『ペッパー警部』を五拍子に変え、慣れた振り付けからも離れて歌う。
未唯mieは、長く歌ってきたピンク・レディーの曲にも、新しい歌い方を探してきました。
ソロになってからの変化をたどると、曲のジャンルを広げるだけでなく、演奏を受け取る耳や、呼吸を使って声を出す身体にも向き合ってきたことが分かります。
2026年の『Anti Limit』では、昔の自分なら避けたという言葉の区切り方にも挑戦しました。
長いキャリアの先で、何を覚え直し、何を自由にしてきたのでしょうか。
ピンク・レディー時代に覚えた、歯切れよく歌う感覚
1976年、ピンク・レディーは『ペッパー警部』でデビューしました。
ミイとケイの二人が、歌と振り付けを一体にして届けるステージです。
未唯mieは当時を振り返り、作曲、歌詞、衣装、振り付けを担当するチームが描いたイメージを、どう体現するかを強く意識していたと語っています。
その中で教わった歌唱の感覚が、後年にも残りました。
2026年のReal Soundの対談で思い出したのは、『ペッパー警部』の作曲者・都倉俊一から、スタッカートで歌うよう求められたことです。
音をつなげて流すだけでなく、一つずつ歯切れよく出す。
デビュー曲で受け取ったその指示を、新しい曲の歌録りでも呼び起こしています。
当時の指示に従うことと、半世紀後に自分でその歌い方を選ぶこと。
同じスタッカートでも、そこには違いがあります。
その間に、彼女は自分の声を使う方法を学び直していきました。
1976年発表曲の初期音源(2025年リマスター)。
再結成ツアーの後、歌手もバンドの一員になった
1981年にソロへ進んだ頃も、未唯mieには、渡された曲を何でも歌いこなすことがプロの歌手だという考えがありました。
その姿勢に転機が訪れたのが、2003年から二年間続いたピンク・レディーの再結成ツアーです。
最終公演で、ドラマーの村上“ポンタ”秀一から、ライブを続けるなら手伝うと声をかけられました。
そこから続けたソロライブの中で、演奏者一人ひとりの細かな反応を受け取るようになったと、2023年のRe:minderの取材で振り返っています。
完成した伴奏に歌を乗せるだけでなく、自分も音を作る側へ入っていく。
歌手と伴奏者という位置関係から、全員で曲を奏でる感覚へ変わっていったのです。
その変化を、ポンタとの音作りの話が具体的に伝えています。
2023年のENCOUNTの取材で、未唯mieは、ポンタが大量のシンバルを会場へ持ち込み、一枚ずつ鳴らして、自分の声に合うものを選んでくれたと話しました。
本人にも好きな音を尋ねながら、バンドの響きを決めていく。
この経験から、声という楽器を持つ自分もミュージシャンなのだと感じるようになったといいます。
自分が歌うために演奏してもらうだけでなく、互いの音を聴いて一曲を作る関係が、そこにありました。
この変化は、声の出し方にも及びました。
本人によれば、それまでとは違う考え方で、呼吸を使い、身体全体を楽器として扱う発声法を学び始めました。
2023年の時点でも、勉強を続けていると話しています。
歌手として既に長い経験を持っていても、バンドの中で歌うために、声を出す土台から取り組み直したのでした。

