アレックス・ウォーレンの歌い方|低い声から大きなサビへ、感情が届く声の使い分け

2026年『WILDCHILD』発表時のアレックス・ウォーレン。撮影:Jack Dytrych アレックス・ウォーレン
2026年『WILDCHILD』発表時のアレックス・ウォーレン。撮影:Jack Dytrych

アレックス・ウォーレンの歌を、太く力強い声だけで説明すると、大切な部分が抜け落ちます。
低いところから高いところへ移る瞬間、本人の声と重ねられた声の関係、そして感情が揺れた歌唱を残す判断。
大きな歌を作っているのは、声量だけでなく、一曲の中でどんな声を選ぶかという積み重ねです。

「Ordinary」は、低いところから跳び上がる

「Ordinary」のサビは、低い位置からオクターブ上へ移る形です。
制作したアダム・ヤロンたちは曲のキーを試し、最後には高すぎると感じた段階から半音下げ、ニ長調で本人の歌を録りました。

オクターブは、同じ音の名前のまま高さが大きく変わる間隔です。
低い音と高い音を隣り合わせにすると、その落差そのものが歌の動きになります。
高音を長く並べる場合とは異なり、直前の低い声があるから、上へ移った時の広がりが際立つ構造です。

本人も、自分の曲にはオクターブを跳ぶ動きが多く、歌うのが難しいと説明しています。
調子が悪い時にキーを下げれば高い部分は楽になる一方、低い部分が難しくなる。
曲全体の高低を引き受けて歌っていることが分かる言葉です。

ここでは「高い音が出るか」だけを見るより、低い場所をどう歌い、そこからどこまで移動するかを見ると歌の形がつかめます。
曲の頂点を支えているのは、その前にある低い音でもあるからです。
録音時のキーの選択も、最後の高音だけを競う発想では理解しにくいところでしょう。

本人の声と、合唱の厚みを分けて考える

「Ordinary」の合唱を歌ったのは、ヤロン、カル・シャピロ、マグス・デュヴァルの3人です。
合唱を先に作り、その大きな響きの中で本人に歌ってほしかったとヤロンは説明しています。
キーを決め直す際、録った合唱の高さは半音下げていますが、本人の主旋律は決定したキーで歌ったものです。
本人の歌は強弱が大きく、録音でもその音量差を扱いながら声の質感を捉えていました。

「Ordinary」の共同制作者たち。左からカル・シャピロ、マグス・デュヴァル、アレックス・ウォーレン、アダム・ヤロン
「Ordinary」の共同制作者たち。左からカル・シャピロ、マグス・デュヴァル、アレックス・ウォーレン、アダム・ヤロン。
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ここには二つの大きさがあります。
一人の歌唱の中で声が強くなったり弱くなったりすることと、複数の声を重ねて響きに広がりを作ることです。
完成した曲では一緒に届きますが、声を重ねることで生まれた厚みを、一人が出している声量と同じものとして受け取ると、歌い方の見え方が変わってしまいます。

主役の歌が前へ出る場面でも、その周囲にある声の支えを考えると、力強さの理由を細かく見られます。
一人で全部を押し切るように歌うことだけが、大きなサビを成立させる方法ではありません。
ウォーレンの歌唱の強弱と、制作側が用意した声の景色が組み合わさっているのです。

粗い声が、別の声と重なるとき

ROSÉと歌う2025年の「On My Mind」では、声の違いが組み合わせの軸になります。
ウォーレンの重く粗さを帯びた声に対し、ROSÉは軽く柔らかい声で応じる。
彼女へ歌が渡り、再びウォーレンが加わることで、異なる質感が一緒になる構成です。

同じような響きへそろえることだけが、デュエットの一体感を作るわけではありません。
低く重い声があるから、軽い声の入り方が分かりやすくなる。
その軽さが加わると、ウォーレンの声も、単独で強く歌う時とは違う関係の中に置かれます。
粗さは消すべき欠点ではなく、もう一人の歌との違いを作る要素になります。

一人で歌う初期の「Headlights」でも、静かなヴァースと大きなフックを対比させ、ブリッジでは自分の声を重ねています。
声の重ね方は、後から突然現れた飾りではありませんでした。

「Headlights」なら一人の感情の中に強弱や重なりを作り、「On My Mind」なら相手の質感との間に変化を作る。
声が太いという一つの特徴も、組み立てによって担う役割が変わります。
この違いを見ると、彼の力強さを、いつも同じ強さで歌うことと区別できます。

2025年の取材に掲載されたアレックス・ウォーレンのライブ写真
2025年の取材に掲載されたアレックス・ウォーレンのライブ写真。
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歌が揺れた瞬間を、録音に残す

2026年の「I MISS YOU MORE」は、ほぼ一度の歌唱を生かして仕上げた曲です。
本人は、2番で泣き始めていると説明しています。
父が残した映像を見返していた時期に作った歌で、その時に起きた感情が録音にも残りました。

この話は、強い気持ちを表すために、決まった場所へ泣き声を付け足すという説明とは違います。
本人がその歌を歌った時に生じた揺れを、完成した作品の一部として残したということです。
きれいに整った声だけを選ぶと失われるものを、この録音は持っています。

「Headlights」の発表当時にも、優しい音色から、泣き声を思わせる響きを帯びて歌い上げるところまでが特徴として評されていました。
感情と結びつく声の質感は、近年の一曲だけに見られるものではありません。

ただし、歌唱表現として泣くように響くことと、本人が実際に泣き始めた録音は分けて捉えたいところです。
前者では歌の強弱や音色の動きが、後者ではそのテイクを残した判断が手掛かりになります。
同じ「感情的な歌」という言葉でも、具体的に何が起きたのかを見ると、表現の中身が違ってきます。

声を伸ばすだけでなく、リズムを動かす

ウォーレンには、言葉とリズムの勢いへ向かう曲もあります。
2025年の「You Can’t Stop This」については、本人がラップのようなところがある曲と説明し、ライブで皆が跳びはねる楽しさを語っていました。
大きなバラードだけが、彼の歌の選択肢ではありません。

さらに『WILDCHILD』の「WON’T GO BACK AGAIN」では、ビートボックスや声を打楽器として扱う要素が表れます。
長い旋律を歌う声とは別に、声そのものがリズムの材料にもなる曲です。

この曲を作った時、本人が求めていたのは、ライブやスケートボードの前に気分を上げるための歌でした。
声の働き方が変わる背景には、聴き手にどんな気分でいてほしいかという、具体的な用途もあります。

余韻を長く引いて気持ちを伝える歌と、音を刻んで体が動く勢いを作る歌では、声が担う仕事が変わります。
こうした曲まで視野に入れると、ウォーレンの歌を、低い声から高いサビへ盛り上げる一つの型だけに閉じ込めずに捉えられます。

その裏側で、本人は歌のレッスンを週に3回、時にはそれ以上受け続けていると話しています。
音楽理論も学び、録音の際に自分の声へどんな処理が行われているかにも関心を持つ。
感情を歌うことと、声や制作について学ぶことを、彼は並行して続けています。

低い声の存在感を出す、そこから高く跳ぶ、別の声へ受け渡す、揺れたテイクを残す。
そして、声をリズムとして動かす。
アレックス・ウォーレンの歌い方は、どれか一つの音色を守ることより、自分の声をどの場面でどう働かせるかに特徴があります。
だから、大きく歌い上げる瞬間にも、その前後の小さな選択をたどる面白さがあるのです。

自分の声への迷いや、ライブを重ねる中での変化は、アレックス・ウォーレンの歌唱変遷でたどっています。

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