ロッド・スチュワートの声は、滑らかに磨かれた声とは違います。
ざらつきやかすれが、そのまま顔になる声です。
けれど、「しゃがれた声を強く出す人」とだけ捉えると、彼のバラードがなぜ親密に響くのかを説明しきれません。
録音で確かめられているのは、大きな声と、ごく柔らかな声の使い分けです。
さらに、伴奏に歌を置く感覚と、他人が書いた言葉を自分の経験へ結びつける力がある。
あの声の手触りを残したまま、曲の表情を変える歌い方を見ていきます。
かすれた声でも、音量は一種類ではない
活動の初めには、その声を荒すぎると判断したレコード会社の人もいました。
後に誰もが識別できる長所になるものが、最初から歓迎されたわけではありません。
ロッドは、自分の声を整った別人の声に替えることで居場所を得た歌手ではないのです。
『Another Country』を制作したケヴィン・サヴィガーは、ロッドは非常に大きな声を持つ一方、とても柔らかく歌う部分もあり、音量の幅が広いと説明しています。
録音では、その差を軽い圧縮処理で扱いました。
声のざらつきと音の強さは別の性質です。
同じ声色のままでも、どれほど前へ出すかによって、歌の距離感は変わります。
「Love Is」では、主旋律にロッド自身の上のハーモニーも重ねています。
録音された声の厚みには、歌手の出し方に加えて、声を重ねる制作上の工夫もある。
響きの豊かさを、喉の使い方一つに還元しないことが、この歌手を理解する助けになります。
演奏に押し勝つだけでは、ロッドの歌にならない
「Every Picture Tells a Story」の録音には、マギー・ベルが参加しています。
ロッドは彼女を迎えに行き、歌詞を渡し、録音は2テイクで終わったといいます。
初めてその場へ来た歌い手とも、短い時間で声の交わる曲を作り上げる。
ここには、独りで歌を完成させるのとは違う、共演の活気があります。
ジェフ・ベック・グループの時代を思い返したロッドは、よい演奏家に囲まれることで自分の歌もよくなったと話しています。
歌手だけが完成品を持ち込むのではなく、演奏を受けながら歌が育つ。
その経験は、荒々しい声を使うロックでも、周囲を聴くことが欠かせないと教えてくれます。
共演相手によって、声の組み合わせも変わります。
「It Takes Two」で組んだティナ・ターナーは、ロッドの声のざらつきに張り合える歌い手でした。
二つの個性的な声が出会うことで、声色の強さそのものがデュエットの魅力になります。
一方、「Every Time We Say Goodbye」は、簡素で甘い歌として評価されています。
強い声質を残しながら、歌の表情はここまで違うのです。
他人の名曲を、自分の声が住める歌にする
『The Great American Songbook』に取り組んだとき、ロッドが惹かれたのは、古い歌の美しさと、和音の豊かさでした。
単純なコード進行のロックとは異なる曲を歌っても、そこへ感情を吹き込めると感じていた。
形式を覚えるだけでなく、その曲で何を表せるかを考えていたことが分かります。
「They Can’t Take That Away from Me」や「It Had to Be You」では、歌い回しと届け方をよく練っていることが評価されています。
フランク・シナトラに似せた滑らかな歌手になる必要はありません。
少しくすんだ声や、人生を知った人の含みを残すことで、よく知られた曲にもロッドという人の顔が現れます。
ここでいう歌い回しは、音程どおりに音を並べることだけではありません。
一節をどんな気持ちで言い、言葉をどう相手へ渡すかということです。
整いすぎない声の感触が、古い歌の恋心やためらいを、身近な人の話として受け取れるものにします。

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歌の出来と、本人が感じる完璧さは一致しない
「In a Broken Dream」は、ロッドの歌声を印象づけた録音の一つです。
ところが本人は、もともとデモとして歌ったものが使われ、間違いも残っていると感じ、後年も聴くのを好まないと話していました。
聴き手が魅力を感じる声の切迫感と、歌った本人の満足は、必ずしも重ならないのです。
その声は2015年、A$AP Rockyの「Everyday」にも使われました。
本人の満足とは別に、古い録音の短い断片にも、次の時代へ届く個性があったのです。
自分の物語を歌う曲にも、その人らしさがあります。
ブライアン・アダムスとの対話では、言葉が簡単に出てくるタイプではないと話し、信じられる歌を選ぶことの難しさに触れています。
すらすら語りかけるような歌でも、その自然さの前には、何を言葉にするかを選ぶ時間があるのです。
『Unplugged』の「Have I Told You Lately」には、家族のことが胸に浮かび、ロッドが実際に涙ぐんだ場面もありました。
借りた歌の中に自分の生活を見つけたことで、歌はその場の感情と結びついたのです。
技巧を見せる以上に、言葉を本当に自分のものとして受け取る瞬間でした。
スウィングでは、柔らかさに加えて弾む力を使う
ジュールズ・ホランドとの『Swing Fever』は、バラード中心のスタンダード路線とは狙いが違います。
「Ain’t Misbehavin’」などが並ぶ中、ロッドはゆっくりした曲を入れず、勢いのある作品を望みました。
ジュールズは、スカ風にした「Love Is the Sweetest Thing」でのロッドと女性歌手たちの歌も高く評価しています。
「Lullaby of Broadway」では、古い名曲が、体を動かしたくなる大編成の音楽として取り上げられています。
歌の周囲には、ピアノや管楽器の活気がある。
親密に言葉を届けるスタンダードと、踊る音楽の中心で歌うスウィングでは、同じざらついた声に求められる働きも変わります。
ロッド自身は近年、かつてのようにマイクを投げたり派手な衣装を見せたりすること以上に、歌を聴いてもらいたいと話しています。
声が珍しいことだけで人を惹きつける段階から、その声で何を届けるかをより前へ出す。
長いキャリアを通して残ったのは、歌へのそうした関心です。
大きく出せる声を柔らかく扱う。
共演者の演奏に応じる。
人の書いた歌の中に自分の感情を見つける。
ロッド・スチュワートの歌い方の豊かさは、ざらつきを消すことではなく、その声にさまざまな役を与えるところにあります。
年代ごとの声の変化と、手術後に歌を取り戻した過程は、ロッド・スチュワートの歌唱変遷でたどっています。

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