アレックス・ターナー(Arctic Monkeys)の歌い方|低い声、裏声、言葉の勢いをどう使い分けるのか

2022年の公演取材に掲載されたアレックス・ターナー/撮影:Lewis Evans アレックス・ターナー(Arctic Monkeys)
2022年の公演取材に掲載されたアレックス・ターナー/撮影:Lewis Evans

アレックス・ターナーの魅力は、低く落ち着いた声だけでは捉えきれません。
言葉を鋭く押し出す歌もあれば、音を揺らしながら伸ばす歌、軽い裏声へ抜けていく歌もあります。
同じ声の持ち主でも、曲によって聴き手との距離が変わる。
その違いを、声の出方、フレーズの運び、重ね方から見ていきます。

低い声を伸ばすときと、裏声へ抜くとき

「There'd Better Be a Mirrorball」では、低い声のビブラートが、旋律をゆっくりと運びます。
終盤で裏声へ上がると、そこまでの厚みとは違う、軽い響きが現れます。
高い音へ向かうたびに声を強くするのではなく、響きの質を変えることが、曲の切なさにつながっています。

「Body Paint」も、裏声の存在感が大きい曲です。
低音の渋さを保つことだけが彼らしさではなく、薄く浮く声を旋律の中心に置けることも個性になっています。

低い声から高い声への移動を、音域の広さだけで考えると、この面白さを見落とします。
同じ強さで上へ押し上げるのか、軽い音色へ変えるのかによって、聴こえる感情も違うからです。
ターナーの場合は、音の高さと一緒に声の手触りを追うと、旋律の表情がわかりやすくなります。

言葉を前へ送る歌にも、力の入れどころがある

初期の「Fake Tales of San Francisco」には、噛みつくような声の強さがあります。
軽快に刻むギターに対して、言葉を鋭く投げる歌が輪郭を作っています。
なめらかに旋律をつなぐ歌とは違い、言葉の勢いそのものが、曲を前へ進める力になります。

初期の録音で地元の発音を選び直した経緯も、この声を考える手がかりです。
借り物の発音へ寄せるより、自分の話し言葉を歌へ持ち込む。
声色だけでなく、言葉の癖がそのまま歌い手の存在感になります。

一方、同じデビュー作の「Riot Van」では、曲の歩みがゆったりしています。
速い曲だけを彼の基準にせず、このように言葉を急がせない曲と並べると、同じ声で作る距離の違いが見えてきます。

「Library Pictures」については、本人が、混沌とした音楽へ言葉も合わせたと説明しています。
歌詞をいつでも主役として聞かせるのではなく、曲の動きへ参加させる考え方です。
語る歌と、音の勢いを作る歌を使い分けているのです。

「Do I Wanna Know?」の2番には、ラップに近づくような言葉の運びがあります。
本人も、完全にラップをする手前の領域に面白さを感じていました。
旋律を歌うことと、言葉でリズムを刻むことの境目を使うと、ゆったりした曲の中にも動きが生まれます。

声を低くすると、感情まで一色になるわけではない

「My Propeller」の豊かな低い声は、不穏な曲の空気と結びついています。
強く叫ばなくても、声の重さが緊張感を作れる例です。

それに対して「Cornerstone」では、傷ついたような歌声と旋律が、歌の人物へ聴き手を近づけます。
堂々とした声で押し通すより、弱さが伝わる歌が、曲を支えています。

二つの曲を比べるときに大切なのは、低い音が出ているかどうかだけではありません。
その声が相手を遠ざけるのか、心の内側へ招くのか。
音色と歌の人物像を結びつけると、落ち着いた声という言葉では収まらない、表現の幅が見えてきます。

2009年『Humbug』の取材時のArctic Monkeys
2009年『Humbug』の取材時のArctic Monkeys。
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厚く聞こえる声を、一人分の発声と決めつけない

『AM』の歌には、ターナーの裏声に加え、ヘルダースの高い声、オマリーの低い声が重なっています。
「Arabella」の速い部分では、大きく歌ったターナーの声を二重に録る方法も使われました。
声の厚みには、一人の喉から出る音色と、録音で重ねた効果の両方があります。

曲を聴いて、太い声も高い声もすべてターナー一人の発声だと考えると、歌の仕組みを取り違えてしまいます。
主旋律の声がどこへ進み、その周りにどんな高さの声が置かれるか。
重なりを含めて捉えると、単に声量を増やす以外にも、歌を大きくする方法があるとわかります。

ザ・ラスト・シャドウ・パペッツの「Aviation」でも、終盤のハーモニーを試すことが制作の大切なきっかけになりました。
自分の声の完成度だけでなく、相手と組み合わさった音色から曲を考える歌い手です。

一曲の流れと、そのときにしか出ない表情を残す

『Suck It and See』の録音では、歌を細かく直し続けるより、少ないテイクからよいものを選ぶ方法が取られました。
「Library Pictures」には、バンドと一緒に演奏した際の歌が使われています。
すべての曲が同時録音というわけではありませんが、声と演奏が同じ時間を進む勢いも、作品へ残しているのです。

「American Sports」では、作曲中に自宅で録った、不穏な表情の歌が残りました。
後から同じ雰囲気を出せなかったためです。

正確に歌い直すことと、同じ表情をもう一度出すことは、別の難しさがあります。
一音ずつ整えても、最初に曲へ入ったときのためらいや緊張まで戻せるとは限りません。
ターナーの歌を考えるときは、声の形だけでなく、どんな流れの中でその歌が生まれたかも手がかりになります。

2022年『The Car』発表時のArctic Monkeys/撮影:Zackery Michael
2022年『The Car』発表時のArctic Monkeys/撮影:Zackery Michael。
画像出典:画像掲載元

旋律へ合わせて、言葉の形も選び直す

『The Car』の制作時、本人は、先にある旋律へ言葉を合わせる努力をしたと話しています。
何を言いたいかだけでなく、その音の並びの中でどんな言葉なら歌えるかを考える方法です。
歌詞と発声を別々の工程にせず、言葉を選ぶ段階から歌の響きを作っています。

言葉を詰め込む曲では、次々と音を動かすことが勢いになります。
長く旋律を保つ曲なら、一つの言葉に留まる時間も表情になります。
どちらか一方を常に優先するのでなく、曲が必要とする時間の使い方へ、歌詞も歌声も合わせるのです。

声が前へ出るために、周囲の音を整理する

『The Car』で本人が重視したのは、すべての音を一度に鳴らさず、必要なところで出入りさせることでした。
声をもっと目立たせたいとき、歌の力だけを増やすのでなく、周囲の音を減らす選択もできます。

ターナーは、この時期のバンドが、大きく音を鳴らすこととは別のダイナミクスを理解するようになったとも話しています。
静かなところを持つからこそ、その後の広がりにも意味が生まれる。
歌声の強弱は、バンド全体の動きと切り離せません。

アレックス・ターナーの歌い方は、低い声を渋く響かせる、という一つの型ではありません。
言葉を前へ出し、旋律を伸ばし、裏声へ抜き、別の声や楽器との間に場所を作る。
その選択によって、強さも弱さも歌の魅力に変えています。
こうした歌の選び方が広がった過程は、アレックス・ターナー(Arctic Monkeys)の歌唱変遷でたどれます。

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