ラナ・デル・レイの歌声の変遷|低い声を見つけた歌い手が、思いのままに語るまで

2023年の取材記事に掲載されたラナ・デル・レイ(写真:Chuck Grant) シンガー
2023年の取材記事に掲載されたラナ・デル・レイ(写真:Chuck Grant)

ラナ・デル・レイの歌声には、遠い映画から聞こえてくるような印象と、すぐ隣で打ち明けられるような近さがあります。
低い声のイメージは強くても、歩みを追うと、それだけを守り続けてきた歌い手ではありません。
低音を発見し、即興の揺らぎを残し、ときには高いささやきで歌う。
変わってきたのは、何をきれいに整え、何をそのまま届けるかという選択でもありました。

低い声は、最初から唯一の持ち味だったわけではない

ラナは18歳でニューヨークへ移り、ブルックリンのクラブで歌い始めました。
2011年の「Video Games」で広く知られる前にも、歌を作り、人前で届ける時間を重ねています。

もともとは高い声で歌っていたと、本人は振り返っています。
転機になったのがキャット・パワーの低い歌声でした。
その歌い方を練習するうち、自分にも低い音域があると気づいたのです。

ここから分かるのは、後の低音が、単に生まれ持った声をそのまま出した結果ではないことです。
惹かれた歌い手を手掛かりに、自分の声の別の場所を探した。
その発見が、ラナの歌を特徴づける大切な選択肢になりました。

2011〜2012年、「Video Games」で低音を歌の中心へ

「Video Games」の制作では、プロデューサーのブランドン・ロウリーらが、低い声の魅力を中心に据えました。
デモよりテンポを落とし、歌い回しや旋律の細部を試しながら録音しています。
およそ20回の歌唱を重ね、声を大量に積むより、主旋律の一声を軸にする形へ整えました。

ただし、本人にとって、この曲は悲しみ一色ではありませんでした。
恋人と暮らす日々の満ち足りた感覚と、夢を見失っていく寂しさが同居する歌だったと説明しています。

低く歌えば、それだけで物憂い世界になるわけではありません。
ゆっくり進む曲の中に、安心とためらいの両方を置く。
声の高さ、時間の流れ、言葉の気持ちが結びついて、ラナの歌の入口が形になっていきました。

2014年、歌い直さないことで残せた表情

『Ultraviolence』に収めた「Pretty When You Cry」は、ギタリストのブレイク・ストラナサンと、その場で作った曲です。
彼がスタジオでコードを試していたところへラナが入り、予定していなかった歌が生まれました。

ラナはこの録音について、声の抑揚そのものに物語があり、歌詞だけがすべてではないと話しています。
後からもっと上手に歌い直そうとしなかったことにも、意味がありました。
完璧でなくても、その瞬間の歌を残すことを選んだのです。

「Video Games」で細部を何度も探ったことと、ここで歌い直さなかったことは、矛盾しません。
どちらも、その曲に必要な声を見つけるための判断です。
完成度を上げる方法が、録り直すことだけではなくなった。
整える前の声にも、他のテイクでは置き換えにくい表情があると示した転機でした。

2015年、声を包む響きまで物語にする

2015年『Honeymoon』の取材記事に掲載されたラナ・デル・レイ(アーティスト提供)
2015年『Honeymoon』の取材記事に掲載されたラナ・デル・レイ(アーティスト提供)。
画像出典:画像掲載元

『Honeymoon』では、リック・ノウェルズと日々スタジオへ入り、曲を育てました。
行き詰まっても無理に押し通さず、別のアイデアへ移れることを、ラナは彼のよさとして挙げています。
作品の雰囲気そのものを物語にする考えも、この時期の大切な軸でした。

ノウェルズによると、出発点にはジャズのアルバムを作りたいという希望がありました。
「Honeymoon」や「Terrence Loves You」では、強いビートで押すより、ゆったりした演奏とオーケストラを選んでいます。

ゆったりと歌うための余白は、伴奏との関係からも生まれます。
「Video Games」でゆっくりした曲の中心へ声を置いた人が、今度は、声を包む響きまで作品の物語にしようとする。
低音という持ち味を繰り返すだけでなく、その声がどんな世界にいるのかを、作品ごとに育てていたのです。

