テレサ・テンの歌声の変遷|「空港」の二つの録音に残った十年の違い

テレサ・テンの公式アーティスト写真 シンガー
テレサ・テン。出典:UNIVERSAL MUSIC JAPAN公式サイト。

1974年の「空港」と、十年後に録り直した「空港」。後の録音では、伴奏をできるだけ最初の版に近づけたのに、歌は同じ場所に置きませんでした。制作を担当した福住哲弥は、最初の版ではサビを伴奏の拍より少し後ろに、1984年の版では前へ出して歌っていると説明しています。

曲の形を残しながら、言葉を置く時間を選び直すとはどういうことでしょう。日本で歌い始めた頃のテレサと、再び同じ曲を録るテレサ。その間にあった選択を、二つの正規録音と、本人・制作関係者の言葉からたどります。

1974年、日本デビュー後に任された別れの歌

テレサは台湾で十代から歌い、香港にも活動を広げた後、1974年に日本語のシングル「今夜かしら明日かしら」を出しました。明るい若手歌手としてのデビュー曲です。しかし、次の「空港」では、愛する相手を残して去る女性の物語へ向かいます。同じ年の二曲で、日本の聴き手に見せる顔が変わりました。

その転換を支えたのは、来日前からの幅広いレパートリーでした。1975年の取材で本人は、台湾ではポップスもフォークも歌謡曲も歌い、日本の演歌も好きだと話しています。幼い頃から日本の歌を聴き、現地の舞台では日本から来た客のために日本の流行歌も歌っていたと、1991年の取材でも振り返りました。日本での二曲では、それまでに培った歌を、異なる物語へ向けています。

1975年の雑誌に掲載されたテレサ・テンの写真
1975年4月号『ヤング』のテレサ・テン。画像出典:DIVA TERESA掲載の当時の誌面。

福住は後年、1974年に発売されたポリドール版「空港」のサビについて、拍の後ろにずらして歌っていると指摘しました。拍は伴奏が刻む曲の目盛りのようなもの。その目盛りと歌の言葉が、ぴったり同時に並ばず、歌が少し待ってから入るという説明です。この初期の歌の間合いが、十年後の録音との違いを示します。

1984年、伴奏を似せても歌は同じにしなかった

テレサはトーラスレコードで、1984年のアルバム『つぐない』に「空港」を新たに収めます。この版は1974年のシングル音源を入れ直したものではなく、新しく録った歌です。発売元の異なる二つの原盤を一緒に収めた正規盤も、後に作られました。

再録の制作陣は、最初の「空港」を細かく調べ、伴奏はできるだけ元の形に近づけようとしました。福住の証言では、最初の録音は東京、トーラス版は香港。伴奏の録り方も異なるため、音全体には録音条件の違いも重なります。

それでも福住は、歌そのものについて一つ、はっきりした違いを挙げています。ポリドール版のサビは拍の後ろ、トーラス版は前へ出る歌い方。演奏が示す目盛りに対し、言葉を置く位置が変わったのです。後の歌について、声にも膨らみがあると評しました。曲を昔のまま保とうとした制作と、同じにはしなかった歌。その両方が1984年の「空港」にあります。

福住がテレサに示した歌の原則には、各小節の出だしを前に置くこと、声を前へ届けること、どの歌でも明るく響かせることが含まれていました。感情表現は「85%」という言い方もしています。感情を測る数字ではなく、強く伝えたいときにも押し切らず、余地を残すための現場の言葉でしょう。

演奏の輪郭は残しながら、今の自分は言葉をどこから始めるか。その小さな違いに、十年間歌い続けた人の判断が表れています。

同じ時期の「つぐない」にも、次の問いがあった

1984年には新曲「つぐない」も発表しました。「空港」をもう一度歌う仕事と、新しい女性の物語を歌う仕事が同じ年に並びます。福住は後年、「つぐない」と翌年の「愛人」がヒットした頃、テレサが歌をようやく分かってきたと話したことを覚えていました。十代から多くの曲を歌い、すでに日本でも賞を得ていた人が、三十代になってなお、歌を理解する途上にいると感じていたのです。

翌1985年には「愛人」も発表します。ヒットが続く時期に語った「歌が分かってきた」という言葉から、テレサ自身がまだ歌に新しい発見を見いだしていたことが伝わります。

次のヒット曲「時の流れに身をまかせ」では、作詞家の荒木とよひさが短い言葉の終わりまで明瞭に歌う力を評価しました。その曲で声と言葉をどう結びつけたかは、テレサ・テンの歌い方の記事で詳しく扱っています。

1984年は、昔の「空港」をもう一度歌いながら、新しい作り手の言葉も引き受けた年でした。過去へ向かう録音と新しい歌へ向かう録音の二つが、同じ時期に残っています。

伴奏を昔に寄せた1984年の「空港」で、テレサは言葉を置く位置を変えました。その選び直しから、同じ曲に戻った十年の時間が伝わってきます。

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