ChouChoの歌唱変遷|声だけで歌い直した「カワルミライ」と、変わる声の強み

『naked garden』について語る2019年12月の取材に掲載されたChouCho(撮影:三橋優美子) ChouCho
『naked garden』について語る2019年12月の取材に掲載されたChouCho(撮影:三橋優美子)

2019年、ChouChoはデビュー曲の「カワルミライ」を、楽器を使わず、自分の歌とコーラスだけで録音し直しました。
2011年に初めてプロの録音現場で歌った曲を、今度は声そのものに包まれるような作品へ変えようとしたのです。
同じメロディーを歌い直すことで、何を届けたかったのでしょうか。

その間には、曲によって歌声が変わることをどう受け止めるか、という思いの変化もありました。
新しいリズムを歌うための試みと、声を重ねる録音での発見から、その歩みをたどります。

初めてのプロ録音で引き出された「カワルミライ」

「カワルミライ」は、2011年7月に発売されたChouChoのデビューシングルです。
TVアニメ『神様のメモ帳』のオープニングテーマとして、彼女の歌を届けた曲でもあります。
ただ、本人が後年の取材で振り返った思い出は、作品との出会いだけではありませんでした。

デビュー前は、自宅で録音した歌をニコニコ動画に投稿していました。
「カワルミライ」では初めて、プロのエンジニアやディレクターに歌を録ってもらいます。
緊張はあったものの、自分の持っているものを超える歌を引き出してもらえたことが、嬉しく、楽しかったと話しています。

自分だけで録っていた歌が、録音に関わる人たちとのやり取りで変わる。
本人の回想には、その現場で歌うことの楽しさが残っています。
ChouChoにとって、プロとしての最初の一曲は、歌の可能性を広げてもらった経験として残っていたのです。

2021年の10周年の取材でも、さまざまなタイプの曲を歌うたびに、その曲を歌いこなそうという意欲が高まったと振り返っています。
どんな曲でも同じ声の魅力を示すことより、まだ歌ったことのない曲が自分から何を引き出すのか。
その関心が、デビュー後の挑戦を支えていました。

柔らかい印象の声で、ビートを強く歌う

そうした挑戦を、具体的な歌い方として確認できるのが、2016年の「空想トライアングル」です。
ChouChoはfhánaとの対談で、それまで四つ打ちの曲を歌う機会があまりなかったと話しています。
いつも通りに歌うと、曲の鋭さが出ないと感じたのです。

そこで試したのが、ビートを意識し、2拍目と4拍目を強く歌うことでした。
どの拍を強くするかまで考えて、歌が曲のリズムにどう関わるかを変えています。
曲の鋭さを伝えるために、強さを置く位置を選んだのでした。

対談相手のkevin mitsunagaは、サビの歯切れのよさを好んで聴いていたと話し、その工夫を聞いて納得しています。
ChouCho自身の選択と、一緒に活動する音楽家が受け取った印象が、ここでは具体的につながりました。
柔らかく聴こえる声の持ち主にも、いつもの歌い方では曲の魅力が出ない場面があったのです。

同じ対談で、ボーカルのtowanaは、ChouChoの歌には空気を感じる成分が多いと評していました。
そうした心地よい声の印象を持ちながら、リズムの輪郭を強める歌にも取り組む。
「空想トライアングル」は、彼女の声の使い方が広がった一例といえます。

デビュー後の歌声と作品への向き合い方を語る2017年2月の取材に掲載されたChouCho
デビュー後の歌声と作品への向き合い方を語る2017年2月の取材に掲載されたChouCho。
画像出典:写真掲載元

曲ごとに声が変わることを、自分の歌として受け止める

一方で、ChouChoは、何を歌ってもすぐに自分だと分かる声への憧れも語っています。
2017年のCINRAの取材では、自分の歌はそのようなタイプではない、と受け止めていました。
そこで、無理に特徴を作って個性を押し出すよりも、曲がいちばんよく聴こえる歌を選びたいと話しています。

その考えは、歌う曲を増やすうちに、自分の表現をどう捉えるかという話にもつながります。
同年のReal Soundの取材では、デビュー当時の声を無色透明だったと振り返り、さまざまな曲を歌って表現の幅が広がったと説明していました。
曲ごとに違う自分が出てくることを、積み重ねてきた歌の変化として見ていたのです。

