ブリトニー・スピアーズの歌い方|息とざらつき、言葉の形で作る声の個性

ブリトニー・スピアーズ『Glory』(2016年)のジャケット シンガー
ブリトニー・スピアーズ『Glory』(2016年)のジャケット

ブリトニー・スピアーズをまねようとして、鼻にかかった甘い声だけを作ると、どの曲も同じ調子になってしまいます。
彼女の歌を特徴づけるのは、声の質に加えて、それを出す場所です。
ざらつきをいつ加え、どこで軽くし、どの言葉をリズムへ近づけるのか。
代表曲の歌唱と制作時の選択をたどると、その組み合わせが見えてきます。

甘い声の中に、ざらつく瞬間を入れる

「…Baby One More Time」では、明るく鼻にかかったような響きの中に、低くざらつく感触が混ざります。
滑らかな声をずっと保つのではなく、音の入り口や終わりで手触りを変える歌です。
このざらつきは、一般にボーカルフライと呼ばれる、きしむような声の質感として説明されています。

本人も、この曲では少しざらついた声を求め、声が伴奏と一緒に動くことを望んでいました。
美しく均一に伸ばすことだけを完成形にしていなかったのです。

「Oops!… I Did It Again」には、ざらつく声から通常の声へ移り、またざらつきを添える動きがあります。
反対に「Gimme More」では、言葉の終わりにその感触が現れる箇所があります。
声の粗さを一律に増やすより、フレーズのどこへ置くかに注目すると、曲ごとの違いが分かります。

発音を動かして、一つの母音にも表情をつける

ブリトニーらしい響きには、母音の形も関わります。
「…Baby One More Time」のyouやknowにも、特徴的な母音の響きがあります。
「Sometimes」のmeは、「ミー」とまっすぐ伸ばすより、「メイ」に近づく発音です。
同じ英単語でも、母音を一定に伸ばすのか、途中から別の響きへ動かすのかで、歌の表情は変わります。

声色だけをまねると、こうした言葉の形は後回しになりがちです。
しかし、歌声は母音を長く聞かせる場面が多いものです。
どんな声を出すかに加えて、その声で言葉をどう終えるかまで見ると、短いフレーズにも個性があることが分かります。

ステージでのブリトニー・スピアーズ(撮影:Greg)
ステージでのブリトニー・スピアーズ(撮影:Greg)。
画像出典:画像掲載元/CC BY 2.0

「Toxic」は、軽い高音と鋭い声で場面を変える

「Toxic」のサビへ向かう部分には、裏声やヘッドボイスと説明される軽い声が使われています。
一方、サビでは、その軽さに加えて、揺らしすぎない鋭い声が現れます。
声を重ねる録音も、後者の硬さを強めています。
軽さと切れ味の交代が、曲の起伏を作ります。

ここで注目したいのは、高音が出るかという一点より、前後の声の差です。
浮くように軽くなった声の後に、輪郭のある言葉が来ることで、同じ歌手の中に別の表情が生まれます。
録音で重ねられた厚みと、一回の発声の強さは分けて捉えると、歌の組み立てが見えやすくなります。

「Breathe on Me」は、息の感触を歌の内容につなげる

「Breathe on Me」では、ささやきや息を含む声が、一定の脈動を持つ伴奏と重なります。
大きく声を張って距離を越えるというより、相手がすぐ近くにいるような感覚を作る歌です。
題材と声の触感が結び付いているため、息の成分も歌の表情として働きます。

ただ息を増やすだけでは、言葉の輪郭まで弱くなることがあります。
この曲から考えたいのは、呼気の量を競うことではなく、声を近く感じさせることで何を伝えるかです。
強く言い切らないからこそ残る緊張も、歌の表現になります。

「Gimme More」は、話すような声をリズムへ置く

「Gimme More」のヴァースは、話し言葉へ近づいた歌として、後続の作家にも影響を与えました。
また、この時期の制作では、ブリトニーが主旋律の歌い方へ集中し、ケリー・ヒルソンが背景の声を担当した曲もあります。
録音全体の厚みを、すべて本人が一度に出した声と考える必要はありません。

言葉を話すように置く歌では、長い音を響かせること以外にも、リズムを作る方法があります。
一つの言葉を短く収め、次の言葉へ進む。
その細かな動きと、背後で続く声や伴奏を分けて見ると、主旋律が担う仕事がはっきりします。

2013年5月のブリトニー・スピアーズ(© Glenn Francis, www.PacificProDigital.com)
2013年5月のブリトニー・スピアーズ(© Glenn Francis, www.PacificProDigital.com)。
画像出典:画像掲載元/CC BY-SA 4.0

「Make Me…」では、感情が伝わる声を録音で詰める

「Make Me…」のバーンズは、歌声に感情が感じられることを、制作の大きな目標にしました。
強い加工を聞かせる方向から離れ、自然に感じられる歌へ近づけるために、ボーカルへ時間をかけたと話しています。
自然な歌とは、準備や録音をせずに出た声だけを指すわけではありません。
言葉が気持ちから出ているように感じられるまで、仕上がりを選んでいく作業も含まれます。

曲の土台も、制作の仕掛けを取り除いてなお歌として成立することが重視されました。
声が目立つ場所を作り、歌の感情へ注意を向ける。
声量を増やす以外にも、歌を中心へ戻す方法があります。

小さな声も、録音の中心に置けば表情が広がる

同じ『Glory』の「Invitation」では、小さく揺れるささやきが、音の中心に据えられています。
大きな声へ変わらなくても、声の細かな揺れが前に出れば、感情の動きは伝わります。
一方、「Clumsy」は短い声の動きを、強い電子音と組み合わせる曲です。
声をどれくらい大きく出すかと、完成した曲の中でどれくらい目立たせるかは、同じことではありません。

歌い直しと装飾で、曲に合う形へ近づける

「Hard to Forget Ya」の制作で、オスカー・ゲレスは、ブリトニーの録音現場に立ち会えませんでした。
届いた声は、彼が十代の頃から知る、あの声でした。
感激して、最初の30分ほどは作業できなかったといいます。
それでも制作では、一部を歌い直してもらい、自分で歌ったアドリブの案も送りました。
ブリトニーはその案に応じて歌っています。
主旋律を一度歌って終わりではなく、曲の隙間にどんな声を足すかまで、やり取りして仕上げたのです。

これは、特徴的な声を持っていれば、どんな曲にも同じ歌を置けばよいという話ではありません。
一曲の形に合わせて歌い直し、細かな装飾を試す。
すぐ本人だと分かる声にも、作品ごとに整え直す工程があります。

「Hold Me Closer」では、裏声と即興を共演へ生かす

「Hold Me Closer」の終盤では、曲を繰り返し流しながら、ブリトニーが旋律を自由に動かし、アドリブを作っていきました。
本人は納得するまで追加の録音を求め、ワットたちは複数の歌唱を選んで組み合わせています。
ワットが評価した裏声も、エルトン・ジョンの声と重なった時に、新しい効果を生みました。

軽い声や短い旋律を、共演相手の声へ重ねる歌です。

甘さやざらつきは、ブリトニーの声を知る入口です。
そこから先は、言葉の出始めと終わり、軽い声と鋭い声の切り替え、伴奏や相手へ声を渡す場所へ目を向ける。
一つの声色を長く保つだけでは生まれない、曲ごとの表情が見えてきます。

作品ごとにその選択がどう変わったのかは、ブリトニー・スピアーズの歌声の変遷でたどっています。

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