オリビア・ニュートン・ジョンの歌声の変遷|柔らかな声から力強さへ、そして自分の言葉を歌うまで

1978年11月、スキポール空港の記者室でのオリビア・ニュートン・ジョン/撮影:Bert Verhoeff・Anefo オリビア・ニュートン・ジョン
1978年11月、スキポール空港の記者室でのオリビア・ニュートン・ジョン/撮影:Bert Verhoeff・Anefo

オリビア・ニュートン・ジョンの歌は、優しい声のままでありながら、大きく姿を変えてきました。
初期の親密なバラード、映画『グリース』で開いた力強い表現、全曲を自ら書いた『Gaia』。
変わったのは衣装や曲のジャンルだけではありません。
どんな声を使い、誰のために歌うのか。
本人と制作側の言葉をたどると、その選択が変わる場面が見えてきます。

1970年代前半|静かに歌うことを、自分の持ち味にする

初期のオリビアをカントリーだけで捉えると、出発点を少し狭めてしまいます。
本人は1974年、自分が歌うのは新しい曲、古い曲、カントリーを含む、親しみやすい音楽だと説明していました。
もともとは、穏やかなフォークの歌い手。
メロディーと言葉に惹かれ、声に合う曲を選んだ結果、カントリーの聴き手にも届いたのです。

その柔らかさは、大きな声を出す歌手が周囲にいなかったから生まれたわけではありません。
1975年には、強く大きく歌う方法も試したものの、自分には合わなかったと振り返っています。
録音の際にプロデューサーから優しく歌うよう促され、クラブでフォークを歌っていた頃のやり方へ戻った。
静かな声を選ぶことが、自分の歌を見つける道になりました。

「Let Me Be There」の明るさと、「I Honestly Love You」の打ち明けるような親密さ。
初期の魅力は、単に声が小さいことではなく、曲ごとの気持ちを柔らかな声の中に置けることにあります。
その持ち味は、後に強い歌へ進んでも、捨てる必要のない土台でした。

当時の本人は、自分に合う音域を選ぶことも重視していました。
強く張る力が十分でない場所では無理をせず、自分の声がよく聞こえるところで歌う。
1975年には、初めは周囲の助言で選んでいた曲を、次第に自分でも判断できるようになったと話しています。
得意な声を知ることが、次の挑戦を考える土台にもなっていたのでしょう。

1973年の原録音(2022年リマスター)。

1974年のレコード広告に掲載されたオリビア・ニュートン・ジョン/MCA Records
1974年のレコード広告に掲載されたオリビア・ニュートン・ジョン/MCA Records。
画像出典:画像掲載元

1978年|『グリース』の役が、声の可能性を広げる

転機になったのが、映画『グリース』のサンディ役です。
オリビアは後に、役を演じていたからこそ、それまで思いつかなかった力強い歌い方を試せたと説明しています。
自分自身として急に変わるのは難しくても、登場人物としてなら踏み出せる。
その姿が受け入れられ、新しい歌い方を選ぶ自信につながりました。

「You're the One That I Want」を書いたジョン・ファーラーは、映画の場面に合うテンポを考え、若々しく気取らない曲にしようとしていました。
一方で、同じ映画には「Hopelessly Devoted to You」のバラードもあります。
恋に悩む姿と、相手へ向かう姿を歌い、声が引き受ける人物像を広げました。

『Totally Hot』から『Physical』へ|強さが、特別な演技ではなくなる

映画と同じ1978年の『Totally Hot』では、小編成の、よりロック寄りの音へ進みます。
ファーラーは、『グリース』によって従来の聴き手の枠から出られたことが、この変化を可能にしたと考えていました。
「A Little More Love」などで示した方向は、映画の中だけに留まらなかったのです。

1981年の『Physical』では、制作前から二人で、少し重く、ロックの色が強く、明るい作品にしようと話し合っていました。
本人が楽しい気分で過ごしていたことも、その選択につながっています。
強い歌は、新作全体の方針になっていました。

ただし、本人は新しい客層を狙うためだけに変えたとは話していません。
数年前には挑めなかった曲へ、今なら向かえる。
自分にできる範囲を分かったうえで、好みと自信が変わったと捉えていました。
昔の歌い方を否定する変化ではなかったのです。

1994年|『Gaia』で、歌う言葉と制作を自分の側へ引き寄せる

『Gaia: One Woman's Journey』では、全曲を書き、自ら資金を出し、共同プロデュースにも加わりました。
乳がんの経験など、自分が生きてきたことを本にしようと考えていたところ、それが音楽になったといいます。
澄んだ音色を保ちつつ制作は控えめになり、本人の経験や自然への思いが中心に置かれました。

