ジェルの歌い方|低く柔らかな声と、役を生む歌い分け

2020年1月3日、Zepp Osaka Baysideで歌うジェル シンガー
2020年1月3日、Zepp Osaka Baysideで歌うジェル

ジェルの歌声を一言で表すなら、低めで柔らかな声が思い浮かびます。
ただ、その声をどの曲でも同じように響かせているわけではありません。
ラップで言葉を運び、ささやき声や裏声を交え、ときには複数のキャラクターとして歌う。
彼の歌い方を知るには、声の高さに加えて、声の質感と、誰の立場で言葉を届けるのかを見る必要があります。

「ポーカーダンス」の柔らかさと、大人びた声

「ポーカーダンス」は、低めで柔らかな声が、曲の大人びた雰囲気につながる一曲です。
ジェルの声は、低さによる存在感と、聴き手を包むような柔らかさを併せ持っています。
この曲では、その組み合わせが、色気だけでなく哀愁にも結び付いています。

声の低さと、声の強さは、同じものではありません。
低い音を大きく、硬く出せば、同じ印象になるわけではないのです。
ジェルの歌の魅力を考えるなら、低さと一緒に柔らかさが残ることで、言葉がどんな距離から届くかに耳を向けたいところです。
押し出す強さだけで色気を説明しようとすると、この声の持つ親しみやすさが抜け落ちてしまいます。

本人は、初期の取材で、自分の歌に期待されているものを、うまさだけでは捉えていませんでした。
大切にしていたのは、ジェルらしい歌であることです。

声の特徴は、整えて消してしまうものばかりではありません。
どんな人が歌っているかを感じさせる、その人自身の目印にもなります。
ジェルの低く柔らかな声を入口にすると、技術の種類と、聴き手が覚える歌声の個性を、つなげて考えられます。

歌う声から、客席に言葉を届ける声へ

2022年5月5日の東京ドーム公演では、「ポーカーダンス」の艶のある歌から、「JUMP AND FLY」へ進んでいます。
後者では笑顔を見せ、支えてくれるリスナーへの感謝を、曲の途中で直接叫ぶ場面もありました。

JUMP AND FLY(2019年公開・オリジナルMV)

曲の人物として歌う声と、目の前にいる人へ話しかける声。
この切り替えも、ライブにおけるジェルの表現です。
歌詞を歌い切るだけでなく、その場にいる相手へ言葉を渡すことで、曲と客席の間につながりをつくる。
録音された曲を知っている人にとっても、その日の公演が自分に向けられたものになる瞬間です。
声の艶や柔らかさに加えて、誰に呼びかけるのかという視点も持つと、彼の歌の届き方が見えてきます。

一曲の中で、ラップ・ささやき声・裏声を使う

2020年1月のZepp Osaka Bayside公演では、すとぷりの「GO GO CRAZY」を一人で歌いました。
このときは踊りながら、ラップ、ウィスパーボイス、ファルセットを使い分けています。
グループの曲をソロで届ける場面に、複数の声の表情が現れていました。

この三つは、同じ物差しで並べた分類ではありません。
ラップは言葉とリズムの運び方、ウィスパーボイスはささやくような声の質感、ファルセットは裏声を指します。
何をどう歌うかという表現の選択と、どんな質感の声を使うかという選択が、一曲の中で重なっているのです。

ジェルの歌を低音の魅力だけで説明すると、こうした切り替えを見落としがちです。
低い声が印象に残る歌手であっても、曲のすべてを重い声で埋める必要はありません。
言葉をリズムに乗せる場所と、声の質感を変えて聴かせる場所がある。
その違いを追うと、一人で歌うグループ曲にも、複数の見せ場が生まれる理由が分かります。