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『Pink Lady Night』で、知っている曲を歌い直す
ピンク・レディーの曲を自由に歌い直すまでには、過去の曲との距離を変える過程もありました。
2023年のRe:minderの取材では、ソロ初期にデュオ時代との違いを強調するあまり、ピンク・レディーの曲を遠ざけていた時期があったと紹介されています。
その後、一人で表現するピンク・レディーの形があってもよい、と考えるようになりました。
ソロであることを示すために離れていた曲が、自分の表現を試せる曲へ変わったのです。
2010年に始まった『Pink Lady Night』は、その取り組みを具体的な作品にした場です。
未唯mieは、ピンク・レディーの振り付けができないほど思い切った編曲を求めました。
よく知られた『ペッパー警部』も、五拍子の曲へ姿を変えます。
この企画を依頼した際、仙波清彦は、既に世界観のあるピンク・レディーの曲を大きく変えてよいのかと気にしていたそうです。
未唯mieは、だからこそ面白いのだと応じました。
ケイと二人で歌うときの表現を大切にしながら、一人だからできる形も見つけたい。
大胆な編曲を求めた理由は、そこで歌う自分の役割を変えることにもあったのです。
歌い手にとっての変化は、演奏者と呼吸を合わせることにもありました。
Billboard JAPANのインタビューでは、和楽器を含むこのバンドでクリックを使わず、その場の息一つでも演奏が変わると説明しています。
共演を重ねるほど、その息が合ってきたとも語りました。
慣れた曲でも、昔の歌い方をそのまま置いておけば済むわけではありません。
その日の演奏の流れを受けながら、自分の歌を入れていく。
発声を学び直したことと、周囲の音を感じ取ることが、同じステージで必要になっています。
2020年の十周年公演を収めたライブ作品も、この積み重ねを残しています。
毎年同じ企画を続ける中で、本人は演奏に奥行きや膨らみが生まれたと感じていました。
新しい編曲を一度歌えるようになることから、共演者と呼吸を重ね、その歌を育てることへ。
ソロでピンク・レディーの曲に向き合う意味も、そこで深まっていきました。
2020年1月18日・日本橋三井ホール公演のダイジェスト。
2023年の『Hallelujah』で、言葉をゆっくり手渡す
2023年、ベスト盤のために新しく録音したのが、レナード・コーエンの『Hallelujah《ハレルヤ》』です。
井上鑑がプロデュースと編曲を担当し、坪倉唯子とさかいゆうも歌で参加しました。
未唯mieは、初めて耳にしたときからこの曲に強く心を動かされ、自分も歌いたいと望んでいました。
もともとはライブで歌うことを考えていたところへ、ベスト盤に新録曲を入れる話が来て、録音が実現したのです。
井上を選んだ理由についても、技術や実績に加え、人への思いを大切に音を作る姿勢にひかれたと説明しています。
何を歌いたいか、誰とその気持ちを形にするかを、本人が選ぶ制作でした。
Re:minderの取材を担当した音楽ライター・金澤寿和は、この録音について、アイドル時代とは違う深い情感を備えた表現として評しています。
本人が語った目標も、歌詞を語るように歌うことでした。
勢いのある曲でも言葉を伝えたい。
バラードだからといって、いつも大きく歌い上げる必要はない。
曲と言葉に合う表現を選ぶという考えです。
同年三月のリリースライブでも、金澤は、この曲を言葉をかみしめるように歌う姿を報告しました。
本人の目指す歌と、取材者が受け取った歌唱が、具体的な作品で重なっています。
かつて楽しんでもらいたかったのは、その場の勢いや熱気だったと、彼女は振り返ります。
それに加えて、歌や演奏に込めた思いをじっくり受け取ってほしいという願いが、前へ出てきました。
2023年新録のスタジオ音源によるMV。

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『Anti Limit』では、昔なら避けた区切り方を選ぶ
2026年の『Anti Limit』は、ピンク・レディーとして五十周年、ソロとして四十五周年の新曲です。
作詞をジェーン・スー、サウンドの制作をT-GROOVEが担当しました。
歌録りの課題になったのは、メロディーの中に収まりきらない言葉です。
Re:minderの対談では、T-GROOVEが、言葉を整理しなければ曲に入らないと考えた経緯が語られています。
未唯mieは、すぐに削るのではなく、まず歌って試すことを提案しました。
一つの音符に二音分の言葉を乗せれば、収まるかもしれない。
T-GROOVE自身も実際に歌ってみると、しっくりくると感じたといいます。
曲の作り手と歌い手が、歌って確かめることで、最初の判断を変えていきました。
文の途中に休符を置いたり、意味のまとまりを次のフレーズへまたがせたりもしています。
きれいに区切って収める以外の面白さを、本人が積極的に選んだのです。
こうした方法は、昔なら絶対にしなかったと語っています。
言葉の意味が一度で追いにくくなる部分も承知したうえで、今の歌に合う表現として取り入れました。
録音当日にも、歌手、作詞者、作曲者が、その場で言葉の入れ方を話し合っています。
一方、言葉の歯切れを作るために思い出したのは、デビュー時のスタッカートでした。
学んできたことを手放して新しくなるのではなく、昔の引き出しを、今の判断で使い直す。
『Anti Limit』には、その二つが同居しています。
歌い続ける身体も、いまの自分に合わせる
歌の自由を広げる一方で、身体の変化にも向き合っています。
2026年九月の取材では、前年にピンク・レディーの三曲をメドレーで歌い、息が上がった経験を明かしました。
周年公演に向けて、動きや姿勢の整え方を見直し、それを振り付けに取り入れたところ、歌いながら踊れる感覚を取り戻したと話しています。
9月19日の周年公演は、『Anti Limit』から始まり、ソロ曲、ピンク・レディーの曲へと進む構成になりました。
翌日のスポニチの公演記事でも、新曲を踊りながら伸びやかな声で歌い、後半には『UFO』などを当時の振り付けで披露したと報告されています。
新しい曲のために言葉の区切り方を試す自分と、覚えてきた歌と踊りで観客を迎える自分が、一つの舞台に並びました。
発声を学び、演奏者の息を受け取り、言葉の入れ方を試す。
未唯mieの変遷には、歌手として自分が何を選ぶのかを、次々に広げてきた過程があります。
かつて教わったスタッカートも、長く歌った代表曲も、新しい表現のために使える。
その自由を、共演者とのやり取りや、声を出す土台の学び直しが支えているのです。
呼吸の考え方やスタッカートによる言葉の出し方は、未唯mieの歌い方でも詳しく取り上げています。







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