NakamuraEmiの歌声はどう変わった?「YAMABIKO」の強さから、語りかける声を録るまで

2025年の公演で歌うNakamuraEmi NakamuraEmi

「YAMABIKO」の勢いでNakamuraEmiを知ると、言葉を力強く吐き出す歌手という印象が残ります。ところが2021年の『Momi』を作ったとき、本人とプロデューサーのカワムラヒロシが目指したのは、その力をさらに強めることではありませんでした。声を学び直し、言葉が旋律に収まるまで書き換え、強くない声も作品に残す。2024年の『KICKS』では、会話の延長のような響きを録れる場所まで探しています。

彼女はヒップホップやジャズに親しみ、歌とフロウを行き来するシンガーソングライターです。何を歌うかだけでなく、誰に向けて、どの距離から声を届けるか。その選び方はどこで変わったのでしょう。正規作品と本人・制作陣の取材を手がかりに、言葉と声の両方をたどります。

「YAMABIKO」――自分の言葉を前へ押し出す

2016年のメジャーデビュー盤『NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST』は、それまでの自主制作作品から選んだ歌に新曲を加えたアルバムです。冒頭の「YAMABIKO」は、名前を広く知らせた曲であり、彼女の出発点を考えるのにも適しています。本人は当時の取材で、東日本大震災を前に、歌で誰かを直接元気づけることは自分にはできなかったと語りました。代わりに、受け取った感情を歌にし、自分が少しでも変わることから始めたいと考えたのです。

働く人や身近な友人のそれぞれの目標を見てきた経験も、曲の土台にあります。自分の進む道を自分で決めるという切実さが、細かな言葉を畳みかける部分と、音程を伸ばす部分を行き来する歌に結びつきました。ただし、歌詞の意味と歌唱の迫力を同一視する必要はありません。彼女の音楽には、言葉を細かく刻むフロウと、旋律で余白を作る歌の両方が最初からありました。

NakamuraEmiの公式プロフィール写真
日本コロムビア掲載のNakamuraEmiプロフィール写真 出典:日本コロムビア

『NIPPONNO ONNAWO UTAU』という題名にも、自分を鼓舞する意図がありました。後年の本人の説明によれば、当初は社会に感じた男女差を背景に「女だけど頑張ろう」という思いで選んだ言葉です。今から過去の題名を一つの意味に固定するのではなく、その時点で必要だった旗印と捉えると、「YAMABIKO」で自らに呼びかけるような歌の位置が見えてきます。

2017〜19年――人から受け取った題材を歌にする

2017年の『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.4』をめぐる取材で、NakamuraEmiは、それ以前は自分の目線から書くことが多かったのに対し、デビュー後のチームや観客との出会いから受け取ったものが新作に入ったと話しています。「大人の言うことを聞け」には、かっこいい大人でありたいという自身の願いがあります。自分へ向けた言葉は残しながら、相手との関係を考える言葉が増え始めました。

同じ年の「Don't」はアニメの主題歌として発表されました。強い言葉を短い時間で立ち上げる歌です。一方、2018年の『Vol.5』は、出来上がった曲を並べてみると「コミュニケーション」が共通していたと本人が振り返っています。「かかってこいよ」も、ただ強気な姿勢を示すためではなく、人と向き合うことをめぐるアルバムの中に置かれました。叫びの強度だけでこの時期を説明すると、何に向かって言葉を出しているのかが抜け落ちます。

2019年の『Vol.6』については、本人が一度自分自身の生活や女性としての将来へ視線を戻した作品だと話しています。収録曲には「戦う歌」だけでなく、ユーモアや優しさをもつ題材も並びました。この変化を、声が急に柔らかくなったという未確認の聴感に置き換えることはできません。少なくとも、歌に入れる感情の種類と、向ける相手は広がっていました。

2021年『Momi』――言葉を選び直し、声も学び直す

2020年のベスト盤を出した頃、次はシリーズの『Vol.7』になる予定でした。しかし活動の停止を経て、2021年のアルバムは『Momi』と名づけられます。NakamuraEmiは、休む時間を初めて受け入れ、長く音楽を続ける方法を考えたと話しています。また、シリーズ名の「女」という語が以前と違って受け取られるようになったことも、枠を外す理由の一つでした。題名の変更だけで歌声の変化を証明することはできませんが、作り方の変化と同時に起きたことは重要です。

