ヨアキム・ブローデン(Sabaton)の歌唱変遷|合唱の迫力を育て、静かな歌にも踏み出すまで

ヨアキム・ブローデン(2025年掲載のポートレート、撮影:Tim Tronckoe) シンガー
ヨアキム・ブローデン(2025年掲載のポートレート、撮影:Tim Tronckoe)

Sabatonのヨアキム・ブローデンといえば、ざらついた低い声と、大勢で歌える壮大なサビ。
その歌には、揺るがない自信を感じるかもしれません。
ところが、初期の録音では、音程やタイミングを完璧にすることに気を取られていたといいます。
後に本人が重視するようになったのは、整っているか以上に、感情が伝わるかということでした。
大きな合唱を育てた人が、やがてピアノを中心とするバラードにも踏み出す。
その道筋をたどると、荒い声を変えることとは別の、歌い手としての変化が見えてきます。

2002年の録音にあった、完璧に仕上げたい気持ち

『Metalizer』を出発点として考えるときは、録音と発売の順番に注意が必要です。
発売は2007年ですが、録音されたのは2002年。
2005年の『Primo Victoria』よりも前の歌を収めた作品です。
プロデューサーのトミー・テクグレンと取り組んだこの初フルアルバムで、ヨアキムは音程やタイミングを細かく気にしていたと振り返っています。
正しく歌おうとする熱意が、考えすぎにもつながっていました。

この話が面白いのは、完成した音の荒々しさと、作り手の迷いが同居しているところです。
声に迫力があるからといって、歌う本人が最初から何を残すべきか分かっているとは限りません。
正確な一音を積み重ねることと、一曲を通して気持ちが届くこと。
その二つの優先順位が、後の制作で変わっていきます。

「Primo Victoria」で、声を包む合唱が個性になった

2005年の『Primo Victoria』では、バンドの進む方向がはっきりします。
表題曲で形になった合唱と楽器の組み合わせは、後のSabatonの音楽を支える土台になりました。
映画『プライベート・ライアン』が曲作りのきっかけとなり、歴史上の出来事を歌う路線も具体化します。
ヨアキムの声は、壮大な物語を大勢の声とともに届ける音楽の中心に置かれました。

こうした合唱の発想には、意外な背景もあります。
幼い頃にハモンドオルガンを始めたヨアキムは、教会のオルガンも弾くようになりました。
宗教への信仰とは別に、教会音楽の響きに親しんだ経験が、合唱の組み立て方へつながっていると話しています。
重いギターだけを起点にした音楽ではなく、幾つもの声を重ねる感覚も、彼の中に育っていたのです。

2010年の『Coat of Arms』の頃には、録音の判断基準も変わっていました。
本人は、初期の完璧さへのこだわりから、多少の不完全さがあっても、感情の伝わるテイクを選ぶようになったと説明しています。

音程を軽視するようになった、という話ではありません。
直すべき箇所を探すだけでは、残したい表情まで見失うことがある。
初期を経験したうえで、録音の中のどこに価値を置くかを選べるようになったことが、この変化の要点です。
合唱を備えた堂々とした音楽と、一人の歌い手の感情を両立させる準備が、ここで進んでいました。

2012年、合唱を広げ、母語で感情へ近づく

『Carolus Rex』で組んだピーター・テクグレンは、さらに力を引き出す相手でした。
ヨアキムが良いテイクだと思っても、まだ良くできると録り直しを求める。
一方、合唱を控えるよう言われた経験のあるバンドに対しては、徹底してやろうと後押ししました。
本人が合唱を指揮し、持ち味を大きくする方向へ踏み込んだのです。

ヨアキム・ブローデン(2013年の取材写真、撮影:Johan Söderlund)
ヨアキム・ブローデン(2013年の取材写真、撮影:Johan Söderlund)。
画像出典:画像掲載元

『Carolus Rex』は、英語とスウェーデン語の二つの版が作られました。
試しに母語で作ったサビがきっかけとなり、一曲を加える案から、全編を二言語で届ける企画へ広がったのです。
同じ曲を別の言葉で歌う作業が、歌の表情を考え直す機会になりました。

