「花」は、歌い続ければ初期の録音をそのまま再現できる曲なのでしょうか。
ORANGE RANGEのHIROKIは、2025年の取材で当時の声の艶を出す難しさを語りました。
一方、その年には『THE FIRST TAKE』で、一曲を通して歌う「花」を届けています。
若い頃の声を目指してきたというより、今の自分と仲間で曲を成立させる方法を増やしてきた歩みが、そこにあります。
2004年の「花」――細かく録った声が、長く歌う一曲になる
2004年10月発売の「花」は、映画『いま、会いにゆきます』の主題歌でした。
HIROKIによると、当時の歌の録音は一曲を最初から最後まで通すより、箇所を分けて進めることが多かったそうです。
今も歌える曲でありながら、録音に残るあの頃の声には、現在の自分では再現しがたいものがある。
なかでも「花」は難しいと、本人は振り返っています。
「花」2004年の楽曲・MV(YouTube公開は2023年)。
この曲は、バンドを詳しく知らない人にも届きました。
HIROKIは地方で年配の人からも「花」を知っていると言われ、曲の力を実感するそうです。
多くの人が覚えている録音を持つ一方、歌い手は年月を重ね、その場ごとの声で向き合う。
代表曲を歌い続けることには、新曲を覚えるのとは違う難しさがあります。
2007年「イケナイ太陽」では、大人の人物へ背伸びした
初期のHIROKIには、声を出すこととは別の苦労もありました。
2007年の「イケナイ太陽」では、自分より大人の恋愛を言葉にし、それを歌で表現する必要があったのです。
2025年のJ-WAVE出演時、本人はこの曲の制作を振り返っています。
それまでの「上海ハニー」「ロコローション」などから一歩踏み込み、恋愛の駆け引きを描こうという方針がありました。
歌詞は各自の担当部分をそれぞれが書き、HIROKIにも大人らしさを求めるテーマが渡されます。
当時はいくつもの制作とライブが並行し、慌ただしく録音する日々でした。
その中で想像を働かせ、言葉を考えることにも、実際に歌うことにも苦労したそうです。
「イケナイ太陽」2007年の楽曲・MV(YouTube公開は2023年)。
長く親しまれる曲も、本人が最初から余裕を持って歌っていたわけではありません。
HIROKIは2025年になっても、曲の大人っぽさに追いついていないと冗談交じりに話しました。
その言葉からは、若い日の歌が勢いだけでできていたのではなく、求められた人物像へ手を伸ばす試みだったことが分かります。
2021年――緊張や失敗も、ライブの楽しみに含められるように
結成20周年を迎えた2021年、HIROKIは昔のライブに緊張や怖さがあったことを語っています。
勢いで進む分、無茶もあり、十分にできていないこともあった。
ただ、その頃の楽しさも強く記憶に残っていて、近年はそれが戻ってきたように感じていました。
変わったのは、緊張が完全になくなったということではありません。
そうした気持ちごと楽しもうと思えるようになり、失敗してもメンバーが笑って受け止めてくれる関係が、その余裕を支えていました。
幼い頃からの仲間と積んだ時間が、ステージで思い切って歌う土台になっていたのです。

