花冷え。の曲で、マツリの親しみやすい歌声が入ると、激しい演奏の中にも口ずさめるメロディーが現れます。
ユキナの強烈な声と並んで、その対照を作るのがマツリです。
ただ、歌の魅力を「クリーン担当」の一言で片付けると、曲ごとの工夫を見落としてしまいます。
伸びやかに旋律を聞かせる時、言葉をまっすぐ渡す時、独特の節回しを持ち込む時。
そして、ギターを弾きながら歌うために、演奏の側を整える時。
マツリの歌い方は、声と曲の作りを一緒に見ると分かりやすくなります。
「Envy」では、声を荒らさずメロディーを響かせる
「Envy」の特徴は、攻撃的で疾走感のある演奏と、マツリの伸びやかな歌の対照です。
ここでいうクリーンとは、シャウトのような強い荒さを前面に出さず、音程のある旋律を聞かせる歌い方です。
曲が激しいからといって、声まで同じ質感にそろえる必要はありません。
音の大きさと、声の存在感は同じではありません。
伴奏も歌も似た質感で押し寄せる場面と、伴奏から異なる声が浮かび上がる場面では、耳が捉えるものが変わります。
クリーンな旋律は、激しい音の中に別の輪郭を作れる。
その関係を考えると、メタルの曲だから歌も荒くする、という捉え方では足りないことが分かります。
この曲で注目したいのは、最高音だけを切り取ることより、メロディーがまとまった線としてどう現れるかです。
ユキナの声が持つ激しさと、マツリの声が示す旋律。
その両方を追うと、曲の中で緊張感が変わる理由もつかみやすくなります。

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ギターの弾き方を選んで、歌える形を作る
2022年の時点では、正式なボイストレーニングの経験はなく、高校時代にカラオケの音程表示などを使って歌っていたと話しています。
まず、自分の歌を確かめる経験を重ねてきた人でした。
マツリは、歌うサビではギターをコード中心にしていると説明しています。
細かな単音のフレーズは、ユキナがシャウトする場面などに置く。
歌と演奏の両立を、曲の配置から考えているのです。
弾きながら歌う時、手と声は同じ動きをするとは限りません。
ギターが細かく刻む場所と、言葉を長く伸ばす場所が重なることもあります。
二つを一度にこなす難しさに対しては、歌い手の努力だけでなく、何を弾くかを選ぶ方法もある。
マツリの工夫は、まさにその具体例です。
サビで歌を届けたいなら、そこに必要な伴奏を置く。
ギターの見せ場は、別の声が前に出る場面に用意する。
こう考えると、歌の聞かせ方はマイクの前だけで決まるものではないと分かります。
作曲と演奏を担う本人だからこそ、歌いやすさを曲の形に組み込めるのです。
「LOVE♡乱舞」では、歌の節回しを変える
「LOVE♡乱舞」では、お経を思わせるメロディーをマツリ自身が歌いました。
その発想はデモの段階からあり、三味線や木魚などを取り入れた重い曲に組み込まれています。
ここで変えているのは、声を強くするか弱くするかだけではありません。
どんな音の並びで言葉を運ぶか、その発想が曲の印象を作っています。
「Envy」のように旋律を伸びやかに響かせる曲と並べると、同じクリーンボーカルでも、担う景色が違うことに気づけます。
「GAMBLER」でも、和風の音とマツリの歌声の結び付きが、曲の特徴になっています。
和楽器風の音を背景に置くだけでなく、そこにどんな声を組み合わせるかが大切なのです。
メロディーと声の質感を切り離さずに捉えると、マツリの歌が曲の色合いを作っていることが見えてきます。
「TOUSOU」では、二つの声に役柄がある
「TOUSOU」は、シャウトが追う側、クリーンボーカルが逃げる側という作りです。
声の違いが、曲の中の追いかけっこを表しています。
マツリは、遊びの多い歌でも自分の言葉は率直にして、聴き手が曲の主題を受け取りやすくすることを意識していました。
歌い分けは、その場の思い付きだけで決まるものではありません。
マツリはデモを作る段階で、それぞれが歌う場所を考えます。
ユキナには声の大まかな方向を伝え、その先は本人の発想も生かす。
各自が自分のパートの歌詞やメロディーを考え、制作の中で合わせていく方法です。
さらに、持ち寄ったアイデアは、録音前の試作で複数の形を試して選びます。
最初に決めた歌い分けを、ただ正確に実行すれば完成するわけではない。
相手の声の案も受け取り、曲に合う組み合わせを探す過程があります。
二つの声が交互に出ることと、二人が同じ曲を作ることは違います。
「TOUSOU」のように役柄が分かれれば、声の交代そのものが物語の動きになる。
マツリの歌を味わう時も、単独の美しさだけでなく、直前のユキナの声にどう応じる場面なのかを見ると、歌の意味がはっきりします。

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自分の声を聞けることが、舞台の歌いやすさにつながる
マツリが歌いやすさの大きな変化として挙げたのは、イヤーモニターと音の調整でした。
他のメンバーの音も分かるようになり、公演ごとの課題を把握しやすくなったといいます。
一方で、イヤーモニターを使わないライブの良さも感じていて、両方を使い分けたいと考えていました。
歌う音程やタイミングを合わせるには、自分がどんな音を出しているか、周囲がどう動いているかを確かめられることも大切です。
聞こえづらい状況を、声を大きくすることだけで解決しようとしても、必要な情報が増えるとは限りません。
歌の安定を考える時には、声の出し方と同時に、何を聞いて歌っているかにも目を向けたいところです。
サビの感情を、曲の物語に合わせる
「命短し対する乙女よ」では、ユキナのパートにゲームの用語が多く入る一方、マツリのサビは広く伝わる言葉で作られました。
本人が意識したのは青春らしさです。
攻める演奏の中に、登場人物の気持ちへ近づくメロディーを置いています。
マツリは曲を作る際、展開を入り組ませるか、率直なロックにするかを考えています。
「ぶっちぎり東京」のように気持ちをまっすぐ伝えたい曲と、展開を自由に動かす曲を、作品の中で組み合わせる。
その判断は、歌を聞かせる場面の作り方にもつながります。
マツリの歌にある親しみやすさは、激しい音楽を薄めるための飾りではありません。
旋律を通す、役柄を示す、気持ちを伝える。
曲に必要な役目を、声とメロディーで引き受ける力です。
歌が入る前後の変化や、ギターとの関係までたどると、サビが心に残る理由を、もっと具体的に感じ取れるでしょう。
表現が広がってきた歩みは、マツリ(花冷え。)の歌唱変遷でたどっています。

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