デクスター・ホランドの歌い方|鋭い高音が、怒りもユーモアも届けられる理由

2024年のデクスター・ホランド(写真:Getty/Barry Brecheisen) シンガー
2024年のデクスター・ホランド(写真:Getty/Barry Brecheisen)

デクスター・ホランドの歌声は、高く鋭く、すぐに耳に残ります。
けれど、その声が働く場所は、勢いのあるサビだけではありません。
ほかの声と重なるとき、ピアノの前で一人になるとき、少しおかしな人物を演じるときで、歌の役割が変わります。

高い声は、一人で目立つためだけのものではない

その持ち味を具体的に語っているのが、ドワーヴズのブラッグ・ダーリアです。
「Salt Lake City」を録る際、自分の声の収まり方にしっくりこなかったため、デクスターにサビを一緒に歌ってもらったといいます。
さらに曲中の別の部分も任せ、「Julio」のアルバム版でも、リードとハーモニーの両方に参加してもらっています。

ブラッグが評価しているのは、高い音域で歌う声と、ほかの声を支えるハーモニーのうまさです。
高音は、単独で遠くまで突き抜けるだけでなく、別の歌手の声に明るさを足す役割も持っています。
声の目立ち方と、声が重なったときの相性が、両方とも求められているのです。

鋭い声の個性と、声を扱う基礎は両立する

デクスターは、ボイストレーナーのグロリア・ベネットに指導を受けた歌手の一人でもあります。
ベネットが大切にしていたのは、全員を同じ声で歌わせることではなく、好きなスタイルを自由に歌うための基本的なコントロールでした。
ロックの声をその人らしく使うことと、発声を学ぶことは、両立するという考え方です。

声を保つために何をしているか問われると、本人が挙げたのは、声を温めるためのエクササイズでした。
長く歌い続ける声にも、歌う前の準備があります。
高い声の派手さに目を奪われがちですが、その声を使う状態を整えることも、本人が続けている習慣です。

デクスターの、少し鼻にかかったような鋭さや、強く張った声は、穏やかな曲では癖として目立つことがあります。
まろやかに整った声へ変わるというより、同じ個性を違う伴奏の中に置いたとき、どんな表情になるかが聴きどころです。

高い音が出ることと、どの曲でも同じ強さで歌うことは別です。
声の癖を消すか残すか、どれだけ前に出すかによって、歌の距離感も変わります。
その違いは、声だけでなく録音の作り方にも表れています。

重ねた声と、伴奏が引く瞬間

『Ixnay on the Hombre』『Americana』のボーカルでは、デイヴ・ジャーデンが二重、三重の録音を用いています。
同じ歌を別に録って重ねることで、一人の声に厚みが加わります。
残響や遅れて返る音も使われており、完成したレコードの大きさには、歌唱と制作の両方が関わっています。

一方、「Self Esteem」では、最初に伴奏のない声を置いています。
ベースを中心に進む部分から、楽器がそろう部分へ移る構成もあり、同じ声でも周りの音との関係が変わります。
声を強く出し続けることだけで、曲の起伏を作っているわけではありません。

聴くときには、声の太さだけでなく、その瞬間に楽器がどれだけ鳴っているかにも耳を向けたくなります。
声が重なって大きく届くところと、声が一つの線として現れるところ。
その行き来が、歌を覚えやすくし、サビに向かう力を作っています。

「Gone Away」では、隠れない声で歌う

「Gone Away」の1997年版と2021年のピアノ版は、その違いを考える入口になります。
原曲で前に出ていた叫ぶような切迫感に対し、ピアノ版では、言葉と感情がより直接届く形になりました。
同じ曲でも、歌の周りに何を置くかで、声の受け止め方が変わります。

本人は、ギターの大きな音に守られず、自分のボーカルを表に出すことに怖さを感じたと話しています。
その感覚を隠すのではなく、むしろ表現に含めていく。
ここでは、強い声を聴かせることに加えて、無防備なまま歌うことも大切になっています。

リズムと言葉が変われば、声の役も変わる

311の「Down」をカバーしたときは、たくさんの言葉をどう扱うかが課題でした。
原曲とは違う形を探し、デクスターはビースティ・ボーイズを思い浮かべながら歌ったといいます。
声の個性を保ちながら、言葉の運び方や曲のキャラクターを変える試みです。

2020年に発表したカバー曲「Here Kitty Kitty」については、別の人物像と声が必要だったとも説明しています。
声を変える理由は、音の高さだけでなく、その曲でどんな人として歌うのかにもあります。

「We Never Have Sex Anymore」のような変化球も、思いつきをそのまま出しただけではありません。
長く抱えていた曲を、スウィングする音楽として成立させるまで時間がかかりました。
切ない内容を、軽妙な音楽の中で歌うことで、笑いと寂しさが一緒に伝わる場所を作っています。

2024年Riot Festでのデクスター・ホランドとヌードルズ(写真:Ryan Bakerink)
2024年Riot Festでのデクスター・ホランドとヌードルズ(写真:Ryan Bakerink)。
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また、歌詞の一人称を、そのまま本人の告白として受け取ると見えにくくなる面もあります。
「Cool to Hate」や「Looking Out for #1」では、人物を描いたり、社会の様子を風刺したりする意識があります。
強く言い切る歌い方にも、その言葉を話す人物を演じるという役割があるのです。

一緒に歌える声を、丁寧に作る

2024年の「Come to Brazil」では、速いメタルのような部分と、サッカーのスタジアムで歌うようなサビを組み合わせています。
デクスター自身が、その組み立てを説明しています。
速さで押す場面と、大勢で声を合わせられる場面を作り分けることで、歌に参加する入口が生まれます。

コロナ禍には、誰がどの音を歌うかを見直し、単に同じ音を重ねるのではなく、ハーモニーになっているかを確認しました。
客席と大きく歌うための音楽を、演奏する側は細かく整えていたのです。

ボブ・ロックとの制作でも、サビが良くなれば、その手前の部分をさらに良くしようと考え直します。
逆に、手前の部分が良くなれば、サビをもう一度磨く。
ヌードルズが説明するこのやり取りからは、一度できた歌の形を、何度も確かめていることが分かります。

デクスターの声の魅力は、鋭い高音の印象と、その声を置く場所の豊かさにあります。
重ねて大きく響かせる、静かな伴奏の中で感情をさらす、言葉の多い曲で別の人物を演じる。
声の個性を保ったまま、それぞれの曲で果たす役割を変えているのです。

こうした表現がどのように広がってきたかは、デクスター・ホランドの歌唱変遷でたどれます。
同じ曲を歌い直した理由を知ると、高い声の奥にある選択にも目が向きます。

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