水木一郎の歌い方|「マジンガーZ」の力強さは、誰に向けた声なのか

水木一郎(日本コロムビアのアーティスト公式画像) シンガー
水木一郎/画像出典:日本コロムビア

「マジンガーZ」の最後の叫びだけをまねても、水木一郎の歌には近づけません。
水木が考えていたのは、声をどれほど大きくするかより、この歌のヒーローを誰の前に立たせるかでした。
ロボットの重さ、操縦する少年の勢い、テレビの前にいる子ども。
三つが重なって、あの一声はただの掛け声ではなくなります。

マイクの向こうに、テレビの前の子どもがいる

水木は録音の際、スタジオのマイクだけを見て歌うのではなく、テレビの前に座る子どもが目の前にいるつもりだったと話しています。
その子に何を伝える歌なのかが決まって、はじめて声の向け方が決まる。
テレビを見始めた子どもにとって、その声が作品の入り口になります。

この想像力には、師である作曲家・和田香苗とのレッスンがつながっています。
和田は、歌詞の景色を曖昧にして歌わせなかったと水木は振り返ります。
「汽笛」なら汽車なのか船なのか。
単語を正しく発音するだけではなく、その音が鳴る場所まで思い浮かべる訓練でした。

アニメの主題歌でも、水木は絵コンテや人物設定から、誰が何を背負う場面かをつかんでいきます。
歌い手本人を前面に押し出す前に、その作品の顔になる。
だから、同じ張りのある声を使っても、曲ごとに向かう相手が違います。

対談中に手を動かして話す水木一郎
水木一郎(フェイス25周年対談より)/画像出典:フェイス

「マジンガーZ」には、ロボットと兜甲児がいる

「マジンガーZ」の声をただ重くすれば、巨大ロボットの強さは伝わるでしょう。
けれども水木が歌うのは、機体だけではありません。
本人は、機械の重厚さに加えて、操縦する兜甲児のやんちゃさも歌に入れたと説明しています。

そこがこの主題歌の面白いところです。
勇ましい主題歌に、まだ少年である主人公の勢いも乗せる。
力強さを一色で押し通さず、歌う対象を一人の人物まで具体化したところに、水木自身が語った役作りの意味があります。

水木は「ヒーローになりきる」という言い方をしました。
しかし、すべてのヒーローを同じ勇ましさで歌うという意味ではありません。
キャラクターが違えば、歌が見せる顔も変わります。

ロボコンには愛嬌、ハーロックには影がある

『がんばれロボコン』は、おっちょこちょいなロボットの物語です。
水木はここで明るくコミカルな表情を選びました。
一方、『宇宙海賊キャプテンハーロック』には哀愁を帯びた歌い方が要る。
『侍ジャイアンツ』では、型破りな番場蛮を思い浮かべてダミ声も使ったと本人は語っています。

この三つを並べると、ただ「声色が多い」で終わらない違いが見えます。
ロボコンをハーロックのように歌えば愛嬌が遠のき、ハーロックを番場蛮のように歌えば孤独な姿が変わってしまう。
水木が使い分けたのは声の形だけでなく、主人公と聴き手との距離です。

その使い分けには、アニメソングを歌う前からの蓄積がありました。
水木は母親の影響でジャズに親しみ、中学時代にはナット・キング・コールやプレスリーなど、さまざまな歌手を手本に発声を練習したと話しています。
アニメの主題歌にもロック、ポップス、演歌、ジャズと多くの音楽があるため、幅広い歌唱法を学んだことが役立ったというのです。

2016年の取材では、いつかジャズを歌いたいと思っていたものの、「ルパン三世 愛のテーマ」の録音中に、すでにジャズを歌っていると気づいた話もしています。
アニメソングという仕事の中で、一つの歌い方だけを繰り返していたわけではありません。
ヒーローの性格をつかむことと、その人物に似合う音楽の歌い方を選ぶこと。
両方の準備があって、勇ましい歌から大人の哀愁を帯びた歌へ移ることができたのでしょう。

2018年のバースデーライブでマジンガーZ像と並ぶ水木一郎
水木一郎(2018年バースデーライブ)/画像出典:ムビコレ

仮歌をなぞるより、自分で主人公の声を探す

曲を覚える段階にも、水木らしい選び方がありました。
2012年の取材では、見本の仮歌を先に聴くと、その歌い手のイメージが頭に残ってしまうと説明しています。
むしろ譜面だけを受け取り、作曲家のピアノに合わせて曲の意図を教わるやり方が、自分には合っていたそうです。

実際の伴奏を聴くのは録音当日だったともいいます。
準備した人物像を持ってスタジオへ入り、そこで初めて曲全体の音に合わせて歌う。
完成した歌を何度も聴いて覚える方法とは違い、譜面を読む力と、その場で音楽をつかむ集中力が求められました。

そこには、手本の声をうまく再現することとは違う難しさがあります。
音程とリズムを読み取ったうえで、まだ声になっていない人物の表情を、自分で考えなければならない。
水木が原作や絵コンテを確かめるのも、ただ作品に詳しくなるためではなく、この声の選択に必要だったのでしょう。

同じ取材で、録音中に歌詞や旋律が変わることもあり、その場で対応しなければならなかったと振り返っています。
一度決めた声の調子を守るだけでなく、新しい言葉や音の並びに合わせて切り替える。
大胆な叫びを持つ歌手の仕事には、こうした譜面への細かな対応も含まれていました。

叫びの前に、日本語を届ける

水木は、日本語が自然な区切りで届くことを大事にしました。
譜面上の音の切れ目が言葉の意味を壊しそうなときも、意味が通る歌い方を考えたといいます。
掛け声が鮮やかに残る歌手だからこそ、その前の言葉が聞き取れることにこだわっていたのです。

録音で細かく切ってつなぐより、ある程度の長さを歌ってから良い部分を選ぶという本人の姿勢も、言葉を一続きで運ぶ考え方につながります。
一語ずつ強く発すれば迫力が出るわけではありません。
人物の気持ちを一文として子どもへ渡すから、最後の叫びにも行き先が生まれます。

一続きの歌を生かす姿勢は、伴奏を録る場面にも表れています。
「キャプテンハーロック」の録音では、指揮者がまず水木の歌を聴き、その歌い方に合わせてオーケストラの伴奏を録ったといいます。
本人が盛り上げるところで、演奏も大きく盛り上がる。
完成した伴奏へ歌手が一方的に合わせるのとは、違う作り方でした。

ハーロックの堂々とした姿は、水木が強く声を出すだけで出来上がるものではありません。
どの言葉へ向かって気持ちを高めるのかを、周りの演奏も受け止める。
声と楽器が同じ方向へ動くことで、孤独や誇りを持つ人物の姿が、一曲の中で大きく見えてくるのです。

水木一郎の歌い方を聴くなら、「ゼーット!」の大きさだけでなく、その直前まで誰が歌の中にいるかを追ってみてください。
兜甲児、ロボコン、ハーロック。
声を主役にするのではなく、声で主役を立たせることが、水木の力強さを支えていました。

歌謡曲の歌手として声に悩んだ時代から、同じ曲を45年後に新録するまでの歩みは、水木一郎の歌声の変遷でたどれます。

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