写真出典:ガクシンFindの2021年取材
この年の「ラビリンス」は、アニメ『MUTEKING THE Dancing HERO』の世界を受けて作られました。
HIROKIは、作品のメッセージやポップな雰囲気をくみ取りつつ、言葉は自分たちの中にあるものを使うと説明しています。
「イケナイ太陽」で大人の世界を想像して歌った頃とは、作品への入り方にも違いが見えます。
外から与えられたテーマを、自分たちが持つ言葉と楽しさへつなぎ直していました。
「ラビリンス」2021年10月12日、中野サンプラザホールでのライブ。
若い頃の勢いを、本人は欠点として片づけてもいません。
経験は後から増やせても、その年齢にしかないノリがあったと振り返っています。
うまくできなかった過去も受け入れられることが、今のライブの楽しさと結びついていました。
2022年『Double Circle』――盛り上がるかどうかで曲を狭めない
2022年のアルバム『Double Circle』には、曲に対するHIROKIの見方の変化も表れています。
Vocal Magazine Webの取材で、以前はライブの盛り上がりを基準に曲を考えていたと話しました。
その後、すぐに盛り上がるタイプの曲でなくても、自分たちで形にできるという経験が増えたのです。
盛り上がるかどうかという一つの条件から離れ、仲間と演奏して届ける曲への信頼が大きくなっていました。
同じ取材でRYOは、打ち込み中心の曲でもスタジオで生のベースやドラムが入り、ライブ用にまとまっていく過程を説明しています。
HIROKIが語る信頼にも、録音をそのまま持ち込むだけではない、バンドで曲を作り直す時間があります。
歌も、音源の印象だけで可能性を決めず、その場で何ができるかを考えられるようになっていました。
作り方の分担にも柔軟さが増しています。
基本はNAOTOやYOHの曲に3人が歌を乗せ、自分が歌う箇所の詞を自分で書く方法でした。
近年は曲の得意な人に任せることも増え、「Pantyna feat.ソイソース」ではRYOに作詞を委ねています。
担当を守ることより、一曲が面白くなる組み合わせを選ぶようになったのです。
一方、体の扱いには以前と違う判断が必要になりました。
HIROKIは、昔は2日続けて歌ってもそれほど気にならなかったのに、終演後の疲労が大きくなったと話しています。
その分、回復にかかる時間を考え、無理が出る手前の感覚も分かるようになったそうです。
歌への自由さを広げながら、続けるための調整も自分で引き受ける時期に入っていました。
2025年の一発撮り――遊ぶ曲と、真剣に届ける曲
2025年、『THE FIRST TAKE』で先に披露したのは「イケナイ太陽」でした。
HIROKIは何度か撮って選ぶのかと思っていたため、本当に一回で終わったことに驚いたといいます。
2007年に背伸びして作った曲を、今度は長年のライブを経たメンバーで、一度の演奏として届けました。
「イケナイ太陽」2025年、『THE FIRST TAKE』。
続く「花」では、気持ちを切り替えています。
「イケナイ太陽」の遊んだ雰囲気を受け、こちらでは真剣に歌を届けようと考えていました。
HIROKIによれば、こうした緩急は普段のライブでも大切にしているものです。
二曲を並べると、一発撮りという同じ場でも、何を前に出すかを選んでいたことが分かります。
「花」2025年、『THE FIRST TAKE』。
2004年の録音と2025年の一発撮りでは、歌う条件も違います。
当時の艶を再現する難しさを知る本人が、今の一回の演奏に集中する。
「花」を歌い継ぐことは、保存された声をなぞるだけではなく、今の自分たちの歌として引き受け直すことでもありました。
昔からの持ち味を、新しい曲で選び直す
同年の「裸足のチェッコリー」では、ひと聴きでORANGE RANGEと分かる曲を意識して作りました。
HIROKIはJ-WAVEで、以前にはバンドらしさを嫌い、自ら離れようとした時期もあったと明かしています。
今はその持ち味を受け入れ、楽しめるようになったそうです。
3人の掛け合いと皆で歌える楽しさを、現在の新曲にも持ち込みました。
一方、映画『ストロベリームーン 余命半年の恋』の主題歌「トワノヒカリ」は、完成した映画を全員で観てから制作した曲です。
登場人物の葛藤を受け止めつつ、最後は前を向く言葉にしたい。
HIROKIたちは互いの詞を確かめ、RYOのラップへ至る全体の流れを考えました。
各自が持ち場を書くだけでなく、三つの声で一曲の結末まで運ぶ作り方です。

写真出典:めざましmediaの2026年取材
2026年の取材でHIROKIは、応援し続けるファンから得た安心感が、自由に楽しむ気持ちを支えていると語りました。
2007年には曲の役柄へ背伸びし、2021年には失敗も受け入れる仲間との関係を語り、2022年には曲を届ける選択肢の広がりを実感していた。
そうした年月の先に、昔のヒット曲も新曲も、今の3人の声で引き受ける姿があります。
一曲の中で言葉やリズムをどう選ぶかは、HIROKIの歌い方で掘り下げています。

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