ルイス、ジェシー・ジョンソンと話し、励まされたことで、それまでより自分に自信がついたと説明していました。
『Control』が大ヒットしなかったとしても、挑戦を続けただろうとも語っています。
成功したから強く見せられた、という順序だけではなかったのです。

1987年の取材に掲載されたジャネット・ジャクソン(写真:Matthew Rolston)
1987年の取材に掲載されたジャネット・ジャクソン(写真:Matthew Rolston)。
画像出典:画像掲載元

1989年、整ったリズムの中からロックの荒さも取り出す

『Rhythm Nation 1814』の「Black Cat」では、ロックの歌い手として別の表情を求められました。
制作したジェリービーン・ジョンソンは、柔らかなジャネットの声から、ロックに必要なざらつきや強さを引き出そうとしたと振り返っています。

本人が歌詞と中心になるリフを持ち込み、ジョンソンがロックの形に組み立てていった曲でした。
ここでは、低く言い切ることで生まれる強さに、荒い質感を伴う強さが加わっています。
同じ「強い声」でも、曲が求める人物像によって作り方は違いました。

「Nasty」から「Black Cat」への流れを、年々声量が増えた結果とまとめる必要はありません。
前者には音の高さを変える具体的な試みがあり、後者にはロックの歌い手としての質感を引き出す制作がありました。
持ち味を一種類に固定せず、違う曲の中へ持っていく段階だったと考えられます。

1993年、大きく主張する声から、近くへ誘う声へ

『janet.』では、前へ押し出す力とは違う魅力が目立つようになります。
「That's the Way Love Goes」の抑制された歌は、その象徴です。
批評家サル・チンクエマニは、この曲を、大きな歌唱力を競うような当時のヒット曲に対する、より控えめで洗練された選択として評価しました。

抑えた表現で聞き手を引きつける方向が、作品の中心にありました。

もっとも、親密な表情がこの時期に初めて生まれたわけではありません。
本人は1987年の時点で、『Control』の「Funny How Time Flies」を官能的な曲として挙げていました。
以前からあった一面が、後の作品でより大きな位置を占めたと捉えるほうが、変化を丁寧に追えます。

1997年、言葉が先に生まれた『The Velvet Rope』

『The Velvet Rope』では、曲を作る順序そのものが変わりました。
ジャムによれば、従来は音楽を先に作ることが多かったのに対し、この作品ではジャネットが書いた言葉に合わせて音を考えています。
歌う人の内側にあるものから、作品を組み立てる制作になったのです。

制作が順調に進まない日もありました。
ジャムは、本人がスタジオへ来られないときには別の作業を進め、戻れるときに再開したと語っています。
歌い手を急がせずに待つ時間も、作品を支えていました。

「Got 'Til It's Gone」の歌について、批評家エリック・ヘンダーソンは、力が抜け、気だるささえ感じさせる表現に注目しています。
失った愛を扱いながら、感情を大きく噴き上げる歌唱にはしない。
強く言い切る姿とは違う表情が、この時期のジャネットを形作っています。

『Control』で自分の考えを表へ出す道が開けたあと、その内側の揺れも歌に持ち込むようになった。
ここに、二つの作品を時間の流れとして読む面白さがあります。
声の強さを一方向へ増やすだけでは、この変化は表せません。

2008年、電子的な声も表現の一部になる

『Discipline』では、長く組んできたジャム&ルイスから制作陣が変わります。
「Feedback」などでは、電子的に加工された声の質感が前へ出ました。
チンクエマニも、同曲や「So Much Betta」の声を、ロボットを思わせる人工的なものとして捉えています。

これは、歌い手の生身の声だけを比べると見えにくい変化です。
完成したレコードでは、歌唱と録音後の加工が一緒になって人物像を作ります。
昔より声が弱くなったからこうなった、と原因を決めるより、どんな音楽の中で声をどう見せたかを見る必要があります。

ジャネット・ジャクソン『Unbreakable』(2015年)のジャケット
ジャネット・ジャクソン『Unbreakable』(2015年)のジャケット。
画像出典:画像掲載元

2015年、静かな低音に、親密さと喪失が宿る

『Unbreakable』ではジャム&ルイスと再び組み、三人で落ち着いて話せる環境から制作を始めました。
最初に録音したのは「After You Fall」です。
ジャムが曲の案を送り、翌日にはジャネットから歌詞が返ってきたといいます。
大きな再出発を、派手なダンス曲の録音から始めたわけではありませんでした。

「After You Fall」は、ピアノを背景にした低い声が印象を作る曲として評されています。
同じ作品の「Broken Hearts Heal」には、明るいハーモニーと弾む音がある。
声の落ち着きを、アルバム全体が一様に静かになったことと取り違えないほうが、その幅が分かります。

「Broken Hearts Heal」では、亡くなった兄マイケルへの思いも歌にしています。
喪失と明るさを同居させる曲も、この時期の表現に加わりました。

現在も、納得できる声の置き方を探している

2026年、日本公演を前にした本人は、録音しても思い描いたものと違えば、さらに別のことを試してしまうと話しています。
過去の歌を再現するだけでなく、新しい作品でも、自分が納得できる形を探しているのです。

ジャネットの変遷をたどって見えてくるのは、柔らかな声を捨てて強い声になった、という話ではありません。
低い声に意志を乗せること、ロックの荒さを引き出すこと、個人的な気持ちを小さな表情で届けること。
声の使い道が増えたことで、強さという言葉の中身も変わってきました。

曲の中で息や語尾をどう働かせ、重ねた声でどんな厚みを作るのかは、ジャネット・ジャクソンの歌い方で詳しく取り上げています。
その仕組みを知ると、大きな声を出す場面だけを待たずに、彼女の歌の細部へ耳を向けられます。

2026年11月のシンガー人気投票。投票期間は11月1日〜11月30日。11月の投票はこちら。

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました