東山奈央の歌唱変遷|「灯火のまにまに」が自分の歌になるまで

2018年の日本武道館公演を振り返る取材時の東山奈央 シンガー
2018年の日本武道館公演を振り返る取材時の東山奈央

東山奈央は、2018年の「灯火のまにまに」で、自分の歌への向き合い方が変わったと語っている。
それまでは歌の中に登場人物を作り、その気持ちに寄り添っていた。
この曲では、歌う感情を自分の中に作れたことが、新しい発見だったという。

さらに2023年、同じ曲について、初期に苦戦した部分も自然に歌えるようになり、客席と盛り上がる余裕が生まれたと話している。
自分の気持ちで歌えるようになった曲が、歌い重ねる中で身体にも馴染んでいく。
その間には、一曲の中でロボットから人間へ歌い方を変える試みや、昔の役の声を録り直す難しさもあった。
「灯火のまにまに」を軸に、東山がその時々の自分で歌う方法を探してきた過程をたどってみたい。

「灯火のまにまに」――『群青インフィニティ』(2019年)収録音源

2017年の『Rainbow』では、歌の登場人物に寄り添っていた

2017年10月に発売された1stアルバム『Rainbow』には、「君と僕のシンフォニー」などが収録されている。
東山はこのアルバムを歌う時、曲の中に自分で登場人物を作っていたと振り返っている。
その人物が何を思っているかを考え、気持ちに寄り添いながら歌を作っていた。

声優としてキャラクターソングを歌う時には、その役ならどう歌うだろう、と考える。
『Rainbow』までのソロ曲にも、歌の中にいる誰かの気持ちを受け止めるという、近いアプローチがあった。
自分の名前で歌いながら、一曲ごとに、その物語を生きる人物に向き合っていたのである。

本人は、これをその時に正しいと信じて、必死に取り組んだ歌い方として捉えている。
その経験を経て、2年目に、感情の置き方を変える曲と出会う。

2018年の「灯火のまにまに」で、感情を自分の中に作った

「灯火のまにまに」は、アニメ『かくりよの宿飯』のオープニングテーマとして、2018年5月に発売された。
三味線などの和楽器を使う和ロックの楽曲で、東山は普段と違う歌声や表情で録音に臨んだと話している。

「灯火のまにまに」MV制作時の東山奈央
「灯火のまにまに」MV制作時の東山奈央。
画像出典:写真掲載元

この曲で起きた発見は、歌の主人公の感情を、自分の中から出せるようになったことだった。
会いたいという気持ちで言えば、誰かのその思いを理解して歌うところから、自分の中に会いたい感情を作って歌うところへ進んだ。
歌に向き合う時の、気持ちの出発点が変わっている。

東山は、アニメのヒロイン・津場木葵役も担当していた。
主題歌を歌うにあたり、葵のキャラクターソングのようになってしまうのでは、という不安もあったという。
そこで見つけた新しいアプローチによって、この歌を東山奈央自身の曲として歌えたことが、本人にとっての手応えになった。

同年2月の日本武道館公演では、この曲を初めて披露している。
新しい歌い方で舞台に立ち、客席から届いた感想にも、歌を自分のものにしているように感じたという声があった。
東山は、その反応を喜んでいた。

和の楽器や衣装は、この曲を形づくる大切な要素だ。
その中で、本人が転機として語ったのは、感情をどう自分の歌に乗せるかという変化だった。
歌手2年目の「灯火のまにまに」には、その時の自分で歌おうとする選択がある。

2019年、一曲の中でロボットから人間へ歌い方を変える

翌年の『群青インフィニティ』でも、「灯火のまにまに」は大事な曲として収められた。
東山は、さまざまなステージで何度も歌い、すでに自分に馴染んでいると話している。
歌手としての自分を知ってもらうきっかけにもなった曲だった。

このアルバムでは、デモから完成まで自分も制作に関わり、それぞれの曲の個性を強く出そうとした。
初めて聴いた人でも、曲名を覚える前に、どんな曲だったか話せるものにしたかったという。
その一つが「I Want You To Know Baby」だった。

恋心を抱いたアンドロイドやAIが、人の心を知ろうとする歌だ。
東山は、前半ではロボットらしく歌い、最後のサビだけは生身の女の子として歌ったと説明している。
録音には声を加工する調整もあるが、それに加えて、本人が歌い方そのものを切り替えていた。

曲を気に入ったときには、速いテンポで自分が歌い踊れるかを考える前に、このステージを見たいと思ってしまったそうだ。
自分の望む曲の姿が先にあり、あとから自分がそれを実現しようとする。
「灯火のまにまに」で気持ちを自分の中に作る方法を得たあとも、歌の人物像を使った表現は、違う形で広がっていた。

2020年の再録で考えた、昔の役と今の自分のバランス

声優デビュー10周年を記念した2020年の『Special Thanks!』では、過去の役の歌にも向き合い直している。
ユニット曲を、それぞれの役のソロとして新たに録音する試みも行った。
東山は当初、前より経験があるのだから伸び伸び歌えばよいと思っていたが、自分で取り組むと難しさに気づいたという。

以前の歌をどこまで残し、今できる表現をどこまで入れるか。
変えすぎれば役らしさが薄れ、そのまま追いすぎれば、今録る意味が見えなくなる。
結局は考え込みすぎず、その時点での最善を尽くそうと決めた。

『きんいろモザイク』の「Jumping!!」でも、7年前の九条カレンの声を必死に真似することはしなかった。
役と一緒に過ごしてきた時間を含めて、今の自分が演じるカレンとして歌おうとしたのだ。
当時のディレクターも録音に参加し、カレンが先生をからかうように、という具体的な提案で表情を引き出している。

『Special Thanks!』――アルバムのクロスフェード(2020年)

自分名義の歌では自分の感情を作り、役の歌では、その人物らしさを今の自分で表す。
新しい方法を知っても、過去に選んだ歌い方まで否定することはない。
2018年に初期の歌を振り返っていた姿勢は、昔の役に再び向き合う選択にも通じている。

2023年には、苦戦した箇所も自然に歌える曲になっていた

「灯火のまにまに」は、その後も繰り返しステージで歌われていく。
2023年11月の『ANIMAX MUSIX 2023』でも披露した。
ソロの出番を終えた取材で、2018年の初期と比べてどう変わったかを尋ねられている。

ANIMAX MUSIX 2023出演時の東山奈央
ANIMAX MUSIX 2023出演時の東山奈央。
画像出典:写真掲載元

東山の答えは、回数を重ねる中で、初期には苦戦していた部分も身体が覚えてきた、というものだった。
自然に、安心感を持って歌えるようになっている。
そのぶん、フェスのような会場でも、客席と一緒に盛り上がることを楽しむ余裕ができたと話している。

この日も、始まる前には緊張していた。
空の会場でのリハーサルでは広さに圧倒されたが、本番で客席のペンライトを見て安心し、バンドメンバーと目が合ったときの笑顔にも助けられたという。
激しいロックを歌っているのに、客席へ幸せを渡したくて、自分でも驚くほど慈しむ表情になっていたと振り返っている。

その年には、仕事を離れて人と過ごす時間も、少しずつ持つようになった。
以前は楽しそうに見えるステージでも頭の中が真っ白なことがあったが、心から楽しめるようになってきた、と本人は話している。
歌い慣れた曲への安心と、人との時間を受け取る余裕が、同じ舞台に表れていた。

2026年の「Rosarium」でも、新しい歌い方を試している

2026年10月7日には、4thフルアルバム『OVER THE RAINBOW』が発売された。
東山は、2027年3月11日の日本武道館公演をもって、歌手活動をいったん休止すると発表している。
その節目に向けた作品でも、新しい歌い方への挑戦が続いていた。

ZAQが手がけた「Rosarium」では、強い女性像を描く曲を歌いたいという希望が実現した。
東山は、これまで歌ってこなかったような情熱的な世界に惹かれ、ZAQの仮歌に近づきたいと思いながら録音したという。

本人は、その録音で、自分にこんな歌い方ができるのかと、新しい自分を発見したと話している。
息継ぎには苦戦し、仮歌をよく聴いて勉強した。
ZAQは録音に立ち会えなかったが、マネージャーを通じて、自信を持って歌ってほしいという励ましを届けていた。
その言葉も受け取りながら、まだ使っていなかった表現へ踏み出した録音だった。

歌の中の人物に寄り添っていた『Rainbow』から、自分の中に感情を作った「灯火のまにまに」へ。
その持ち歌を何度も歌ううちに、難しい箇所へ向いていた意識を、客席との時間にも向けられるようになった。
一方、昔の役を歌い直すときも、新しい作家の歌を受け取るときも、その場でまた選ぶことがある。
自分の歌になったという手応えの先で、東山は、いくつもの方法から今の歌に合うものを選べるようになってきた。
低い声と高い声、ささやきや息の使い方は、東山奈央の歌い方で曲ごとに詳しく扱っている。

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