96猫さんの歌声は、低い少年声から明るい高音まで出せる「七色ボイス」と紹介されることが多いです。
けれども、声の種類を数えるだけでは、この人の本当の面白さを取り逃がします。
核にあるのは、どの声を出せるかよりも、曲の中に一人の人物を作り、その人物に合わない自分の癖を外せることです。
歌うたびに別人へ変身しているように聞こえるのは、派手な声真似を足しているからとは限りません。
むしろ96猫さんは、かわいく歌いすぎたと感じればかわいさを引き、ビブラートが人物に合わなければ抑え、声の高さや強さまで役に合わせて選び直します。
この記事では、その歌い方を「声色の多さ」ではなく「声を配役する技術」から読み解きます。
96猫の歌い方は、一人の中に声を集めるのではなく人物を作る
声の幅が広い歌手を説明する時は、「低音も高音も出る」「女性声と少年声を使い分ける」といった言い方になりがちです。
96猫さんにも、その説明は当てはまります。
ただし、本人が語る作り方はもっと物語的です。
曲の中に登場人物を一人置き、その人へ声を当てるように歌うというのです。
これは、同じ自分の声を少し明るくしたり暗くしたりする発想とは違います。
年齢や性格、立っている場所まで想像し、その人物ならどう言葉を発するかを先に決めます。
子ども向けの楽曲では、自分の年齢を忘れて別の人になる感覚が語られていました。
かわいい声を表面だけ作るのではなく、子どもが一緒に口ずさめる人物を歌の中へ呼び込むわけです。
そのため、96猫さんらしさは一種類の音色には固定されません。
色っぽい低音も、少年のような声も、鋭い高音も、曲の人物を成立させるために選ばれた結果です。
「意識して声を変えられない」と「細かく設計する」は矛盾しない

興味深いのは、96猫さんが過去に、意識して声を変えようとしてもできないと話していることです。
七色の声を持つ人の発言としては、少し意外に聞こえます。
一方で、特定の役を歌う時には、地声からどのくらい高くするか、弱さと強さをどう残すか、高い声をどの程度張って保つかまで具体的に考えています。
外から見ると、前者と後者は正反対です。
ここで分けたいのは、「自分の声そのものを操作すること」と「曲の人物に必要な条件を決めること」です。
音色を機械のつまみのように直接変えようとすると、本人にも説明しにくいのでしょう。
しかし、人物の年齢や感情、周囲の音、言葉の届け先が決まると、必要な声は選びやすくなります。
96猫さんは声を先に作るというより、声が決まる状況を先に作っていると考えると、二つの発言がつながります。
この違いは、yamaさんの中性的な歌い方と比べても面白いところです。
yamaさんが感情を言い切らずに余白を残す方向なら、96猫さんは曲ごとに別の話者を立ち上げる方向へ声の匿名性を使っています。
英子役で見えたのは、声を足す技術より自分を削る技術だった
『パリピ孔明』の月見英子は、96猫さんの歌唱設計が最も分かりやすく表に出た役です。
最初の収録では、英子の見た目や印象から、出せる範囲で最大限かわいく歌ったと明かしています。
ところが求められたのは、もっとエネルギッシュで、強く、周囲を突き抜ける声でした。
そこで「かわいい英子」を捨てたのではなく、かわいさが前に出すぎない位置へ動かしています。
さらに、普段は使うことのあるビブラートを抑え、まっすぐ歌う場面を増やしました。
クラブのように音が多い場所でも届く芯を残しながら、96猫本人の歌い回しを薄くしていったのです。
ここに、七色ボイスという呼び名だけでは見えない強みがあります。
普通は個性を出すことが表現だと考えますが、96猫さんは役に不要な個性を消すことでも表現を作れます。
声色を増やす歌手ではなく、歌ごとに「残す自分」と「外す自分」を選べる歌手なのです。
英子の歌が単なる96猫名義の別テイクに聞こえない理由は、ここにあります。
低音と高音を別々の必殺技として考えない方が分かりやすい
外部の歌唱解説では、96猫さんは女性として低中音を多く使い、クリアな声と広い音域を持つ歌手だと整理されています。
一方、声域データを扱うサイト同士では、最低音や最高音の数字が大きく食い違います。
この差が出るのは、カバー曲、台詞、加工された声、コラボでの担当箇所まで何を計測対象にするかが統一されていないためです。
「何オクターブ出るか」を一つの確定値として扱うのは慎重であるべきでしょう。
それでも、低い音から高い音までを一人の表現として使えることは、公式プロフィールや本人の活動から確認できます。
大切なのは、高音用と低音用に別々の喉を持っていると想像しないことです。
曲の人物が変わることで、息の量、言葉の強さ、音の立ち上がり、語尾の残し方が一緒に変わります。
その複数の変化が重なり、声の高さ以上に別人らしく聞こえます。
高音だけを細くまねたり、低音だけを無理に暗くしたりしても、96猫さんの歌い方には近づきません。
音域より先に「誰が、誰へ、どんな場面で言うのか」を決める方が、この歌唱の考え方には近いです。
コラボでは、自分の声を消さずに相手の歌い方へ寄り添う

