ソナタ・アークティカのトニー・カッコといえば、「FullMoon」のような初期曲で歌う高音を思い浮かべる人も多いでしょう。
ところが本人は、高く歌っている自分の声を、あまり好きではないと話しています。
好んでいるのは、少しざらつきを加えて、ロックらしく歌える中音域です。
トニーが求めているのは、高い音に届くことに加えて、声の質感や強さを自分で変えられることです。
そのために、歌う高さだけでなく、曲の伴奏も選び直してきました。
中音域の何がそんなに楽しいのかは、初期の高音に憧れた経緯と、過去曲をアコースティックで歌い直したときの工夫から分かります。
「FullMoon」――『Ecliptica』(1999年)
憧れの高音と、自分が好きな声は同じではなかった
初期のトニーが目指したのは、ストラトヴァリウスのティモ・コティペルトでした。
ティモのように、大きく高い声で歌おうとしていたのです。
2024年の取材では、当時はまだ自分の歌い方を見つけられていなかったと振り返っています。
その歌でデビューしたからといって、本人にとって簡単な高さだったわけではありません。
『Ecliptica』の録音でも苦労し、若いころから初期曲をライブで歌うのは大変だったといいます。
聴き手にはトニーを代表する声として残っていても、歌っている本人には、背伸びして手に入れた歌い方でもありました。

そこで本人が見いだしたのが、もう少し低いところにある、自分の好きな声です。
高音の自分には物足りなさを感じる一方、中音域では声に荒さを加えやすいと話しています。
同じ旋律を歌えても、滑らかな声にするのか、少しざらつかせるのかを選べたほうが、本人には楽しいのです。
2016年の『The Ninth Hour』についても、自然に歌える音域を以前より多く使い、声色を変えたり、声で演技をしたりすることが増えたと説明していました。
本人はそれを、ギタリストが速弾きだけでなく、穏やかな部分を弾くのも楽しむことになぞらえています。
高い声も低い声も使いながら、歌い方に変化を付けることを本人は楽しんでいました。
ただ、高い声を張らずに歌いたくても、長年歌ってきた曲の高さをそのままにしておくと、うまくいかない場合がありました。
静かに歌いたいのに、元の高さでは声を張る必要があった
『Acoustic Adventures – Volume One』(2022年)は、過去の曲をアコースティックギターやピアノなどで編曲し直した作品です。
トニーには、こうした演奏に親しめる理由がありました。
普段からギターやピアノを使って曲を書くため、アコースティック化は、曲が生まれたときの形に戻るように感じられたのです。
ところが、メタルの録音と同じ高さで歌うと、歌だけが強くなりすぎることがありました。
本人によれば、仲間が落ち着いた雰囲気で演奏しているのに、自分は大声を出さなければならない。
その音域を元の歌い方で歌おうとすると、伴奏が作る雰囲気に収まらなかったのです。
必要だったのは、曲の高さを決める「キー」も含めて考え直すことでした。
トニーは自然に歌える高さを探し、声の強さや質感をもっと変えられるようにしました。
単に楽に音を出すためではなく、落ち着いた伴奏の中で、欲しい声を出すための調整です。
さらに、本人は普段のメタルのライブでは、細かな声色の変化が大きな演奏音に埋もれやすいと話しています。
アコースティックでは、その小さな変化も聴き手へ届きやすい。
声を変える余裕ができ、その違いを聴いてもらえることが、この演奏形式を気に入った理由でした。
柔らかく歌う声も、訴えかける声も使える
そのアコースティック作品の1曲目が、「The Rest of the Sun Belongs to Me」です。
もともとは速いパワーメタルの曲でしたが、再編曲では、中間部の速いギターと鍵盤の演奏を、スペイン風のリズムを使った部分へ置き換えました。
トニーたちは、元の曲をそのまま生楽器でなぞるのではなく、新しい演奏に合う形まで作り直しています。
この版については、トニーの柔らかな歌が、ギターの響きとうまくなじんでいると評価したレビューがあります。
声で伴奏を押し切るような力強さよりも、ギターと一緒に穏やかな雰囲気を作る歌として受け取られました。
高音を出す印象が強いトニーにも、こういう声を聴かせる曲があります。

一方、同じアルバムの「For the Sake of Revenge」では、感情を強く訴える歌が注目されました。
2007年の『Unia』に収められた曲を、こちらも2022年にアコースティックで歌い直したものです。
この2022年版の歌声を、聴き手に切々と訴えかけるようだと評した人もいます。
先ほどの「The Rest of the Sun Belongs to Me」が、柔らかな声とギターのなじみ方を評価されたのに対し、こちらではトニーが感情を押し出す歌い方が、曲の魅力として受け取られたのです。
ただし、その歌い方を誰もが心地よく感じたわけではありません。
別の聴き手は、「For the Sake of Revenge」の冒頭では歌と楽器がかみ合っていないと感じ、同じアルバムの「Don’t Say a Word」でも、声の高さや歌い方を変えすぎて落ち着かないと評しています。
表現の強さを魅力と感じる人もいれば、伴奏との釣り合いが気になる人もいたのでした。
ここで聴き手が評価しているのは、声の高さそのものに加えて、歌の感情をどれくらい強く表すかです。
柔らかな声で伴奏になじむ歌と、感情を前に出して訴える歌。
トニーが自然に歌える音域を求めたのは、こうした表現を自分の声で試しやすくするためでした。
中音域を好むのは、そこで声を変える楽しさがあるから
トニーが中音域を好む理由は、自分の声にざらつきを加えたり、強さや質感を変えたりしやすいからです。
アコースティックで歌う高さを探し直したのも、細かな声色を使って曲を歌えるようにするためでした。
出せる音の高さを確かめるだけでなく、自分の出したい声色から、歌う高さを決めているのです。
初期の高音が好きな人が、そこに魅力を感じ続けることと、トニーが中音域の自分を好むことは両立します。
「FullMoon」で知った歌手をもう少し聴くなら、柔らかな声を評価された「The Rest of the Sun Belongs to Me」と、訴えるような歌に好みが分かれた「For the Sake of Revenge」。
この2曲には、高音の印象だけでは分からなかった、トニー自身が楽しむ歌い方が表れています。
初期曲を歌い直すたびに何を変えてきたかは、トニー・カッコの歌声の変遷で、原盤と再録への本人の評価とともにたどっています。
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