宇野実彩子の歌い方|言葉の温度で、声の強さを変える

2020年、「最低な君にさっきフラれました」の取材時の宇野実彩子 シンガー
2020年、「最低な君にさっきフラれました」の取材時の宇野実彩子

「最低な君にさっきフラれました」で、宇野実彩子が目指したのは、ため息のように言葉がこぼれる声でした。
声の強さを変えて、どんな感情を届けようとしているのでしょうか。

声になりきらない気持ちを歌う

本人が語った震える声は、悲しみの中にいる人物を表すためのものでした。
それを不安定さという一言で片づけると、歌で伝えたかったことが見えなくなります。

一方、「サヨナラを選んだ私」は、亀田誠治が編曲を手がけ、力強いボーカルが印象づけられた曲です。
本人は、歌うたびに少しずつ別れを乗り越えられるのではないかと話していました。
悲しい題材でも、声の向かう先は一つではありません。
気持ちが言葉になりきらない場面もあれば、その気持ちを引き受けて前へ進もうとする場面もある。
宇野のバラードは、悲しさに同じ声色を当てはめるだけでは捉えきれないのです。

夏の恋では、歌うときの気分から変える

2018年、「Summer Mermaid」発表時の宇野実彩子
2018年、「Summer Mermaid」発表時の宇野実彩子。
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「Summer Mermaid」では、本人は肩の力を抜き、浮かれた気分で録音したと説明しています。
歌詞には、聴いてすぐ受け取れる言葉や、夏の情景を思い浮かべられる小物を選びました。
その世界にいる女の子の、いろいろな表情を歌にも持たせたかったのです。
深刻な歌と同じ重さを声に持たせるより、恋を楽しむ気分を先に置く。
感情を強く込めることが、いつも声に力を加えることにはならない例です。

その人物像は、歌う段階で急に用意されるものでもありません。
『Honey Stories』について宇野は、歌いたいテーマを決め、女性像を思い描き、そこから場面や登場人物を立ち上げて歌詞を書くと話しています。
一曲ごとにドラマを考えるような作業です。
誰が、どんな気持ちでこの言葉を口にするか。
歌うときの気分や表情を選ぶ前に、その土台が作られています。

だから、宇野の恋愛曲をすべて本人の出来事の再現として読む必要はありません。
「Summer Mermaid」でも、過去の恋をそのまま書くのでなく、人物の性格や好みを考えながら新しい恋を想像していました。
歌声にある人物らしさは、その想像を経た表現として受け取れます。

発音と音の長さまで、歌の表情にする

宇野はソロで提示したい音楽について、歌詞だけでなく、発音、譜割り、キーの高さまで自分に合うものを考えると話しています。
譜割りとは、言葉を旋律やリズムのどこに置くかということ。
同じ言葉でも、どの音を長く保ち、どんなタイミングで次へ進むかによって、歌の表情は変わります。
本人が選んでいるのは、歌う内容と、それが声になったときの響きの両方なのです。

英語詞を歌う際には、長く伸ばす部分の発音をネイティブに確認すると明かしています。
西島隆弘と歌った「BEAUTY AND THE BEAST」について尋ねられたときの説明です。
会話では短く通り過ぎる音も、旋律の中では長さを持つ。
普段の会話ができることと、伸ばした音が自然に聞こえることを、本人は分けて考えていました。

宇野は、歌うときには少し大きめの抑揚がちょうどよいのではないかとも話しています。
例に出したのは、日本語の会話でも、相手へ伝えるために自然と抑揚をつけることでした。
言葉を機械的に正しく並べるのでなく、意味を届ける動きを音に持たせる。
発音の確認と表情のある歌唱は、別々の目標ではなく、同じ言葉を伝えるための作業になっています。

踊る曲では、声もリズムの一部になる

言葉の意味を前に出す歌とは違う面を見せるのが、『Sweet Hug』に収録された「BLACK CHERRY -black honey mix-」です。
この曲は、日本語と英語を交ぜ、声も楽器のように響かせる歌として評されています。
物語を一文ずつ語るだけでなく、音の並びそのものを踊れる感覚につなげている。
「#one_love_pop」も、言葉の響きの心地よさを生かした譜割りが特徴と評された曲です。

同じ『Sweet Hug』の「きみとぼく」では、ボーカルとコーラスの掛け合いが、感謝の言葉を届ける役割を担います。
一人の声を前面に置くだけでなく、声が応じ合う形でも曲の表情が生まれる。
宇野の歌を追うときには、声質に加えて、声が伴奏や別の声とどんな関係を作るかも聴きどころになります。

同じ舞台でも、甘さと強さは使い分ける

2019年2月、First loveツアー・NHKホール公演の宇野実彩子
2019年2月、First loveツアー・NHKホール公演の宇野実彩子。
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2019年2月7日のNHKホール公演では、「Lock on」で甘えるような呼びかけを交え、客席を引き込む姿が記録されています。
同じ公演で歌ったアヴリル・ラヴィーンの「Complicated」は、高校時代によく聴いた曲。
ギターを弾きながらの歌唱は、聴き手の背中を押すような力強さを持つものとして評されました。
一つの公演の中で、声が相手へ近づく形を変えていたのです。

可愛らしく語りかける声と、力を込めて歌う声。
どちらか一方だけを宇野らしさとするより、その切り替えが舞台で担う役割を見ると、表現の幅が分かります。
聴き手を誘い込む場面から、一緒に前へ進もうとする場面へ。
声の強弱は、歌の相手との関係を作る手段にもなっています。

少ない伴奏に歌を預けるときには、また違う集中が必要でした。
2022年、ピアノ一台との弾き語りを経験した宇野は、それを歌と繊細に向き合う挑戦だったと振り返っています。
踊りながら見せる華やかさに加えて、歌そのものへ意識を集める時間も持ってきたのです。

「サヨナラを選んだ私」の力強さも、別れを引き受け、歌うことで乗り越えようとする姿と結びついています。
声の強さを、感情の向かう先から考える。
そうすると、同じ失恋の歌でも異なる声を選ぶ、宇野の表現が見えてきます。
歌を自分で選び直してきた過程は、宇野実彩子の歌唱変遷でたどっています。

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