しぐれういの歌声の変遷|歌への苦手意識から、声で役柄を描き分けるまで

2022年『まだ雨はやまない』のジャケット しぐれうい
2022年『まだ雨はやまない』のジャケット

しぐれういの歌は、最初から得意な表現として始まったわけではありません。
2020年には、子供の頃から歌に苦手意識があり、人前で歌う自分を考えてもいなかったと話していました。
絵を描く人が、どうして声でも人物や物語を表すようになったのでしょうか。

人前で歌うことを避けていた頃

2020年の最初の歌配信は、剣持刀也とのテトリス対決に負けた罰ゲームがきっかけでした。
同年の取材でも、本人はそのアーカイブを消したくなる気持ちを冗談交じりに語っています。
楽しい配信を作ることには積極的でも、歌声を人に聴かせることには強い抵抗があったのです。

ただ、歌うこと自体は好きで、人前で歌う機会の少なさが苦手意識につながっていました。
犬山たまきに誘われ、周囲に励まされる中で、歌を聴かせることにも慣れ、楽しさが前に出てきたと説明しています。

2022年、歌にも表情を付けられると知る

2022年の取材で公開されたしぐれういの3Dビジュアル
2022年の取材で公開されたしぐれういの3Dビジュアル。
画像出典:画像掲載元

2022年1月の3Dお披露目前には、歌の指導を受けて自宅で練習しました。
そこで、絵と同じように歌にも表情を付けられると気づきました。
語尾に楽しさを加えるなど、歌詞に沿った工夫を覚えたのです。

5月の「うい・おん・すてーじ -雨上がりの文化祭-」では、その歌を物語の中へ組み込みました。
大空スバルと歌った「にっこり^^調査隊のテーマ」は、自分で歌うには難しいと感じていた曲。
早口の歌と二人の掛け合いが、文化祭の軽音ライブという場面を作ります。
歌だけを切り出して披露するより、相手や場面と結びつけて届ける形でした。

終盤には、二年前の歌配信を悔しく感じていたこと、そこから練習や舞台を重ねたことも明かされました。
最後に選んだ「Pris-Magic!」は、大空スバルへの思いをもとに生まれた曲です。
自分の歌を見られる恥ずかしさに加えて、歌で感謝を伝えたいという相手がいる。
この日の舞台には、歌い続けてきた理由も表れていました。

Pris-Magic!(2024年公開MV)

最初のアルバムから、一つの声に役割を決めなかった

同月に発表した『まだ雨はやまない』では、本人が作家へ曲の方向を伝えています。
「放課後マーメイド」は、絵を描くのが好きな学校の女の子を思い描いた曲。
難しいリズムをよく聴き込んだうえで、水たまりのそばをスキップするような気分で歌ったと話しました。
練習で目指したのは、場面の楽しさを伝えることでもありました。

放課後マーメイド(2026年公開MV)

一方、「rainy lady」では、本人の内面や配信上の出来事を盛り込むより、自分の声質に合う曲をJunkyへ依頼しました。
切ない青春の雰囲気を求めたのです。
同じアルバムに明るい曲と切ない曲があるのは、後から表現力が付いた結果だけではありません。
出発点から、声と曲の関係を違う角度で試していました。

2023〜2024年、キャラクターを歌う声を広げる

「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」の主人公は、配信に登場する「しぐれうい(9さい)」。
2023年の本人の説明では、アルバムの中に九歳の曲が一つあったら面白い、という発想から生まれました。
音楽も配信の延長にあり、そこで起きた出来事を作家へ伝える。
役柄を歌にする方法は、リスナーと築いた世界から生まれていたのです。

一方で、ヒットした一曲の人物像だけで理解されることには戸惑いもありました。
2024年の「うい麦畑でつかまえて」では、普段のリスナーとふざけ合う関係を題材に、別のキャラクターソングを作っています。

5周年の企画には、イラストレーターの自分と、作品としてのVTuberをどちらも大切にしたいという考えがありました。
個展でも二つの世界を分け、その境目で重なるように設計しています。
キャラクターとして楽しんでもらえる存在を、自分で作る。
歌声の使い分けも、その創作全体の中で考えると理解しやすくなります。

9月の『fiction』では、描き手側とキャラクター側の曲で歌い方を分けたと明言しました。
最後の「勝手に生きましょ」は、その二人によるデュエットを目指した曲です。
曲ごとの違いが、歌の中で誰になるかという選択にもつながりました。

ラップへの挑戦と、舞台で応じ合う声

同じ『fiction』の「ひっひっふー」では、自分を励ます曲をじんへ頼んだところ、本格的なラップが届きました。
面白さを感じて引き受け、半分の速さで練習しても、収録には約八時間を要したといいます。
経験のなかった言葉の運びに取り組んだ曲でした。

ひっひっふー(2025年公開MV)

10月の「masterpiece」では、「勝手に生きましょ」の二人が舞台上にも現れます。
二人のしぐれういが並んで声を重ね、最後は一人で歌い上げる構成でした。
録音作品で考えた、自分とキャラクターが向き合う関係を、観客の前で見える形にしたのです。
可愛い声の印象だけでは収まらない表現が、公演の山場を担うようになりました。

2025年には、花譜と星街すいせいとの「仮装狂騒曲」で、別々の個性を持つ三人のカバーにも参加しました。
しぐれういは倉本千奈のパートを歌い、その無邪気さを節回しに重ねています。
ラップを含む曲への挑戦は、一人で作品を作るだけでなく、他の歌い手の声と役を分け合う場にも広がりました。

2025〜2026年、自分の声から生まれた相手とも歌う

2025年には、本人の声をもとにした歌声合成ソフト「VoiSona 雨衣」が登場しました。
しぐれういは声だけでなく、キャラクターデザインも担当しています。
これは、本人がすべての曲を実際に歌う活動とは別の展開です。
声が他の作り手の表現にも使われるようになったことと、本人の歌唱の変化は、分けて見ておく必要があります。

2026年の「ウィマーマ・サーガ」では、役柄の関係をさらに複雑にしました。
公開配信で明かされた制作経緯では、IOSYSへ「ロリ神」と「うい麦」の人物が対決するような曲を依頼したところ、制作の中で第三の存在が加わったといいます。
一人の声で異なる態度を示す面白さが、キャラクター同士の対立を描く新曲へつながりました。

2026年5月「Wishing Umbrella」、黒髪・制服姿のしぐれうい ©Ui Shigure
2026年5月「Wishing Umbrella」、黒髪・制服姿のしぐれうい ©Ui Shigure。
画像出典:画像掲載元

5月の「Wishing Umbrella」では、全編生バンドの演奏の中で雨衣と共演。
「二人模様」はピアノ弾き語りから歌い始めました。
自分の声から生まれた相手と歌う場面と、楽器と歌へ意識を集める場面が、一つの公演に並んだのです。

広がったのは、声を使う相手と場面の組み合わせでもありました。
人前で歌うことへの抵抗から始まった歩みは、声でも登場人物を描き分ける表現へつながっています。
具体的な語尾や声色の選択は、しぐれういの歌い方で掘り下げています。

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