ASAGI(D/浅葱)の歌唱変遷|物語に合わせる声から、声を中心に作る『斑』へ

ASAGI(2018年の取材掲載写真) ASAGI(D/浅葱)
ASAGI(2018年の取材掲載写真)

ASAGIの歌は、物語の登場人物に合わせて姿を変えます。
王の威厳、獣の怒り、妖の孤独。
Dでもソロでも、その役を歌うための声を探してきた人です。
ただ、ずっと同じ方法で声を作ってきたわけではありません。
合唱の響かせ方を変えた時期があり、バンド全体を考える制作から、自分の声を優先して曲を組み立てた時期もありました。
浅葱名義の『斑』へ向かう歩みは、和楽器や古語を取り入れた外観の変化以上に、歌を中心へ置き直す過程として見ると面白くなります。

Dで育ててきた、物語のために声を変える歌

2003年に結成されたDで、ASAGIは歌い手であり、作詞や曲作りも担ってきました。
2008年にはシングル「BIRTH」でメジャーデビュー。
華やかな姿と、物語性の強い音楽を結びつけるバンドの中心に、彼の歌がありました。

2010年の『7th Rose』で、すでに歌い分けの方針は明確でした。
シャウトやグロウルを使うのも、単に曲が激しいからではなく、狼の遠吠えや怒り、薔薇の棘といったイメージに合うから。
歌詞になる前の物語や登場人物の気持ちまで考え、それに合う声を選んでいたのです。

ここでは、きれいな声が本来の歌で、荒い声は飾りだという分け方はできません。
どちらも、同じ物語を届けるために必要な役です。
歌う対象が人間とは限らず、歌手自身とも違う。
後に合唱や和の歌を広げていく際にも、この役への入り方は土台として残りました。

その感覚の原点として、ASAGIが話しているのが、幼い頃に親しんだ海や森です。
遠くからでも届く動物や虫の声にひかれ、自分も海へ向かって歌っていたといいます。
歌の出発点には、人へ説明する言葉だけでなく、生き物が存在を伝える声への関心もありました。

2017年、合唱の響きにも別の選択肢を加える

『愚かしい竜の夢』では、ブルガリアを舞台にした物語が、合唱の歌い方にも変化をもたらしました。
以前から用いていたオペラ調の、喉を開く感覚の歌とは異なり、本人は細く絞ったところから出す感覚を使ったと説明しています。
民族音楽の要素を取り入れるために、声を重ねるときの音色そのものを変えたのです。

同じ大きな合唱でも、音を足して厚くすれば完成するわけではありません。
どういう声を重ねるかによって、浮かぶ場所や物語の印象も変わります。
Dらしい壮大さを保ちながら、その作り方には別の手段を加える。
この変化は、表現の型ができた後も、題材に応じて歌を作り直していたことを示しています。

ASAGI(中央)とD(2017年「Dark fairy tale」発表時)
ASAGI(中央)とD(2017年「Dark fairy tale」発表時)。
画像出典:画像掲載元

ソロは当初、Dで使っていなかった音楽の要素を試す場でした。
後にバンドにもその要素が入ると、しばらく間が空きます。
再開時には、仲間と長く歩んだDでは描きにくくなった、自分個人の暗さや孤独を表現したいという理由がありました。
歌う内容を分ける必要が強くなっていたのです。

『斑』では、自分の声から曲を組み立てた

2006年の「Corvinus」を経て、2016年には「Seventh Sense/屍の王者/アンプサイ」でソロとしてもメジャーデビューしています。
その後、浅葱名義で2018年1月に発表した初のフルアルバムが『斑』です。
バンドから離れた別の歩みが、まとまった作品として姿を現しました。

最初から、全編を和のアルバムにすると決めていたわけではありません。
世界の民族音楽を取り入れる構想の中で、「月界の御子」から日本を舞台にした物語が広がり、「物の怪草子」や「妖刀玉兎」へとつながっていきました。
一曲から次の曲が生まれるうちに、アルバムの方向も定まっていったのです。

制作でも違いがありました。
Dではメンバーの演奏を考え、他の人の曲なら、まず元のテンポやキーを生かして歌おうとする。
対して『斑』では、自分の声とメロディーを優先して曲を作りました。
テンポのわずかな変更だけで半日悩むほど、歌が生きる形を探したといいます。