この二つの発言からは、自分の色を強く固定することだけが、歌手として成長する道ではなかったことが分かります。
曲が求める声に変化できることも、彼女にとっての表現です。
その後の再録を考えるうえでも、昔の歌い方を再現することだけが目的ではない、という視点が大切になります。

楽器を減らすことで、歌の細部に向き合う

2019年11月に発売された『naked garden』は、ChouChoにとって初めてのアコースティックアルバムでした。
先立つアコースティックライブについて、本人は、楽器の数が少ないぶん歌で直接表現する部分が大きくなり、緊張すると話しています。
少ない音で歌うことは、自分の歌をさらに磨きたいと感じる機会でもありました。

ライブでは、客席との距離が近く、その場のリクエストに応えることもありました。
大きな会場で盛り上がる歌とは、歌い手と聴き手の関係が変わります。
そうした場で歌ってきた経験を、録音作品として届けるのが『naked garden』でした。

本人は、同じ曲でもテンポが変われば、自分から引き出されるものが変わると説明しています。
歌詞を読み直すと、初めて録音したときとは違う気持ちになることもある。
過去の曲を歌い直す意味は、伴奏をアコースティックに置き換えることだけではなかったのです。

その中でも「カワルミライ」は、声だけで構成した作品を一度作ってみたかった、という本人の希望から生まれました。
デビュー曲を、いまの自分が歌うだけでなく、いくつもの自分の声で包む。
冒頭に示した2019年の録音では、その発想が編曲と歌唱の両方に関わっています。

声を重ねた「カワルミライ」の再録について語る2019年12月の取材に掲載されたChouCho(撮影:三橋優美子)
声を重ねた「カワルミライ」の再録について語る2019年12月の取材に掲載されたChouCho(撮影:三橋優美子)。
画像出典:写真掲載元

コーラスを重ねながら、声に合う音を探した

「カワルミライ」の主旋律とコーラスは、別の日に録音されました。
コーラスの録音だけで、7時間かかったと本人は話しています。

村山☆潤がその場でコーラスのメロディーを提案し、それを歌って録りながら、声の重なりを作っていきました。
低すぎて声が出ない音もあり、どの音ならよいかを探りながら進めたそうです。
声だけの編成には、一人の歌手が歌える音や、録った声同士の関係を見つけていく過程がありました。

この録音で届けたかったものとして、ChouChoは、自分の声に包まれるような体験を挙げています。
息遣いや小さなニュアンスまで、近くで受け取ってほしいという思いも語りました。
楽器を使わない選択によって、歌う声と、その間にある呼吸を作品の魅力として差し出したのです。

2011年の録音で他の人に引き出してもらったデビュー曲を、2019年には自分の声の重なりから作り直す。
二つの録音の違いは、年齢による声の変化だけで説明するよりも、何を聴き手に届けたいかという選択から捉えると分かりやすくなります。
同じ曲に、別の歌の魅力を見つけるための再録でした。

変化できる声を「Aurorise」に託して

2021年の10周年には、ChouChoは「Aurorise」で、自分の歩みを一曲にまとめました。
その取材で、楽曲に合わせて声の色を変えられることを、自分の強みとして説明しています。
色を変えながら動くオーロラと、上昇する意味を重ねた曲名にも、その捉え方が表れていました。

「Aurorise」の制作でも、新しい歌への挑戦は続きます。
「Aurorise」はメロディーのよさを重視するうちに上下の動きが多くなり、鼻歌で作っていたときの想像より、実際に歌うのが難しくなったと話しています。
自分で作る曲にも、歌い手として新たに取り組む課題があったのです。

「カワルミライ」を声だけで歌い直したとき、ChouChoが届けようとしたのは、呼吸や細かな表情まで近くで感じられる歌でした。
新しいリズムに向き合い、曲に合わせて声を変え、過去の曲にも別の表現を探してきた人だからこその選択です。
歌い出しや子音、音のつなぎ方をどう変えているかは、ChouChoの歌い方で詳しく取り上げています。

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