それまでの彼女は、日記に書いた痛みをほぼそのまま歌詞へ運び、旋律やリズムに多少収まりきらなくても残したい言葉を優先していました。『Momi』では、経験を他人へ伝えるならどんな言葉にするかを考え直しました。「1の次は」などでは、メロディーを保ったまま、意味を薄めずに気持ちよく入る言葉を長く探したと本人が語っています。言葉の密度を下げたのではなく、相手に届く形へ組み直したのです。

カワムラは同じ取材で、『Vol.6』の後に彼女が喉を傷め、ボイストレーナーについて表現を学び、ケアにも取り組んだと説明しています。本人も、これから何十年も歌うためのことを教わったと受け止めました。取材は病名や声域の変化までは示していません。確かに言えるのは、制作側が『Momi』で「力強いだけではない声」を出したいと考え、本人が声の使い方を学び直したことです。

2026年の公演で歌うNakamuraEmi
日本コロムビアの2026年公演レポート掲載写真 出典:日本コロムビア

さらにカワムラは、この作品で従来重視した生ドラムや人力のグルーヴから離れ、打ち込みを使ったと説明します。音の隙間や質感が変われば、同じ言葉でも前へ出る方法が変わります。ただ、伴奏の違いをそのまま喉の変化と呼んではいけません。新しい編成と歌唱の学び直しが、同じアルバムで重なったと分けて考えるほうが正確です。「私の仕事」や「いただきます」には、その広がりをたどる手がかりがあります。

2024年『KICKS』――会話の近さを録音へ持ち込む

『Momi』の後、2022年の「一目惚れ」などを経て、2024年には『KICKS』を発表します。本人は、フェスで自分を知らない人に歌う経験から、どんな言葉なら届くかを考えるようになったと話しました。新作では、初めてカワムラを歌詞の選択にも深く入れたといいます。かつて日記の言葉を守ることが歌の核だった人が、信頼する相手の提案を受け入れ、同じ思いを別の言葉で運ぶようになりました。

録音の場も変わります。『KICKS』では、初期に録った「一目惚れ」と共演曲などを除き、カワムラの海辺の作業場を整えた「ZOMBIE HOUSE」で制作しました。カワムラは、従来のパンチのある声に加え、ゆったりした歌も表現できるようになったので、一般的なスタジオの緊張だけに閉じ込めたくなかったと語っています。普段しゃべっている響きの延長を残したいという狙いです。本人も、以前より力まずに歌えたと話しました。

もっとも、すべてを家庭的な録音に移したわけではありません。「雪模様」など共演者と同時に録る曲では、スタジオ特有の緊張と一体感を選んでいます。声が「強い」か「柔らかい」かという二択から、曲ごとに必要な距離と場を選ぶ段階へ進んだと見ることができます。「火をつけろ」に勢いが残っていても、それは『Momi』の学びを捨てたことにはなりません。

この録音では、音程を機械的に揃えることより、歌のニュアンスを残す方針も語られています。カワムラは部分的な差し替えを極力避けるといい、本人も音程よりニュアンスを大切にしていると整理しました。これは「音程を気にしない」という一般論ではなく、『KICKS』で二人がどのテイクを選ぶかという制作上の判断です。

現在につながるもの――強さを失わず、選択肢を増やす

2025年の「MICHIKUSA」、2026年の「UBU」や「呼吸」と、新曲の発表は続いています。現時点で確認できる公式情報だけから、これらで新たな発声法へ移ったと断定はできません。とくに2026年10月発売予定の『PATCHWORK LIFE』は、まだ発売前のアルバムです。将来の作品まで完成した変化として語ることは避けます。

「YAMABIKO」で前に出した言葉は、『Momi』で聴き手を思って選び直され、『KICKS』ではくつろいだ場で響く声にもなりました。変わったのは、力強さの価値ではなく、それだけに頼らず歌える範囲です。一曲の中で言葉を刻む部分と旋律へ渡す部分をどう扱うかは、別稿のNakamuraEmiの歌い方で掘り下げています。

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