ロバート・スミス(The Cure)の歌い方|心細い声が、これほど強く届く理由

2022年のNME Awardsに出演したロバート・スミス。写真:Jennifer McCord シンガー
2022年のNME Awardsに出演したロバート・スミス。写真:Jennifer McCord

ロバート・スミスの歌は、声の大きさだけで人を圧倒する歌ではありません。
ささやくような近さもあれば、感情がこらえきれなくなったような強さもある。
どちらにも同じ人の気配が残ることが、The Cureの曲を結びつけています。
声の鋭さ、息の混ざり方、言葉の刻み方を、曲の中で何に使っているかが聴きどころです。

柔らかさの中にある、声の鋭い輪郭

スミス本人は、自分の歌声には硬く鋭い成分があると捉えていました。
録音では、その部分を足すのでなく、整えるための機材を選んでいたと説明しています。
心細い印象のある声でも、音そのものが弱いとは限らないのです。

一方、話す声から大きく離れた歌い声には、本人が不自然さを感じていました。
歌のために立派な声へ作り替えるより、自分の言葉として感じられることを大切にしている。
独特の響きを、単に癖の強い発声として片づけられない理由がここにあります。

そのため、声の印象を考えるときは、音色と表現を分けてみるとわかりやすくなります。
輪郭のある声で心細く歌うことも、柔らかく聞こえる声に強い意志を込めることもできる。
スミスの歌では、弱さを表すことが、そのまま存在感の弱さにはつながりません。

スミスの歌には、言葉の出だしで引っかかるような響きと、語尾が泣き声に近づくような表情もあります。
声を一本の均一な線に整えきらず、言葉の始まりと終わりに気持ちの揺れが残る。
旋律だけを追うより、その両端へ耳を向けると、声の個性を捉えやすくなります。

「Close to Me」――息と言葉の切れ目もリズムになる

1985年の「Close to Me」では、息を含んだ控えめな声と、細かく区切られる言葉が特徴になります。
手拍子やベースの繰り返しの中へ、声も打楽器に近い働きで入っていく。
旋律を大きく歌い上げることとは違う方法で、耳を引きつける歌です。

軽快な伴奏に対し、ささやきには落ち着かなさが残ります。
親しみやすい曲なのに、完全には安心できない。
単純に明るく歌い切らないことで、曲が持つ不思議な居心地が保たれています。

ここで声の強さを一律に増やすと、細かな言葉と伴奏の間が埋まってしまいます。
小さい声を使うことには、静けさの演出だけでなく、言葉の刻みを見せる意味もある。
息を混ぜた声と短いフレーズが、曲のリズムを作る側に回っていると考えられます。

同じ人の声で、別の役柄を歌う

「Hot Hot Hot!!!」や「Why Can’t I Be You?」のような曲について、スミスは自分とは別の人物を演じるように歌う面を認めています。
静かな曲での自分と、奔放な曲での自分を、同じ表情にそろえようとはしていません。

それでも、声を何重にも包めばよいとは考えていませんでした。
1987年には、伴奏が豊かになっても、単独で置かれた声の素朴さを好むと話しています。
音程の完全さだけでなく、感情がどう聞こえるかを優先する姿勢です。

1990年のステージに立つロバート・スミス
1990年のステージに立つロバート・スミス。
画像出典:画像掲載元

人物を演じることと、自分の声を消すことは同じではありません。
少し大げさな歌い回しを使っても、声の中心に本人の気配が残る。
そのため、曲ごとの表情が違っても、歌い手がばらばらになった印象にはなりにくいのです。

抑えている時間が、感情の高まりを作る

「Disintegration」では、鋭く明瞭な歌と、沈んだ諦めの表情が組み合わされます。
一曲の中でも声を同じ勢いにそろえず、感情の状態に差をつけているのです。
声に加えられた音響処理も、録音の印象に関わっています。

長いフレーズを歌うとき、最初から最後まで同じ強さでは、言葉の重要さが平らになりがちです。
スミスの歌を聴く際は、声が目立ち始める場所と、演奏の中にとどまる場所に注目できます。
歌が入ったからといって、伴奏を背景へ退かせる必要はない。
声も曲の空間の中に置くことで、近づいてくる瞬間が際立ちます。

「Boys Don’t Cry」の1986年再録についても、本人は、旋律やフレーズを大きく変えずに感情と響きを深めようとしたと説明しています。
同じ音を歌っていても、そこへ込めるものは変えられる。
スミスの表現では、音数を増やすことだけが歌の深まりではありません。

「Lost」――強い歌も、感情から始まる

2004年の「Lost」では、切迫した歌声に、演奏の激しさが重なっていきます。
声が次第に追い詰められていくような印象を持ち、穏やかな曲とは違う強さが前面に出ます。
その強さは、均等に大きな声を並べたものとは異なります。

このアルバムの制作で、スミスはプロデューサーのロス・ロビンソンを目の前にして歌いました。
歌を聴く相手が、その場で心を動かされることを求められたのです。
本人が語る制作経験からも、声の迫力と、人へ届けようとする意識が切り離せないことがわかります。

迫力のある部分だけを取り出すと、スミスの歌は叫びの強さに見えるかもしれません。
しかし、抑えた歌と比べれば、いつ、どの気持ちを強く表すかという選択が見えてきます。
喉へ力を入れることを歌い方の核心にしてしまうと、この違いを捉えにくくなるでしょう。

一人で歌うときと、誰かに声を渡すとき

CHVRCHESの「How Not to Drown」では、ローレン・メイベリーと声を交わします。
スミス自身がデュエットとして捉えた共演で、もう一人の歌い手がいることを大切な違いとして挙げています。

この曲では、メイベリーのはっきりした声と、スミスの個性の強い声が一曲の中で出会います。
声を似せることだけが共演の方法ではありません。
それぞれの輪郭が残るため、歌い手が変わること自体が、曲の表情を動かします。

今の感情に届く言葉を選ぶ

スミスは2024年、正直に、感情を込めて歌える言葉を書く難しさを話していました。
声を出せるかどうかの前に、自分がその言葉を歌えるのかを問い直している。
長く歌ってきた人にも、そこで迷う時間があります。

同年の「I Can Never Say Goodbye」では、兄を失った悲しみが歌の中心です。
一方、「And Nothing Is Forever」では、喪失を見つめる世界に、誰かと共にいたいという思いが差し込みます。
暗い曲という分類だけでは、この二つの感情の違いは見えてきません。

ロバート・スミスの歌い方の面白さは、一つの声に、静けさも落ち着かなさも、切実な強さも残せるところにあります。
息と言葉でリズムを作る、声を孤立させる、抑制を続けてから感情を開く、相手の声を受け取る。
その選択によって、心細い響きが、人の心に届く強さへ変わります。
こうした表現が広がった過程は、ロバート・スミス(The Cure)の歌唱変遷でたどれます。

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