自由になれば、すぐ気持ちよく歌えるとは限りません。
自分で決められるところが多くなると、どれが一番伝わる形なのか、立ち止まる時間も増える。
バンドの曲に声を合わせる努力と、声が生きるよう曲を決めていく努力は、似ているようで違います。
『斑』では、その後者の作業へ深く踏み込んでいました。

古語を歌うことも、声の選択へつながります。
浅葱が意識したのは、重心を下げ、芯を出す感覚でした。
ロックのノリに加え、艶や雅な雰囲気を表したい。
そのために、発声や表情の付け方も以前とは違うものになったと捉えています。

ここでいう重心や芯は、本人が歌を作るときの感覚を表す言葉です。
低い音だけを増やした、という意味に限定する必要はありません。
速い曲でも、気持ちが前へ走るだけではなく、場面を据えて見せる。
衣装や楽器を変えた先に、歌い手自身の表現の選び直しがありました。

初めてのソロワンマンを終えた浅葱は、普段と違う緊張があったことも明かしています。
アルバムの曲をすべて初披露する舞台は、少しずつ曲を増やしてきたDの初期とは、客席との関係も違う出発でした。
慣れたメンバーが支える安心と、初共演の相手と歌う新鮮さが同時にあった。
一人の名義で作品を出すことは、録音を終えた後も、歌う自分の立ち位置を確かめる経験になっていました。

孤独を歌う場所ができても、Dの表現は止まらない

2018年の本人は、Dを仲間との旅、ソロを基本的には一人の旅として説明していました。
両方とも自分の表れであり、絆と孤独をそれぞれに描く。
和の公演では以前の洋のソロ曲も混ぜず、その場で歌う世界をはっきりさせる方針でした。

だから、浅葱が生まれたことを、Dの歌い方から離れた出来事とだけ捉えると、少し狭くなります。
自分の中にあるものを、別の場所で十分に表現できるようにした。
そのうえで、Dでも、新しい役に合う声を探す姿勢は続いていきます。

2020年の「Hard Koala」では、コアラを基にしたキャラクターが、新しい歪んだ声のきっかけになりました。
環境破壊への怒りを歌う曲で、本人はディストーションヴォイスと呼んでいます。
ドラマーのHIROKIは、仮ミックスを聴いて別人だと思い、サビでようやくASAGIだと気づいたと話しました。
長く一緒に音を作る相手にも、新鮮な声だったのです。

初期から声を使い分けていた人が、その方法を固定せず、また違う歌い方を加える。
ここでも出発点は、新しい技を見せたいという話より、どんな存在の気持ちを歌うのかということでした。
表現する役が増えるたびに、必要な声を考え直しているのです。

作品の人物と、自分自身をつなぐ声へ

Dは2024年3月の公演をもって無期限の活動休止に入り、ASAGIはソロへ力を注ぐようになります。
2025年にはASAGI名義の新作も発表。
「Another me」では、現実の自分と、それまで描いてきた物語の人物を重ねる発想を語っています。
和の表現を得た後も、創作の行き先を一つに絞ったわけではありません。

浅葱(2025年2月12日、Zepp Shinjukuの公演)
浅葱(2025年2月12日、Zepp Shinjukuの公演)。
画像出典:画像掲載元

2025年2月の浅葱の公演では、『斑』の「妖刀玉兎」がツインドラムとの特別な編成で演奏され、能を思わせる歌声が舞台を作りました。
「アサギマダラ」も終盤を担っています。
2018年に築いた声の表現は、その後の公演でも、編成や新しい物語と出会いながら生かされていました。

ASAGIの変化は、昔の歌い方を捨てて、一つの新しい声を得るという一本道ではありません。
物語のために声を変える土台を持ち、合唱の音色を探り、自分の声を中心に曲を決める制作へ踏み込み、別の役にも挑み続ける。
作品ごとに違う姿を取る声の奥には、何を歌うべきかを考え直す、同じ歌い手がいます。

裏声や多重コーラス、口の開け方など、具体的な声の選択は、ASAGI(D/浅葱)の歌い方で掘り下げています。

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