役への変身だけでなく、コラボでも同じ設計力が働きます。
相手が芯の強いまっすぐな声なら、まず自分の柔らかさへ寄ってもらい、サビでは逆に相手の強さへ自分が合わせるという作り方をしていました。
どちらか一方の個性へ全編を統一するのではありません。
場面ごとに主役となる声を交代し、二人の違いそのものを曲の展開へ変えています。
この考え方は、Reolさんの言葉をビートへ変える歌唱設計とも共通点があります。
両者とも器用さが目立ちますが、技術を見せるためではなく、曲の情報を最も伝えやすい形へ声を組み替えています。
96猫さんの場合、相手の声を聴いた後で自分の強さを変えたり、声優のキャラクター表現から歌い方の発想を受け取ったりしています。
一人で完結する七色ではなく、相手がいることで色の配置まで変わるのです。
まねるなら声色ではなく、先に話者を決める
96猫さんの少年声や低音を、そのまま再現しようとするのはおすすめできません。
生まれ持った声質や長年の歌唱経験が違うため、喉を押し下げたり、無理に太い声を作ったりすると負担だけが残ります。
参考にしやすいのは、歌う前に話者を一人決める考え方です。
同じ歌詞でも、親しい人へ小さく話すのか、大勢へ届くように訴えるのかで、自然に言葉の輪郭は変わります。
ここで「かわいい声」「かっこいい声」と音色だけを指定すると、表現が記号になりやすくなります。
年齢、相手、距離、感情を一つずつ決めた方が、結果として自分の声の範囲内で違いを作れます。
高音を出す時も、96猫さんの鋭さを大声で再現しようとしないでください。
痛みや強いかすれが出る場合は中止し、話し声の異常が続く時は耳鼻咽喉科などへ相談する必要があります。
声の高さそのものを広げたい場合は、ミックスボイスの出し方と苦しくなる原因を先に確認すると、歌手の表面だけを追う危険を減らせます。
まとめ
96猫さんの歌い方を支えているのは、声の種類を増やす技術だけではありません。
曲の中へ人物を作り、その人物に必要な高さ、強さ、息、言葉の運びを選び、自分の癖まで引き算する力です。
だからこそ、低い少年声と明るい高音が同じ人から出ても、単なる声色見本には聞こえません。
それぞれの声に、誰が何を伝えているのかという理由があります。
七色ボイスという入口から一歩進み、声が変わるたびに「どんな人物が立ち上がったか」を見ると、96猫さんの歌はさらに面白くなります。
その歌唱が初期からどのように育ったのかは、96猫さんの歌声の変遷で年代順にたどれます。






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