アンディ・デリスがハロウィンで歌ってきた時間には、二つの大きな転機があります。
一つは、自分とは違う声を持つミヒャエル・キスクの後任になったこと。
もう一つは、そのキスクと、同じ舞台で歌う仲間になったことです。
一人でバンドの新旧の曲を担う時代を経て、声を分け合い、重ねる時代へ。
その間に、デリスの歌には何が加わり、何が残ったのでしょうか。
歌とメロディーを携えて、ハロウィンへ
デリスは、ピンク・クリーム69の歌手として、1989年に同名のデビューアルバムを発表しています。
冒頭の「Take Those Tears」をはじめ、歌うことと曲を作ることの両方でバンドを支えました。
ハロウィン加入前から、メロディーを生み出して自分の声で届ける経験を積んでいたのです。
1993年末、ギタリストのマイケル・ヴァイカートから連絡を受け、翌1994年にハロウィンへ加わります。
バンドが苦しい時期にあり、新しい歌手にかかる期待も大きい状況でした。
その最初のアルバム「Master of the Rings」で、デリスは歌と楽曲を持ち込み、バンドが再び前へ進む力になりました。
ここで加わったのは、ざらつきのあるハードロックの声です。
キスクの鋭く突き抜ける歌と比べ、デリスには癖のある響きがありました。
「Where the Rain Grows」の力強さと、「Perfect Gentleman」のユーモラスな個性が同居するアルバムは、新しい声でハロウィンを続ける出発点になります。
Where the Rain Grows(1994年発表曲・公式HD版)
ピンク・クリーム69で培った感覚も、加入後の曲に生きています。
デリス自身、「If I Could Fly」や、後の「Waiting for the Thunder」は、前のバンドにも合う曲だと話しました。
速い曲が続いたところへ、親しみやすいハードロックの歌を置く。
その役割を、ハロウィンの強いギターの音の中で引き受けていたのです。
歌手の交代は、同じ旋律を別の声で歌う出来事であると同時に、新しい旋律がバンドへ入る出来事でもありました。
デリスの個性が定着した理由を考えるとき、この二つを一緒に見る必要があります。
後任として既存曲を担いながら、次の世代のファンにとってのハロウィンの歌を増やしていったのです。
2000年代、暗さと大きな物語を歌う
2000年の「The Dark Ride」では、バンドがより暗い方向へ進みました。
当時のマネジメントからの要望もあった変化ですが、デリス自身は、明るい曲と暗い曲の両方を好んでいました。
「If I Could Fly」は、この作品から生まれた重要な一曲です。
本人は、この曲が北欧で新しい聴き手へ届くきっかけにもなったと振り返っています。
暗さが増した作品でも、歌の親しみやすさは残りました。
「The Dark Ride」の歌唱には、音楽の流れに沿った声のコントロールがあり、「If I Could Fly」や「Mr. Torture」には、ともに歌いたくなる旋律があります。
明るい勢いを得意とするバンドの中で、陰影の濃い曲も、デリスの歌が担う領域になりました。
2005年の「Keeper of the Seven Keys – The Legacy」では、表現の舞台がさらに大きくなります。
長い展開を持つ「The King for a 1000 Years」や「Occasion Avenue」、高音の歌唱が続く「Pleasure Drone」が並ぶ作品です。
短い曲の中で個性を示す歌手が、長編の起伏や、高い旋律の連続も担うようになっていました。

