TENDREの歌い方|低い声の響きと、力を入れすぎない表現の作り方

2026年3月15日のBillboard Live TAIPEI公演でマイクを持つTENDRE TENDRE
2026年3月15日のBillboard Live TAIPEI公演でマイクを持つTENDRE

TENDREの歌を特徴づけるのは、低い声の存在感と、聴き手を急かさない語り口です。
柔らかく歌っていても、旋律や言葉の輪郭は残る。
その両立を、声の強さ、リズムの置き方、重ねる声の役割から見ていきます。

低い声にも、はっきりとした存在感がある

2021年の公演でTENDREの歌に驚いたのが、映秀。
高音の目立つ歌手とは異なる、低音の響きと言葉の届き方を感じたと話しています。
録音では声も楽器のように感じられる一方、ライブでは歌がはっきり前に来る。
低い声にも存在感があることから、その違いを捉えていました。

彼は象眠舎の「Mirror(feat. TENDRE)」を代わりに歌った際にも、その難しさを感じています。
高い音がなく、旋律をなぞれても、言葉から情景を浮かばせるのは簡単ではなかった。
低めの音域で歌えることと、そこで十分な表情を作れることは別なのです。

高音の到達点だけを見れば、この種の歌唱の難しさは見落としやすくなります。
強く張る箇所が少ない歌では、言葉の始め方や、ひとまとまりをどう終えるかが、そのまま表情になります。
TENDREの歌を捉えるときも、音の高さと、伝わる強さを分けて考えると特徴が見えてきます。

リズムの後ろに寄りながら、言葉を置き去りにしない

「DOCUMENT」の録音を手がけたyasu2000は、TENDREの歌に、拍から遅れそうで遅れない位置を使う感覚と、日本の手拍子にも通じる親しみやすいリズムが共存していると説明しています。
レイドバックとは、このように拍の後ろ側へ重心を置く歌い回しのことです。
単に遅く歌うのではなく、伴奏が進む中で声の入る位置を選び、余裕のある動きを作ります。

録音中には、リズムに収まる言葉の数を考え、歌詞そのものも調整していました。
完成済みの文章を伴奏へ押し込むのでなく、声にしたときの動きまで含めて言葉を選ぶ。
音の流れと日本語の聞き取りやすさを、同時に組み立てる歌なのです。

河原は、歌を前面に出すほうがよい曲もあれば、少し引いた位置に置くほうがよい曲もあると考えています。
歌と語りを区別し、曲に合う距離を選ぶ。
声を控える意味もあるのです。

声を長く保つ場面では、楽器に動いてもらう

「FANTASY」では、サビの入りの歌がロングトーンになることを踏まえ、ベースに動きのあるフレーズを与えています。
河原が意識したのは、歌が伸びている間に、楽器も歌うような関係でした。
声が伸びる間も、音楽は動き続けます。
歌と伴奏の両方を作る人だからこそ、歌声だけにすべての役目を背負わせないのです。

この曲では、四つ打ちのビートと、前へ出るベース、歌のつり合いも考えられていました。
声が一つの音を保つ間、ベースはどう動くのか。
声を伸ばすことが、楽器の動きを際立たせる選択にもなる。
その関係が、歌の落ち着きと躍動感を両立させています。

カバーでは、声の違いを消さずに組み合わせる

池田智子と歌った2022年の「水星×今夜はブギー・バック」では、異なる二曲と二人の声を組み合わせています。
池田は、TENDREが「今夜はブギー・バック」のAメロで選んだ細かな旋律の取り方を、特に気に入ったと話しました。
原曲を歌う場合も、歌い回しに解釈が出ています。

TENDRE自身も、二人の声の性格が違うからこそ、終盤で歌う側が切り替わると印象の差が際立ったと説明しています。
相手に似た声を作ってなじませるのではなく、それぞれの声を残して一曲にする。
柔らかな歌声は、独唱のときだけでなく、別の声と並んだときにも役割を持っています。

重ねる声は、主旋律を包むために使う

土岐麻子の「眠れぬ羊」では、土岐の主旋律を聴いてから、温かい男声のコーラスで包む発想が生まれました。
TENDREは自分で歌を調整しながら、声を重ねていきます。
前へ出て曲を引っ張る声とは異なり、ここでは主役の歌の周囲に柔らかさを足すことが役目です。

土岐はその作業の手際に驚き、ライブでもTENDREが熱くなりすぎず、理性的に歌っていると感じていました。
だからといって感情を薄くしているわけではありません。
ソロの低い声では言葉を届け、コーラスではほかの人の歌を包む。
同じ声の持ち主でも、曲の中で担う仕事を変えています。

自然な声のまま、歌に入る瞬間を作る

TENDREは2021年の時点で、本番前の決まった儀式を増やさず、仲間と話していた状態のまま舞台へ行くことを大切にしていました。
決めたことをできなかった不安に縛られるより、客と話しやすい状態でいたいからです。
自然体という印象には、こうした舞台への入り方も関わっています。

鍵盤を弾きながら歌う際には、歌と演奏を一体にすることを意識しているといいます。
ベースボーカルを続けていた河原が鍵盤に向かったのは、音楽全体を導きやすいと考えたためでした。
本人にとっては、弾けることと歌えることを別々に並べるだけでは足りません。
二つの表現をつなぎ、その場の熱を客へ届けることが課題になっています。

2025年の「SOUL」では、柔らかさを出すため、語りかけるような言い回しを選びました。
話す声と歌声の近さを生かしつつ、何をどんな言葉で渡すかまで選んでいます。

2026年3月15日のBillboard Live TAIPEI公演に三人編成で登場したTENDRE
2026年3月15日のBillboard Live TAIPEI公演に三人編成で登場したTENDRE。
画像出典:画像掲載元

2026年3月の台北公演では、ベース、ドラムとの三人編成で演奏する中、アンコールの「GIVE」を歌とピアノへ絞りました。
リズムの強い曲が並んだ後に、声と言葉を中心に置き直す場面です。
低い声をいつも同じ伴奏の厚みで聴かせるのでなく、歌を囲む音を変えることで、聴き手との近さも変えています。

TENDREの歌は、低い声の響きだけで成立しているのではありません。
声を置くタイミングを選び、長く伸ばす間は楽器の動きを生かし、重唱では主旋律を支える側へ回る。
自然な声を保ったまま、曲の中での役目を細かく変えることが、穏やかさの中に言葉とリズムを残しています。

歌そのものへの意識が変わってきた経緯は、TENDREの歌唱変遷でたどっています。

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