鈴木愛奈の歌を特徴づける民謡由来のこぶしは、どの曲でも同じように効かせているわけではない。
本人は、節回しを入れすぎると粘りが強くなり、聴きづらくなることもあると話している。
自分らしい声だからこそ、どこを抜き、どこで生かすかを考えているのだ。
その選択がよく分かるのが、長く音を伸ばす場面だ。
揺れを加えて温かさを出すこともあれば、まっすぐ伸ばしたあと、しぼませるように終えることもある。
息の混ぜ方や言葉の立て方も含めて、鈴木愛奈が声をどう使い分けているのかを、録音時の証言からたどってみたい。
こぶしを入れる量は、曲の中で決めている
民謡を幼い頃から学んだ鈴木にとって、こぶしや節回しは、自分の歌を支えるものだ。
一方、ソロデビュー時の取材では、民謡のこぶしとポップスのビブラートを、毎回はっきり区別して使い分けているわけではないとも説明している。
曲の雰囲気に合わせて歌う中で、自然に出てくる部分があるという。
自然に出るものでも、量の調整は必要になる。
本人が気にしているのは、独特の節回しを入れすぎたときの、歌の粘りだ。
抜くところと攻めるところのバランスを考え、自分の持ち味が曲に合う形を探している。
その迷いを具体的に語った曲が、「もっと高く」だった。
TVアニメ『いわかける! – Sport Climbing Girls -』のオープニング主題歌として、元気さや爽やかさを大切にしたい。
普段の民謡的な歌い方をそのまま使うと、その雰囲気を損なうかもしれないと考えた。
同時に、すべてをまっすぐ歌えば、自分が歌う意味が薄くなるとも感じていた。
曲の爽快さに合わせながら、どこまで鈴木愛奈らしさを出すか。
彼女の節回しは、歌全体に均一にかける装飾ではなく、その配分まで含めて考えられている。

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「やさしさの名前」は、伸ばす音の抑揚で温かさを作る
2020年9月発売の「やさしさの名前」は、TVアニメ『モンスター娘のお医者さん』のエンディング主題歌だ。
鈴木がこの曲で意識したのは、長く伸ばす音を、ただ長く保つだけで終わらせないことだった。
本人は、音をそのまま伸ばすだけでは温かさが足りないと考え、抑揚を付け、ビブラート的な歌い方を取り入れたと語っている。
長い音の中に変化をつけることが、この曲では優しさを伝える手段になっている。
音の長さを見せるだけでなく、その音をどんな気持ちで続けるのかを考えていた。
伸ばす声の揺れと強弱を、歌の温度につなげた選択といえる。

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曲の中で、気持ちの向きも変えている。
曲の後半にあるDメロでは、自分へ問いかけるようにするか、強い気持ちを見せるかを、いくつもの歌い方で試した。
最初の問いかけから、最後には優しさと決意が見える流れを作ることに苦労したという。
同じ温かい声でも、最初から最後まで同じ強さで押し通すわけではない。
問いかける段階と、気持ちが定まる段階とで、声に託す役割が違う。
この曲のビブラートも、長い音を飾るためだけに切り離して考えると、本人が作ろうとした流れを見落としてしまう。
息を混ぜるときも、全部を弱くはしない
別の声の選択が分かるのは、2023年の「トワイライト・サイダー」だ。
シングル「Dash and Go!」に収録されたこの曲では、いつもの歌い方をそのまま使うと、洒落た曲調に合わないかもしれないと考えた。
そこで鈴木が目指したのは、息を多めに混ぜ、「あ」「い」などの母音の響きを強調しすぎず、言葉の立ち上がりにあたる子音を生かす歌い方だった。
本人の説明では、全体をはきはき歌いすぎず、少し抜いた声にしていく。
言葉を大きく響かせる方向から、息を含んだ声の中で言葉を置く方向へ、出し方を変えている。
ここでは、こぶしの量だけでなく、声に混ぜる息と、発音のどこを目立たせるかが歌の印象に関わっている。
それでも、ブレスの多い声だけがよいわけではないと、録音中に気づかされた。
一部をほかのところよりしっかり歌うように指示され、声の出し方を変えたテイクも試している。
息を混ぜた歌い方の中に、言葉をしっかり出す場所を残すことで、メリハリを探したのである。
柔らかい声を作るときにも、息の量と発音、声の強さを一緒に変えている。
母音を控えめにした声でも、子音を生かすという狙いは残る。
曲の中に言葉をしっかり出す場所も作るから、全体を同じように弱く歌うのとは違う選択になっている。
「Apocalypse Day」は、強い声の中にも引き算がある
2023年12月の「Apocalypse Day」では、また別の調整が必要になった。
TVアニメ『邪神ちゃんドロップキック【世紀末編】』のオープニングテーマで、鈴木にとって初めて本格的に挑んだメタルの楽曲だった。
録音前には、ビブラートを入れるか、柔らかく抜いてから入るかなど、複数の歌い方を準備していたという。
現場では、ギターのフレーズが多い箇所について、ビブラートを付けず、そのまま伸ばしてからしぼませるように、と指示を受けた。
長い音をまっすぐ続け、終わり方で変化をつける。
「やさしさの名前」で温かさのために揺れを加えたのとは、伸ばす声の扱いが異なる。
本人は、この録音を、引き算の考え方が多かったと振り返っている。
一方で、自分としてはいつもより強く音を出し、喉を開いて解放するような感覚で歌ったとも話していた。
この言葉は本人が歌うときの感覚を表したもので、可愛い声色に寄せるより、強さを前へ出そうとした意図が分かる。
声を強くすることと、声を揺らし続けることは、別々に選べる。
楽器のフレーズが多いところでは声の動きを減らし、長い音の終わり方に変化を残す。
ハードな曲でも、自分の得意な節回しを一律に足していく作り方ではなかった。
高い音についても、出せるかどうかだけでキーを決めてはいない。
最初に届いたキーを少し高いと感じた鈴木は、下げるか、逆に上げて裏声を生かすかを考え、最終的には録音当日に決めることにした。
高い声をどんな声色で使いたいのかも、選択の中に入っていたのである。
伸びる声の魅力は、その途中と終わり方にもある
鈴木愛奈は、伸ばす声にビブラート的な抑揚を付けて温かさを出し、別の曲では揺れを抑え、しぼませるように終えている。
息を多めに混ぜる曲でも、言葉をしっかり出す箇所を残す。
こぶし、強弱、息、発音を、曲の中でどう組み合わせるかまで考えて歌っている。
こうした声の選択肢が、ソロ活動の中でどう広がったかは、鈴木愛奈の歌唱変遷で追っている。
よく伸びる声を長さだけで捉えると、その途中にある抑揚や、声を終えるときの工夫が見えにくくなる。
鈴木愛奈の歌い方を知る手がかりは、得意な声をどれだけ出すかと同じくらい、どこで抜き、どんな形で言葉を残すかにある。







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