2020年1月3日、ソロ公演でマイクを持つジェル
2020年1月3日、ソロ公演でマイクを持つジェル。
画像出典:画像掲載元

「Party Light」では、サビもラップになる

ジェルとななもり。は、すとぷりの中でもラップを担当することの多い組み合わせでした。
「Party Light」では、その役割が全員へ広がります。
サビまでラップで構成された曲を、ジェルはメンバーのエネルギーが伝わってくる、歌っていて楽しい曲と捉えていました。

サビで必ず長い音を伸ばし、高い音へ持ち上げるとは限らない。
「Party Light」は、ジェルの歌を考えるときにも、その別の盛り上げ方を示しています。
音程の上下に加えて、言葉が続く勢いや、複数人が同じ曲へ加わる熱量が、サビの役割を担っているのです。
高音だけを歌唱の見せ場と考えず、リズムの中で声をどう働かせるかに注目したい曲です。

「マブシガリヤ」では、一人の声と全員の声を聴き分ける

2020年1月3日、ななもり。と共演するジェル(左)
2020年1月3日、ななもり。と共演するジェル(左)。
画像出典:画像掲載元

「マブシガリヤ」のA〜Bメロでは、ななもり。からジェルへと歌が渡ります。
伴奏に隙間のある場面で、ジェルの大人びた声の個性が現れる構成です。
一方、曲の入口では声を重ねたハーモニーがあり、サビは全員が同じ旋律を歌うユニゾンになっています。

一人で歌っている部分と、全員で歌っている部分では、声が担う役割も違います。
順番に歌う場面では、次の歌い手へ替わったことが、曲の表情を動かします。
全員が同じ旋律を歌う場面では、別々だった声が、一つの言葉を一緒に届ける方向へ向かう。
個性が目立つことと、全体としてまとまることの両方を、同じ曲の中で受け持っているのです。

「Very」では、大人びた声同士が集まる

2026年2月8日の東京ドーム公演では、ジェルはばぁう、あっと、ロゼ、にしき、だいきりと「ミミラブ」として登場しました。
それぞれがソファーに腰かけ、すとぷりの「Very」を大人びた歌唱で届けています。
異なるグループから集まった歌い手同士で、曲の雰囲気をそろえる場面でした。

Very(2026年公開・ミミラブの歌ってみた版)

「マブシガリヤ」で声の個性を順に受け渡す楽しさとは別に、近い方向の魅力を持つ歌い手が、一つの世界観をつくる面白さがあります。
ジェルの大人びた声は、グループの中で違いを出すためにも、共演者と曲の色をそろえるためにも働くのです。
一人の声の特徴は変わらなくても、誰と歌うかによって、その特徴の意味が変わります。

「遠い未来まで恋をして」では、歌声が登場人物になる

「遠い未来まで恋をして」では、ジェルが9人のキャラクターの歌声を担当しました。
台詞の掛け合いを含み、それぞれの人物が同じ楽曲に参加する形です。

ここでは、同じ人が歌っていても、言葉を発する人物の立場が変わります。
一人の歌手が感情を強めたり弱めたりすることに加え、物語の中の誰の声なのかを、歌として届ける必要があるのです。
声を変えることが、そのまま登場人物同士の関係を見せる働きになります。

この曲を味わうときは、歌う部分だけでなく、台詞へ移るところも聴きどころです。
旋律に乗った言葉と会話が、別々の出し物として切れるのか、それとも同じ世界のやり取りとしてつながるのか。
歌と芝居の両方を手がけるジェルならではの表現は、その接点にもあります。
音の高さだけを手掛かりにするより、誰が誰に言葉を返しているかを追うと、歌い分けの意味が見えてきます。

低く柔らかな声を聴かせる曲もあれば、言葉の勢いを前に出す曲もあり、登場人物の声で参加する曲もある。
ジェルの歌い方は、声の個性を土台にしながら、曲の中で果たす役割を選ぶところに面白さがあります。
その表現がどのように広がってきたのかは、ジェル(すとぷり)の歌唱変遷でたどれます。

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