福原美穂の歌い方|力強い声が、迷いや寂しさまで伝える理由

2023年のインタビューで笑顔を見せる福原美穂 シンガー
福原美穂(福原みほ)。2023年のインタビュー掲載写真。出典:Billboard JAPAN

福原美穂の「LET IT OUT」は、サビで声が大きく広がります。
それでも歌っている人は、最初から何も怖くないわけではありません。
福原がこの曲で届けようとしたのは、弱さを抱えたまま、もう一人と進もうとする気持ちです。

強い声をいつ、どんな言葉に使うのか。
「LET IT OUT」「優しい赤」「ICE&FIRE」では、同じ伸びやかな声が、それぞれ違う役目を持っています。

「LET IT OUT」――弱さを隠さず、サビを開く

「LET IT OUT」は、『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』の兄弟のうち弟の目線から書かれた曲です。
制作時に置かれた言葉は「強がらなくていい」。
強い声は、相手に弱みを見せないためのものではありません。

弟が兄へ気持ちを伝える歌と考えると、最初にある自分への問いかけも、サビの呼びかけも一人の心の中でつながります。
曲には、福原自身の経験ともつながる家族や兄弟への思いが込められています。
だからこそ、相手の前で平気なふりをする強さより、頼りたい気持ちを打ち明ける強さが曲を動かしています。

歌い出しでは言葉を落ち着いて置き、サビの長い旋律へ進むと、声の広がりがはっきりします。
その前の言葉を踏まえると、サビは一人で立つ宣言より、一緒に進もうと呼びかける場面として受け取れます。
大きな声だけを取り出すと見落としがちな、歌詞と声の順番です。

2013年のインタビュー時の福原美穂
2013年の福原美穂。
撮影:豊島望/CINRA

「優しい赤」――強い言葉で、離れる寂しさを歌う

「優しい赤」には、愛するものを「捨てる」と言い切る厳しい言葉があります。
福原が指していたのは、嫌いになった故郷ではありません。
北海道の家族や友人を愛しているからこそ、出発する決意を自分に言い聞かせる必要があったと振り返っています。

赤の記憶にも、きれいな景色だけではない生活があります。
子どもの頃、父に釣りへ連れて行かれた日は学校も休まされ、福原はつまらないと感じていたそうです。
ところが帰り道に見た海へ沈む大きな夕日が心に残り、東京で夕日を見るたびに北海道を思い出すようになりました。
強く離れると歌いながら、帰っていく場所の色を曲名にしているのです。

伸びのある声で「捨てる」と歌うと、決意は力強く届きます。
けれど、曲名に残したのは、その場所へ帰る道で見た色です。
言い切る声と忘れられない景色が同じ曲にあることで、強さは未練のなさではなく、寂しさを抱えた出発として響きます。

発売前の歌詞がどう変わり、2022年に本人がどう歌い直したかは、福原美穂の歌唱変遷の記事でたどります。

「ICE&FIRE」――冷たい音の上で、歌に熱を残す

「ICE&FIRE」は、違う二人が惹かれ合いながら、簡単には近づけない歌です。
福原はこの曲について、伴奏には少し冷たい雰囲気を、歌には熱を表したと説明しました。
高い音を勢いよく出すことだけでは、その二つの気持ちは伝わりません。

本人が説明する二人の関係には、好きなところだけでなく嫌いなところもあり、それでも引き寄せられるという矛盾があります。
近づくと溶けてしまう氷と火のたとえは、相手を守りたいのに距離を縮められない難しさを一度に伝えます。
その言葉のねじれがあるから、伴奏の冷たさに歌の熱を重ねる選択が生きます。

本人が選んだのは、歌い上げるよりも「語る」つもりで歌うことでした。
好きなのにうまく伝えられない人の言葉として歌うから、声の温度が伴奏と対照になります。
サビの大きさを聴く曲だけでなく、相手へ話しかけるような言葉の置き方にも耳を向けたい一曲です。

この「語る」という選択は、アニメ『宇宙兄弟』のエンディング曲「BEYOND」にも通じます。
福原は、作詞したカミカオルの温かい言葉を、一言ずつ相手へ問いかけるように歌ったと話しています。
録音中には、自分が夢を抱いていた頃の姿や風景も思い浮かべていたそうです。

「ICE&FIRE」は、惹かれる相手へうまく気持ちを伝えられない歌。
「BEYOND」は、夢へ向かう人に問いかける歌です。
どちらも声を相手へ向ける点では共通しますが、伝える内容が違うため、同じ語りかけでも役割は変わります。
力強い声を持つ福原が、曲ごとの言葉の細かさも大切にしていることが分かります。

バンドと歌う「ドリーマー」は、声だけで完結しない

福原の歌には、一緒に演奏する相手から生まれる表情もあります。
『RAINBOW』の「ドリーマー」は、本人の解説によればバンドと一緒に一発録りした曲です。
福原は、その場の空気や息遣いを含めて届いてほしいと書き、歌と共に一人ひとりの演奏を聴いてほしいと伝えています。

2010年の取材では、インディア・アリーのライブで、歌手が演奏のリズムの中へ一緒に入っていく姿に引かれたとも話しました。
ただマイクへ向かうだけではない温かさを感じ、自分のスタジオでも、みんなで音を合わせながらそうした音を目指したそうです。

大きな声が出せても、いつも歌だけが演奏を引っ張るとは限りません。
伴奏を聴きながら、言葉を入れる場所やフレーズの進み方を決める。
バンドと同時に歌った「ドリーマー」は、声の伸びだけでなく、声が周りの演奏と出会うところにも耳を向けたい曲です。

「ライジング・ハート」は、重なる声で励ます

一人の声の力を、重なりへ広げた曲が「ライジング・ハート」です。
福原はこの曲を、多くの声を重ねてゴスペルのような雰囲気を持たせる仕上がりにしたと説明しています。
聴く人に元気になってほしいという気持ちを、主旋律だけでなく声の厚みでも表したのです。

福原がゴスペルに感じた面白さには、歌と話し声の掛け合いもありました。
古い教会録音を聴いたとき、歌の合間に入る言葉のやり取りまでリズムに聞こえたと振り返っています。
声は、高い音を長く保つためだけのものではない。
誰かに返し、ほかの声と重なりながら気持ちを動かすものでもあるのです。

ピアノの前では、次の言葉までの時間も歌の一部になる

福原は、バンドでは決まったテンポに歌を乗せる一方、ピアノの弾き語りでは自分の呼吸と間で歌えると話しています。
次の言葉へすぐ進むか、少し待つか。
声量を変えなくても、言葉を急いで伝える感じと、確かめながら話す感じは変わります。

ピアノの前に座る福原美穂
ピアノの前に座る福原美穂(2023年)。
出典:Billboard JAPAN

「LET IT OUT」のサビでは、弱さを認めた言葉を広い声で相手へ届ける。
「優しい赤」の強い決意には、離れる場所への愛情が残る。
「ICE&FIRE」では、冷たい伴奏に対して歌を熱く、語るように置く。
福原の歌い方を支えているのは声の強さだけではなく、その力をどの言葉に使い、どこで待つかという選択です。

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