翌2013年、ヨアキムは、スウェーデン語のほうが良いテイクを得やすかったと振り返っています。
自分が歌うことで涙や鳥肌が出るほどの手応えは、「Primo Victoria」のデモ以来だったといいます。
英語を扱えることと、母語で感情へ近づけることは、本人の中で同じではありませんでした。
慣れた声のまま、言葉との距離が変わったのです。

「A Lifetime of War」とスウェーデン語版「En livstid i krig」では、物語の視点にも違いがあります。
英語版が戦争を広く見渡すのに対し、スウェーデン語版は一人の若い兵士へ近づく内容です。
同じ旋律に違う単語を当てただけではなく、誰の立場から歌うかも変わる。
その違いが、二つの版をたどる面白さになっています。

「The Ballad of Bull」で、迫力を引く余地を作る

ただ、大きな音を作れるようになると、別の課題も生まれます。
ヨアキムには、「A Lifetime of War」で十分に落ち着いた場面を作れなかったという思いがありました。
次の『Heroes』で取り組んだ「The Ballad of Bull」は、その先の試みです。
歌のメロディとピアノの案を持ち込み、ドラムも幾つかの形を試しながら、曲に合う姿を探しました。
静かな曲の完成形が、初めから決まっていたわけではありません。

2014年の『Heroes』は、個々の人物へ焦点を当てたアルバムです。
「The Ballad of Bull」が描くのは、戦場で負傷者を救出したレスリー・“ブル”・アレン。
勇ましく進む場面ばかりでなく、人が人を助けた出来事を、ピアノを中心とするバラードで伝える選択でした。

ここでピアノを弾いたのは、ヨアキム本人ではありません。
自分の演奏では十分でないと考え、友人へ頼んだと説明しています。
鍵盤から音楽に入った人であっても、必要な表現のためには人の力を借りる。
一人で弾き語る姿を想像するより、歌が生きる伴奏を選んだ制作として見るほうが、この曲の成り立ちに近づけます。

この挑戦を評価したジョナサン・ヒルは、ピアノや合唱、弦によって、声が普段とは異なる環境へ置かれた点に注目しました。
勢いのある曲で示してきた説得力を、違う速さでも発揮しているという見方です。
声を別人のように変えなくても、周囲の音によって、伝わる感情は広がります。

一方で、ステラ・パパスピロプールーは、この声とバラードの組み合わせに違和感を示しました。
アルバム全体を高く評価していても、この曲の歌唱は合わないと捉えたのです。
新しい試みが、誰にとっても自然に届いたわけではありません。
荒い声が静かな伴奏へ出てくることは、魅力にも、好みが分かれる理由にもなりました。

荒い声を残したまま、歌が置かれる場面を増やす

後の「Christmas Truce」では、クリスマスの休戦という題材に合わせて、音楽と一部の言葉が一緒に形になっていきます。
ヨアキムにとって、三拍子のワルツは慣れた作り方ではなく、試行が必要だったといいます。
いつもの型に題材を入れるだけでなく、歌う物語に合わせて曲の歩み方を探す。
その姿勢は、2022年の『The War to End All Wars』にも続いていました。

カーディフ公演のヨアキム・ブローデン(2023年、撮影:Rob Wilkins)
カーディフ公演のヨアキム・ブローデン(2023年、撮影:Rob Wilkins)。
画像出典:画像掲載元

2023年のカーディフ公演では、「Christmas Truce」やモーターヘッドのカバー「1916」が、観客の感情を動かす場面として記録されています。
炎や重い演奏がある大舞台で、悲しみや連帯を伝える歌も重要な位置を占めていました。
静かな表現への挑戦は、アルバムの中だけに閉じたものではなかったのです。

ヨアキムの変遷を、声が高くなった、滑らかになったという一本の尺度で語る必要はありません。
初期の録音で正確さを求め、合唱を自分たちの形に育て、母語で感情への近さを知り、ピアノの前にも同じ声を置いてみる。
変わってきたのは、その声を何に使い、何を残すかという判断でした。
だからこそ、荒い声が続いていることと、歌の表現が広がっていることは、矛盾せずに並びます。

低い声、発音、曲ごとの歌い回しは、ヨアキム・ブローデン (Sabaton)の歌い方で掘り下げています。

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