長年組んだファーラーに代わり、マレー・バーンズとコリン・ベイリーと作ることも、大きな変化でした。
望む形を自分で伝え、ときには相手の提案を受け取る。
本人が深く制作に関わったこの作品では、声をどの言葉に、どんな音楽とともに置くかまで、自分の課題になっていたのです。

1995年1月31日、『Pebble Mill』出演時。

1998年|「I Honestly Love You」を、もう一度歌いたくなる

1998年の新作へ向かう前には、喉の不調を経験し、もし声が使えなくなったら、と考えた時期があったと本人は話しています。
当たり前に思っていた声を、もう一度使いたい。
そう考えて録音を思い立ち、戻りたい場所にカントリーを選びました。

カントリーの要素へ戻った『Back with a Heart』には、「I Honestly Love You」の再録が入っています。
きっかけは、テレビで急に歌うことになった際、オーケストラではなくピアノだけを伴奏にした経験でした。
その感触と観客の反応が気に入り、またアルバムを作るなら録り直したいと思ったのです。
新録ではベイビーフェイスも歌声を添えました。
昔の成功をそのまま再現するためでなく、別の伴奏で歌ったことで、曲をもう一度見つけた例です。

1998年の再録版。

2012年1月、映画『A Few Best Men』のプレミアにて/撮影:Liam Mendes
2012年1月、映画『A Few Best Men』のプレミアにて/撮影:Liam Mendes。
画像出典:画像掲載元/CC BY-SA 2.0
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2000〜2010年代前半|歌の役目と、声との付き合い方が変わる

2006年の『Grace and Gratitude』で目指したのは、自分自身や周囲との関係を見つめ、心の平安を感じられる音楽でした。
本人のために作った作品でありながら、聴き手にも穏やかな時間が届いてほしいと願っていました。
歌の役目が、心を躍らせることから、心を静めることへ広がっていきます。
力強さを身につけた後だからこそ、静けさを選び直す歩みも見逃せません。

2006年のアルバム収録版。

そうした作品に取り組む一方で、ポップの実験も続けていました。
2014年発売の『Hotel Sessions』は、甥のブレット・ゴールドスミスと2002年から2011年に録音した曲をまとめたものです。
晩年へ向かう歌を、癒やしの一色に塗り替えることはできません。

2011年には、若い頃にはしていなかった発声のウォームアップを行うようになった、とも話しています。
声をそのまま頼りにするのではなく、歌う準備を意識するようになった。
表現を広げる歩みの裏側で、声との付き合い方も変わっていました。

翌2012年には、共演するスティーヴ・リアルに歌を教わり、声の調子を保っていると説明しています。
若い頃より、声の扱いに注意を向けるようになったという変化です。
以前のように歌えることを当然とせず、歌い続けるための準備を日常へ組み込んでいました。

2016年以後|一人で伝える声から、誰かと支える声へ

『LIV ON』は、エイミー・スカイ、ベス・ニールセン・チャップマンとの三人の作品です。
姉ロナを失った悲しみから歌を書いたことが、喪失を経験する人のためのアルバムにつながりました。
三人は新曲を共作するとともに、それぞれの持ち歌も歌い直しています。
オリビアの「Grace and Gratitude」も、その一曲でした。
互いの曲でバックボーカルを担当し、主役にも支える側にも回る歌へと広がったのです。

2016年『LIV ON』収録版。

三人で立つ舞台について、本人は感情の面でも仲間に支えてもらえる喜びを語っています。
深い悲しみを扱う歌だからこそ、共演者の存在も、歌を届ける力になりました。

2021年の「Window in the Wall」では、娘のクロエ・ラタンジと歌いました。
新たに録音する予定はなかったものの、届いた曲の言葉に心を動かされ、歌うことを決めたのです。
違う考えを持つ相手を理解しようとする内容を、とても個人的な歌だと受け止め、共に歌う相手には娘しか思い浮かばなかったといいます。
歌う必要を感じる言葉と、声を重ねたい相手が、新しい録音へ向かわせました。

オリビアの変遷には、強くなった声が、最後まで強さを増し続けるという単純な線はありません。
自分に合う優しさを選び、役を通して力を出し、自分の言葉を書き、仲間と歌を分かち合う。
声を何に使うかを、その時々で選び直してきたのです。
曲ごとの発声や録音での判断は、オリビア・ニュートン・ジョンの歌い方で詳しく取り上げています。

アイキャッチ:1978年11月、スキポール空港の記者室でのオリビア・ニュートン・ジョン/撮影:Bert Verhoeff・Anefo/画像掲載元/CC0 1.0
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