chelly/recheの歌声の変遷|楪いのりを歌う声から、自分の表現を選ぶまで

2021年12月に配信された初ライブで歌うreche chelly/reche
2021年12月に配信された初ライブで歌うreche

EGOISTの歌声を担ってきたchellyは、ソロのrecheとして歩き始めた頃、声にもっと張りが欲しいと考えていました。
聴き手に寄り添う歌だけでなく、力強く背中を押す歌も歌いたい。
長く活動してきた歌手が、声の出し方から新しい可能性を探し始めたのです。

ただ、その歩みは、儚い声が強い声に置き換わったという話ではありません。
誰の気持ちを歌うのか、どこまで自分を出すのか。
作品ごとに考えてきた境界線が、歌い方を選ぶ自由へとつながっていきます。

2011〜2012年――いのりを演じる歌に、最初から本人の個性があった

chellyは2011年、約2,000人が参加したオーディションを経て、EGOISTのボーカリストとしてデビューしました。

アニメ『ギルティクラウン』の楪いのりは、普段は感情を表に出さず、音楽を通して気持ちを表す人物です。
その歌声を担当するchellyには、単に自分の感情を大きく出すのとは違う役割がありました。
一方、ryoが彼女を選んだ理由も、用意していた「Departures ~あなたにおくるアイの歌~」が、その声で歌われた時にしっくり来たからでした。

決まった人物を演じることと、本人らしさを消すことは、ここでは同じではありません。
いのりの歌を成立させたのは、誰でも交換できる無色の声ではなく、chellyの声だったのです。

2012年のアルバム制作では、まず簡素なデモに歌を入れ、その歌から編曲を考え、改めて録音する進め方もしていました。
「原罪の灯」は、試しに歌った時の節回しや伸ばし方をryoが気に入り、冒頭をアカペラに変更しています。
曲へ声を合わせるだけでなく、声が曲の形を変える関係が、早くから生まれていました。

「名前のない怪物」で、別の作品をいのりとして歌う難しさに出会う

『ギルティクラウン』の外へ出た「名前のない怪物」では、新しい問いにぶつかります。
『PSYCHO-PASS サイコパス』の世界を理解しながら、それでも楪いのりとして歌うにはどうしたらよいのか。
本人はこの経験から、初期とは異なる曲への向き合い方を学んだと振り返っています。

作品の主人公になりきれば済むわけでも、自分自身として歌えば済むわけでもない。
別の物語を受け止めたうえで、いのりならどう表すかを考える必要がありました。
EGOISTが活動の場を広げることは、歌い手にとって、演じる人物と曲との関係を何度も組み直すことだったのです。

2014〜2016年――手持ちの歌い方で足りない曲へ挑む

2014年の「Fallen」では、シャウトのように聞かせる声へ挑戦しました。
参考の映像を示されて練習し、声を絞る感覚や息を多く混ぜる方法などを試しています。
これまでの歌い方をそのまま当てはめるだけでは仕上がらない曲でした。

2015年のシングル『リローデッド』には、劇場アニメ三作品に向けた、性格の違う三曲が収められました。
重い言葉を一つずつ置く「リローデッド」、悲しい内容でも悲壮感ばかりにしない「Ghost of a smile」、本人が得意な曲調だと話した「Door」。
同じ期間の録音でも、曲への入り方から切り替える必要がありました。

さらに2016年の「Welcome to the *fam」では、ラップに取り組みます。
通常は一、二日で終わる録音前の準備が四回ほどになり、メロディーも歌詞も変更を重ねました。
ライブでは動きながら歌えるように、振付師と振りを減らしたり増やしたりして調整しています。

声だけを新しくすれば終わりではなく、言葉を覚え直し、身体の動きと歌を両立させる。
この時期の挑戦には、そうした地道な作業が伴っていました。
未知の曲に出会うたび、録音で歌えることと、舞台で届けられることの両方を確かめていたのです。

2017〜2018年――歌い切る必死さから、表情を探す余裕へ

2017年の「英雄 運命の詩」では、本人が難曲だと感じながらも、日本語版の録音は意外なほど早く終わりました。
以前は曲に沿って歌うだけで精いっぱいだったのが、自分で歌い方を考え、試せる余裕ができていたのです。
本人がその背景として挙げたのは、『リローデッド』の三曲、オーケストラや合唱の中で歌う「KABANERI OF THE IRON FORTRESS」、そしてラップへの挑戦でした。

