岡本信彦の歌声の変遷|役として歌う経験を、自分の音楽へどう生かしてきたか

2023年「Fondant」の取材に掲載された岡本信彦 シンガー
2023年「Fondant」の取材に掲載された岡本信彦

岡本信彦の歌を、声優が演技の力で歌う音楽、とまとめるだけでは見えてこないことがあります。
台詞を思わせる歌い方に苦労した時期があり、反対に、演技をどこまで加えるかを自分で調整した作品もある。
本人名義の音楽の中で、役を演じる経験と、自分の声に合うメロディーが、少しずつ違う関係を結んできました。
その歩みは、難しい曲を歌えるようになったという一本道より、歌の中でどんな自分を見せるかを選ぶ過程としてたどると面白くなります。

2011〜2012年、役として歌う経験から、自分の名前の作品へ

ソロデビュー前の2011年、岡本は『プリティーリズム・オーロラドリーム』のワタル役として、Callingsの歌に参加していました。
共演する歌い手への緊張もあり、録音ではキャラクターを大切にしたと振り返っています。
歌うことで役の輪郭をつかめたという話からは、歌が演技の延長にあるだけでなく、人物を理解する入口にもなっていたことが分かります。
録音はアニメ第1話の収録と同じ日で、まだ人物を作っている途中でした。
出来上がった役の声を歌へ移すだけではなく、歌いながら役を探す場面だったのです。

2012年5月23日、ミニアルバム『Palette』で本人名義の音楽活動が始まります。
キャラクターの名前で届ける歌とは、聴き手が受け取る枠組みも変わりました。
ここからは岡本信彦という歌い手の作品として、曲と声の関係が積み重なっていきます。

同じ人が歌っていても、登場人物の背景を知ったうえで聴く歌と、歌そのものから人物像を受け取る作品では、入口が違います。
岡本のソロを考えるうえで大事なのは、この二つを混ぜてしまわないこと。
役として積んできた経験が、そのまま一種類の歌い方になるわけではないのです。

2017年「サクラメント」の撮影現場での岡本信彦
2017年「サクラメント」の撮影現場での岡本信彦。
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2017年、「サクラメント」で直面した、台詞と歌の間

『バチカン奇跡調査官』のエンディングを担った「サクラメント」は、本人名義でアニメの主題歌を歌いたいという希望がかなった作品でした。
一方で、岡本は三拍子や裏拍からの入り、台詞のように歌うことの難しさを挙げています。
当時の持ち歌の中でも、とりわけ難しい曲だと受け止めていました。

台詞を表現する経験が豊富でも、音楽の時間に合わせて言葉を置くことには、別の難しさがある。
この曲の話は、その違いをよく示しています。
どんな気持ちを乗せるかに加えて、どこで声を出し、どの長さで言葉を収めるか。
役を演じる時の自由さを、決まった旋律の中へどう持ち込むかという課題が、具体的な形で現れたのでした。

2020〜2021年、演じる自分と、声に合う曲を並べる

岡本が長く望んでいた柿原徹也との共演は、2020年の『trust and play』に結実しました。
最初に曲を一つへ絞れずにいた岡本へ、柿原が曲数を増やす提案をし、作品が広がっていきます。
岡本の提案曲「Dear chooser」には台詞も組み込まれました。
柿原は、個人名義でありながら、その歌を歌っている自分を演じるような作品だと説明しています。
二人で歌の中の人物像を作ることも、音楽活動の一つになりました。

翌2021年の『Chaosix』では、壮大な伴奏に失恋の物語を重ねた「2人いるパズル」と、声に合うと感じた「Overture」が同じ作品に収まります。
後者は岡本自身が録音で歌いやすさを感じ、スタッフも声との相性を評価した曲でした。
ファン投票でリード曲となり、初期の「未来スケッチ」を思い出す声もあったといいます。

ここでは、演技的な歌へ進んだから初期の明るい音楽を卒業した、という順序にはなっていません。
曲の物語へ踏み込む歌と、自分の声を素直に置ける歌が、同時に選ばれています。
表現の幅が広がるとは、以前の持ち味を捨てることだけではない。
別の歌い方を手にした後でも、原点に近い感触を、新しい作品の中心に置けるのです。

2022年、カバーの中で演技を加減する

10周年の『十bilation』では、ネットの音楽文化でも親しまれてきた楽曲を取り上げました。
「KING」は本人名義でライブでも歌うことを考えつつ、2コーラス目に芝居の要素を加えています。
一方、「ゴーストルール」では、孤独な人物像を思い描きながらも、芝居が強く出すぎない加減に悩んだと話しています。

同じアルバムでも、演技を足す曲と、その強さを抑える曲がある。
2017年に台詞風の歌の難しさを語っていたことと並べると、ここでの問いの違いが見えてきます。
表現を音楽へ収める難しさに加えて、どこまで演じれば曲に合うのかを考える。
演技は歌全体を一色に塗る方法ではなく、必要な場面へ置くものになっています。

この節目には、歌う内容にも過去とのつながりが生まれました。
岡本はそれまで、聴いた人を励ます詞を書くことが多かったと振り返っています。
「思い出ミュージアム」では、デビュー作にも曲を提供した増田武史に、活動の集大成となる曲を依頼しました。
自分の歩みを聴き手と共有することも、10年目の歌が担った役割でした。

2022年『十bilation』の取材に掲載された岡本信彦
2022年『十bilation』の取材に掲載された岡本信彦。
画像出典:画像掲載元

2023年以降、声の個性を、曲へ入りやすい形に整える

2023年の「Fondant」では、ダンスを軸に、新しく聴く人にも入りやすい音楽を目指しました。
囁きに対し、別の箇所ではかすれ声を試す案もありましたが、曲に合わず変更しています。
声の違いを見せることより、曲の中で自然に働くかが、判断の軸になりました。

2025年のシングル『綺羅桜』では、和の曲を増やし、ライブでもまとまったコーナーを作れるようにしたいという考えがありました。
収録曲「万華鏡」では、言葉を詰め込むデモから、音を伸ばせる歌詞へ変更を依頼しています。
歌い方を変えるために、歌う前の言葉の設計にも手を入れた例です。

この流れでは、声の音色を変えることと、声を置く場所を変えることがつながっています。
囁きが合う曲なら、その小さな声の中で違いを作る。
旋律をゆったり見せたい曲なら、詰める言葉の数を調整する。
大きな声や強い演技を増やすだけではない選択が、音楽の幅を支えているのです。

2026年にも岡本は、キャラクターソングでは、役の声を起点に歌うと説明しています。
ソロで表現が増えても、役としての歌をすべて自分の持ち味へ引き寄せるわけではありません。

岡本信彦の変遷は、役として歌う経験を出発点の一つに、本人名義の作品でその経験の使い方を探してきた歩みといえます。
台詞に近い表現も、声に合う爽やかな曲も、囁きも、それぞれに居場所がある。
何でも演技で押し切るのではなく、曲ごとに演技と歌の距離を決める。
そこをたどると、作品のジャンルが変わっても続いている、岡本らしい選び方が見えてきます。

曲ごとの声の選び方は、岡本信彦の歌い方で掘り下げています。

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