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同作の「Light the Universe」には、キャンディス・ナイトとのデュエットがあります。
出発点は、デリスが女性の友人と作ったデモでした。
交互に歌い、サビでは一緒に歌う形をメンバーが気に入り、その構想が共演につながったのです。
一人で歌い上げる力に加え、声を受け渡して曲を成立させる方法も、この時期に具体化していました。
続く2007年作「Gambling with the Devil」でも、高く伸びる独特の声は健在です。
一方で、前作ほど歌唱の意外性や大胆さを前面に出さず、まとまりを感じさせるという受け止め方もありました。
変遷を追うと、毎回さらに高く、さらに激しくという一直線の変化ではなく、作品ごとに声の見せ方が動いていたことが分かります。
ソロでは、歌う感情の幅をさらに広げた
2002年にソロ作品「Done by Mirrors」を語った際、デリスは、気持ちが伴わないのに高い声を選ぶ必要はないと説明しています。
その一方、「Back Again」は低く歌うと良さを失う曲だとも話しました。
曲のために高さを使うという考え方です。
2013年には、ザ・バッド・バンカーズを伴う「Million Dollar Haircuts on Ten Cent Heads」を発表します。
銀行家への怒りを扱ったこの作品では、歌にも荒々しさが表れました。
本人にとってソロは、ハロウィンで期待される明るさや空想的な世界とは違う題材を、自由に歌える場でした。
同じ声の持ち主でも、歌の中で向き合うものが変われば、表現に必要な強さも変わります。
このソロの活動は、デリスの荒さを、生まれつきの音色だけで説明しきれないことを示しています。
何を歌うかという選択が、声の表情にも結びついていたのです。
2017年、後任と前任が歌を分け合う仲間になる
2017年の「Pumpkins United」ツアーでは、キスクとカイ・ハンセンが戻り、歴代の歌手が同じ舞台に立ちました。
そこへ至る前に、キスクはデリスの住むテネリフェを訪ね、二週間を共に過ごしています。
長く互いを意識しながら話す機会が乏しかった二人が、実際に会うとすぐに打ち解けた。
その関係が、新しい歌の形を支えました。
当初はツアーから始まった構想が、2021年のアルバム「Helloween」へつながります。
デリスにとって、複数の歌手がいることは、作曲の可能性が広がることでもありました。
一人では、とくにライブで歌い通せないようなボーカルの展開も書ける。
自分がすべて歌うという前提から、曲そのものが自由になったのです。
カイが書いた「Skyfall」は、三人の声を生かす大作になりました。
アルバムでは約十二分の曲ですが、映像として公開されたシングル版は短く編集されています。
声が入れ替わり、重なる構成そのものに、この編成の可能性があります。
歴代の歌手がそろう意義が、新曲の中にも刻まれました。
Skyfall(2021年・シングル編集版)
2025年以降、自分の声を保ちながら、相手の声へ近づく
2025年の「Giants & Monsters」では、再集結後の第一作にあった重圧が薄れました。
デリスは、それまででも特に落ち着いて、楽しく制作できた作品だと話しています。
再び一緒にやれることを示す段階から、その編成で自然に曲を作る段階へ進んでいました。
録音にも変化があります。
2021年作では自分の声を自分で重ねることが多かったのに対し、2025年作では、キスクの主旋律へデリスが声を重ね、その逆も行いました。
役割を分担するだけでなく、相手の歌い方へ歩み寄る関係になったのです。

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2025年11月のヘルシンキ公演では、二時間を超えるステージの中で、歌手たちが声を分け合い、互いに休める流れが生まれていました。
キスクが「Twilight of the Gods」を歌う間には、デリスがひと息つく。
二人で歌ったアコースティックの「A Tale That Wasn’t Right」には、共演ならではの場面もありました。
2026年、デリスはこの変化を、自分の曲「Hey Lord!」にも結びつけて語っています。
以前はキスク時代の難しい曲を歌うため、自分の曲の歌い方まで調整することがありました。
キスクがその歌を担う現在は、自分の声を自分の曲へ使いやすい。
舞台で技術の切り替えを考え続ける負担が減り、楽しんで歌えることが増えたのです。
デリスは、新しい声でハロウィンを支えた歌手から、異なる声が一緒に生きる形を作る歌手へと歩んできました。
その中心には、自分のメロディーを、自分の表情で歌いたいという感覚が残っています。
ほかの歌手と分け合うことで、むしろ自分らしく歌えるようになった。
それが、長い活動の先にある変化です。
曲ごとの発声や声の重ね方は、アンディ・デリス(Helloween)の歌い方で掘り下げています。

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