作品ごとに困った経験が、次の曲で使える判断になっていく。
難しさがなくなったのではなく、難しい曲の中で何を表せるかまで、考える時間が生まれています。

2018年に菅野よう子と制作した「星と翼のパラドクス」でも、その反応の速さが印象を残しました。
事前に知らされた一曲に加え、当日渡された四曲も歌ったchellyに、菅野は、言葉と旋律からすぐに歌の本質をつかむ力を感じたと話しています。
chelly自身は、歌詞の人物の気持ちや表現の方向が浮かび、感覚で歌うと説明しました。

作り手が変わっても、曲の中の人物を声にする姿勢は続いていました。
次に大きく動くのは、その人物が自分自身だった時の歌い方です。

2021〜2022年――recheで、自分のために声を育て始める

2021年、ソロプロジェクトrecheを始めた時、本人は、自由に表現へ挑戦したいと語っています。
一方で、自分が何を伝えたいのかは、まだ明確ではありませんでした。
得意なのは曲から受け取ったものを表すこと。
自分自身の表現は、活動しながら見つけていこうとしていたのです。

同年12月の初配信ライブでは、生身の自分として立ち、生バンドと息を合わせる経験にも緊張したといいます。
EGOISTで舞台に現れるいのりは、本人のアバターではなく、別の人格を持つ登場人物です。
その歌声を担当してきた人が、自分の姿で演奏者と並ぶ。
この違いは、単に顔が見えるようになったという変化より大きなものでした。

2021年12月配信の初ライブで、バンドと同じ舞台に立つreche
2021年12月配信の初ライブで、バンドと同じ舞台に立つreche。
画像出典:画像掲載元

2022年1月に発表した「imagination」は、自分の心情に沿う曲だったため、かえって戸惑いました。
いつものように登場人物を考える必要がなく、考えすぎると作り物になりそうだと感じ、今の気持ちのまま自然に歌ったのです。
また、この頃には声の張りを増やすため、ボイストレーニングにも取り組んでいました。
従来は力強い声が役の世界を損なう場合もありましたが、ソロではその声も育てたいと考えるようになっています。

自分で表したいものを探すことと、そのための声を増やすことが、一緒に動き出しました。
与えられた難曲を越えてきた経験に、自分の希望で課題を選ぶ経験が加わったのです。

2023年――自分の希望を、録音の細部まで伝える

2023年のソロアルバム『gallery#101』では、自分の実体験を詞にした「IF」や、社会への怒りを書いた「Liar!」も収録しました。
声だけで役を演じるところから、何を歌にするかにも本人の内面が入ってきます。

同年、EGOISTの「当事者」では、曲を理解するのと同時に、こんな表現をしたいという希望が湧いたと話しています。
細かく息を入れる提案にも、その箇所で技巧を見せることが必要なのかと意見を交わしました。
自分の解釈を持ち、制作側と調整することが、歌の仕上がりに関わっています。

カバーアルバムの制作でも、意図する表現を守るため、変えたくない部分を伝えられるようになったことを成長として挙げました。
さらに「大丈夫」などを人前で歌ううちに、歌詞の相手を客席に重ね、新しい気持ちで歌えることも知っています。

2023年の取材に掲載されたreche
2023年の取材に掲載されたreche。
画像出典:画像掲載元

役の気持ちを読み取る力は残しながら、その解釈を他の人に任せきらず、声の細部まで話し合う。
受け止めることに長けた歌手が、何を残したいかも言葉にするようになったのです。

EGOISTは2023年10月の横浜公演をもって活動を終了しました。

その後も歌手として歩みを続け、2026年にはchellyとして再始動しています。

名義の変化以上に、歌唱の歩みをつないでいるのは、曲から受け取った気持ちを、どの声で形にするかという問いです。
いのりとして歌うために考え抜いた経験は、自分を表す歌にも、他の人の曲を歌う時にも生きています。
その声の選択を、息の混ざり方や強弱、声の揺れから掘り下げるのが、chelly/recheの歌い方です。

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