音楽クリエイターjohnのソロプロジェクト、TOOBOE。
曲を作り、自分で歌う活動の中で、声の高さや息の量、響かせ方を細かく考えてきました。
初期の「憂鬱」から、ライブで小さな声を選べるようになるまでをたどると、その工夫には、曲の中の感情をどんな表情で届けたいかという理由があります。
「憂鬱」で、暗い気持ちを高めの声に乗せる
2020年に始まったTOOBOEは、それまでボーカロイド曲を発表してきたjohnが、自分でも歌うプロジェクトです。
ただ、自分の声で曲を作る経験は、ボーカロイドを使い始める以前からありました。
2021年の取材では、もともと弾き語りが好きで、邦楽の舞台に憧れていたと話しています。
その初期の歌で意識していたものの一つが、歌謡曲のようなこぶしでした。
吸収してきた日本のメロディーを自分なりに曲へ取り入れ、歌い回しにも反映していたのです。
2021年の「憂鬱」では、声の高さにも狙いがありました。
コロナ禍の沈んだ気分から歌詞は暗くなったものの、本人はその悲しさをコメディーに変えようとしています。
そこで、軽やかに聴こえるよう、普段よりも高めの音域で歌ったと説明しました。
歌詞の気分を声でもそのまま重くするのではなく、少しとぼけた雰囲気を与える。
初期から、声は曲の受け取られ方を変えるための大切な選択でした。
TOOBOE「憂鬱」(2021年)のMV。
「oxygen」で、歌詞の伝え方と声の強さを見直す
2022年6月の「oxygen」では、録音の進め方を変えています。
普段は自宅で一人で完成まで持っていくところ、その曲では自分だけで仕上がりの判断をつけられず、スタッフとスタジオに集まりました。
滑舌を含む細部を直すことに、かなり時間をかけたと振り返っています。
背景には、前年のアルバムを作って感じた課題がありました。
メロディーや歌詞に自信があっても、言葉が聴き手に伝わらなければ意味がない。
自分が日本語で歌う以上、歌詞の聴き取りやすさを大切にしたいという意識が、録音の試行錯誤につながっていました。
同じ曲で、声の強さにも工夫を加えています。
本人の説明では、Aメロは地声で吐き捨てるように歌い、サビでは裏声を使いました。
サビまで地声で押すと鋭さが出すぎるため、曲にある生々しい感じを少しやわらげ、バランスを取ったのです。
「憂鬱」では声の高さで軽さを与え、「oxygen」では声を切り替えて曲の印象を調整する。
さらに、言葉が届くかどうかを周囲と確かめる工程も加わりました。
声の個性を出すことと、聴き手に伝わる形に整えることが、一つの録音の中で結びついています。
TOOBOE「oxygen」(2022年)のMV。

画像出典:Real Sound
自分の声を、少し離れて聴けるようになる
2022年11月の取材では、初期には自分の曲が流れると恥ずかしかったものの、次第に自分の歌を俯瞰できるようになったと話しています。
どの音域の成分が心地よいのか、自分で考えられるようになったという説明でした。
同じ取材で「錠剤」の歌い方を振り返るときには、Aメロのテンションを抑え、Bメロから表情を濃くしていると話しています。
同じメロディーと歌詞でも、声に含まれる息の量で伝わり方が変わることに気づき、歌うことをさらに面白く感じるようになりました。
歌い方が少しずつ更新されているという実感も、そのときの言葉です。
自分が歌った曲を聴く戸惑いから、声の使い方を考えるところへ、視点が移っていました。
TOOBOE「錠剤」(2022年)のMV。
「錠剤」の反省から、響かせ方を変える
注目が集まることは、そのまま自分の歌への満足を意味しませんでした。
2024年の取材で「錠剤」以降を振り返ると、TOOBOEは、周囲の評価に自分の実力が追いついていないと感じた時期があったと話しています。
歌う場が広がる中で、もっとできることがあるはずだと、自分の課題にも目が向いていました。
2023年の「往生際の意味を知れ!」は、「錠剤」でやり残したことに取り組んだ曲でした。
発売時の取材では、喉の中の響きを口に近い方へ寄せる意識で調整したと説明しています。
声をすべてきれいに整えすぎず、独特の癖を残し、歌い方自体はポップにする。
本人は、より内側にこもるような響きにもしていると話しています。
整え方と癖の残し方を、自分の感覚で探っていたのです。

画像出典:画像掲載元
ライブでも、声を張らずに歌う選択へ
録音で声の表情を考えてきたTOOBOEにとって、ライブでは小さな声を使う難しさがありました。
声を抑えると、客席に届いていないのではないかという怖さがあるためです。
2026年8月に公開されたライブ用マイクの導入事例では、2025年秋のツアー終盤に試した機材について、本人と音響スタッフが振り返っています。
本人が挙げたのは、自分の声を確認しやすくなり、余分な力を抜いて歌えるようになったことでした。
普段の録音では、小さめのモニター音量で歌っているとも説明しています。
ライブでも、その録音時に近い感覚で自分の声を聴けるようになった。
その安心感が、バラードで声を張らず、あえて引く歌い方を選ぶことにつながっていました。
曲の気分に合わせて高さを選び、言葉を明瞭にし、息や響きの加減を探る。
さらに舞台では、小さく歌う表情まで届けようとする。
TOOBOEの歩みには、自分の声をどう使い、どう届けるかを、その都度考え直す過程があります。
曲の中で本人が意識した声の表情は、TOOBOEの歌い方で取り上げています。







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