2019年、静かな声で、よりはっきり語る

『Norman Fucking Rockwell!』では、ピアノやアコースティックギターが歌声を引き立てます。
「Mariners Apartment Complex」などで印象を残すのは、穏やかな歌声と率直な言葉の対照です。
大きな声で強調するだけでなく、静かな歌のまま言い切る力が前へ出てきました。

制作をともにしたジャック・アントノフも、この時期、個人的な言葉なら、目の前で話しているように近く届けたいという考えを語っています。
一方で、大きな考えを響かせたいときは、声を重ね、残響を深くする。
語る内容に応じて、声との距離を変える発想でした。

歌声の変化を、声質が明るくなった、低くなったという物差しだけで見ると、この時期の面白さは捉えにくくなります。
柔らかな声でも、言っていることは曖昧ではない。
その組み合わせによって、聴き手は雰囲気に浸りながら、語りかけられる言葉にも向き合うことになります。

2021年、「White Dress」で高いささやきを残す

「White Dress」のサビでラナは、細く高い声で、言葉を急ぐようにささやきます。
低く深い声とは、ずいぶん異なる表情です。

『Chemtrails over the Country Club』の「White Dress」は、アントノフが弾くピアノにラナが歌を重ね、その場でほぼ一曲が生まれました。
後から重唱を加えるなどの変更はしたものの、本人は、あまり編集を考えずに自分を表せた感覚を大切にしています。

この曲のささやくような歌について、ラナは、サビでの自分の声が整った歌唱ではないことも認めていました。
それでも残したのは、日記を書くように出てきた歌だったからです。
当時の取材でも、その揺らぐような声が、何かの始まりを前にした気持ちと結びつけて受け止められています。

低音で印象を残した歌い手が、高いところの頼りなさも作品へ迎える。
ここにあるのは、単純に高音が出るようになったという変化ではありません。
きれいに聞こえるかだけで歌を選ばず、その声だから伝わる気持ちを優先できるようになった、表現の広がりです。

2022〜2023年、思いついた言葉の速さへ音楽を合わせる

次の制作では、頭に浮かんだ言葉を選別せず、スマートフォンへ歌う方法を試しました。
途中で止まったり、つまずいたりした録音をドリュー・エリクソンへ送り、彼が言葉の細かな動きに合わせて演奏を加えていきます。
本人が会話に近いと説明した歌は、2023年の『Did You Know That There’s a Tunnel Under Ocean Blvd』につながりました。

前作『Blue Banisters』を、自分について説明する性格の強い作品だったと振り返ったラナは、次の作品では日々の出来事や身近な人々へ目を向けます。
「A&W」についてアントノフが語ったのも、定まったジャンルを守ることより、作っている瞬間に意外性を見つける姿勢でした。

整った短い歌へ、後から気持ちを収めるのではない。
言いたいことの長さやためらいを受け止め、その流れに音楽をつけていく。
昔からあった即興の感覚が、歌詞と旋律の形そのものを自由にする方向へ進んでいきました。

2025〜2026年、語りの親密さと、物語を開く声

2025年の取材記事に掲載されたラナ・デル・レイ(写真:Steven Meisel)
2025年の取材記事に掲載されたラナ・デル・レイ(写真:Steven Meisel)。
画像出典:画像掲載元

2025年には、カントリーに惹かれる理由を、その語りの力と世界を作る面白さに結びつけています。
以前から歌っていたタミー・ワイネットやボビー・ジェントリーの曲も、自分の音楽を考える手掛かりになっていました。

2026年2月の「White Feather Hawk Tail Deer Hunter」は、家族と共作し、アントノフやエリクソンと仕上げた曲です。

そこで選ばれたのは、ささやきと語りを行き来する歌い回しでした。
オーケストラの響きと、ラップにも近い声の運びが組み合わされています。

同年4月には、ゲーム『007 First Light』の主題歌「First Light」をデヴィッド・アーノルドと作りました。
アーノルドは、物語の世界へ聴き手を誘う主題歌に、ラナならではの雰囲気と個性が加わったと述べています。

ラナの歌声は、内面を近くで伝える方向へ進みながら、大きな物語の入口にもなれる声です。
低音、ささやき、その場で生まれる抑揚は、古い時期を置き去りにするための道具ではありません。
曲が求める距離へ戻り、別の高さへ移り、必要なら整えすぎずに残す。
その自由が増えていくところに、ラナ・デル・レイの歌声の変遷があります。

曲ごとの低音やささやき、語るような声の選び方は、ラナ・デル・レイの歌い方で掘り下げています。

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